2007年9月6日木曜日

そして今は(イ・アオラ・ケ?)


 マニュ・チャオ『ラ・ラディオリーナ』
 MANU CHAO "LA RADIOLINA"
 
 「ロック&フォーク」誌9月号のマニュ・チャオ記事(ニコラ・アシン筆)の序文が興味深いです。「70年代から音楽ジャーナリズムにひとつの格言があって,それは今日もまだ核心を突いている。それによると世界は大きくふたつのカテゴリーに分けられ,一方にはブルース・スプリングスティーンが嫌いな人々,他方にはスプリングスティーンのライヴを見た人々。これはマニュ・チャオにこそよりよくあてはまる」。 マノ・ネグラであろうがラジオ・ベンバであろうが,マニュのライヴを見た人たちは,グレッチのギターがやたら大きく見えるこの小さい体の男は,世界一のロックンローラーであるということを疑わないでしょう。私はこの男のライヴを見たことがない人たちは不幸な人々であると言い切ることができます。
 スタジオ録音のアルバムは初ソロの『クランデスティーノ』(1998)から,そのエネルギーの塊みたいな姿とあまり縁のない作品を作ってきましたが,それはそれでマニュの持つメランコリックな部分を表出するために必要な表現手段であったと思います。メランコリックなソロアルバムが2つ続いたあと,さあ次は(イ・アオラ・ケ?)とラジオ・ベンバ的なものを期待した人たちも多かったでしょう。しかしこのソロ3枚目の『ラ・ラディオリーナ』も,ラジオ・ベンバのライヴと似つかない「小音量」ソロアルバムでした。これはマニュ・チャオが「スタジオの顔」と「ライヴの顔」をはっきり使い分けているのでしょう。言わば "DOUBLE-JE"なんですが,その両方が極上なのですから,何も文句はありまっせん。
 そしてこの『ラ・ラディオリーナ』は『クランデスティーノ』の黒々としたメランコリアに比すれば,たいへんなモラルの上昇加減が感じられます。スタジオで音と遊んでいる雰囲気も,マニエリスム的な『クランデスティーノ』と『プロキシマ・エスタシオン』に比べれば,繰り返し引用もずいぶん少なくなったようで,アイディアの豊富さの方が勝っている感じがうれしいです。
 そして戦闘的なメッセージはさらにわかりやすく,グローバリゼーション,政治汚職,ブッシュの覇権主義,環境汚染などを糾弾します。「環状道路にクルマがいっぱい」と歌う「パニックパニック」(14曲め)は残念なことに語呂遊びも風刺もかなり弱いですね。「政治は殺す(ポリティック・キルズ)」(3曲め)はボブ・マーリー讃歌「ミスター・ボビー」の再引用ですが,これくらいわかりやすい政治メッセージの方がマニュ・チャオの本領だと思います。もうひとつの世界は可能だ,ともっと言ってください。
 しかしこのアルバムでもっと印象的なのは,哀愁のトランペットや泣きのレキントギターなどが響くヒスパノ的でラテン的なバラードもので,「マラ・ファマ(悪い噂)」(13曲め)や,マラドーナ哀歌「ラ・ビーダ・トンボラ」(12曲め)が美しいです。
 先行でオフィシャルサイトで公開された「レイニン・イン・パラダイズ」(3曲め)のようなロックモードの曲は,4曲ほど入っているんですが,ギターの音はみんな相互引用で,どれもみな変奏曲という感じのマニュの茶目っ気が利いています。
 世界規模のヴィジョンを日曜大工的なこれだけの音とこれだけの材料で表現できるのですから,脱帽ものですね。続けてください。ライヴに行きます。次作も買います。トータル・リスペクト。
 .... PS:今CDにエンヘンストされている映像"TEVELINA"を初めて見ました。本当の地球人,そんな言葉が浮かんできました。

<<< Track List >>>
1. 13 Dias
2. Tristeza maleza
3. Poltik Kills
4. Rainin in Paradize
5. Besoin de la lune
6. El Kitapena
7. Me llaman calle
8. A Cosa
9. The Bleedin Clown
10. Mundo Reves
11. El Hoyo
12. La vida tombola
13. Mala Fama
14. Panik Panik
15. Otro mundo
16. Piccola Radiolina
+ Bonus
Y Ahora que?
Mama cuchara
Siberia
Sone Otro Mundo
Amalucada vida
+ Enhenced CD(video tracks)
TEVELINA


CD BECAUSE BEC5772125
フランスでのリリース:2007年9月3日

6 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

好き過ぎて、どうコメントしていいかわからない
ですが、一度あのライヴを観たら、恋をしちゃいますね。
"DOUBLE-JE"、その通りですね。
新しいアルバムを聞くのが楽しみです。
どっきんこどっきんこ・・・

Pere Castor さんのコメント...

 さなえもん,コメントありがとうございます。
 日本には米国からの輸入盤がすごく安価で入っているみたいなので,フランスで買うよりも安いようですね。(こういう状態もとっても困るのですが)。
 アルバムはロック・モード曲よりもラティーノな泣かせバラードの方がびしびし来ました。
 ところで,12月17日にブルース・スプリングスティーン&E・ストリート・バンドが,パリ・ベルシーでコンサートなのです。チケット売出しが明日9月8日で,今ラジオでがんがんプロモ中です。家族3人で行くつもりです。
チケットの値段がFnacでは53.00ユーロから83.90ユーロだそうです。ポルナレフとかジョニー・アリデイには見習えと言ったって,絶対にできない値段でしょう。これが本当の「ワーキング・クラス・ヒーロー」でしょうに。

匿名 さんのコメント...

フランスのチケット相場がどの位か不明ですが
ブルース・スプリングスティーンは計算してみたら8500円位なんですね。
彼のクラスなら日本だったらもっとしますね。
レッチリが9000円位、ジュリー(7月に観に行きました)は6000円でした。
10月にアブダル・マリックのライブが日仏学院で行われるようです。
ワンドリンク付きで2700円。行くしかないでしょう。

Pere Castor さんのコメント...

 ポルナレフは良い席130であったし、アズナヴールのパレ・デ・コングレは148だし、同じくヴァルタンも148でした。ヴールズィのオランピアは50程度でおさまるのです。アブダル・マリックのオランピアは30です。エルトン・ジョンのゼニット(9月11日)は78から155ユーロです。外タレの一流どころはこれくらいしますね。だからスプリングスティーンはかなり安いと言えます。

匿名 さんのコメント...

なんか凄い良い文章で、かっち。君は読んで泣きました。

ライブの適正価格って、もうわかりません。アンリサルバドールがいま出ている新しいライブハウスは、凄く高くて、今度来るジェーン・バーキンはいくらになるか怖いです。たぶん行かないけれど。

Pere Castor さんのコメント...

 かっち。さん、コメントありがとうございました。
 日本のカタカナ表記を「マヌー」から「マニュ」に変えさせるよう、がんばりましょうね。とは言っても、ご本人が「ラティーノ」意識が強いから、これは勝ち目のない戦いでしょうか。マニュ・ディバンゴはだんだん「マニュ」勢力が伸びているようです。