2016年10月28日金曜日

ソングライターなんて皆おなじ

ヴァンサン・ドレルム『今この瞬間』
Vincent Delerm "A présent"

 5曲め "Les chanteurs sont tous les mêmes" (歌手なんてみんな同じようなもの)
詞曲:ヴァンサン・ドレルム
歌:ヴァンサン・ドレルム&バンジャマン・ビオレー

また夜のパリのこと
また去った女のこと
危機の状態にある恋のこと
歌手なんてみんな同じようなもの

またあのソングライターか
よく髪型を変え、よく涙を流す
セーヌに身投げするような

またきみか、同じ上着で
照明係やその他を引き連れて
しばらく前からきみがこのあたりを
うろつくのを見ているが
きみの芸は退屈だ
いつも同じ老ぼれジョーの歌だ
僕がきみのことを見ていなかったとでも思っているのか
僕がきみのことを見ていないとでも

また雨のパリのこと
午後の恋のこと
ヴェルレーヌ流の強いアルコール

またきみのコンサートか
ブーローニュ・シュル・メールの体育館
しばらく前からきみがこのあたりを
うろつくのを見ているが
きみの芸は退屈だ
いつも同じ老ぼれジョーの歌だ
僕がきみのことを見ていなかったとでも思っているのか
僕がきみのことを見ていないとでも

またきみか、同じ上着で
照明係やその他を引き連れて
しばらく前からきみがこのあたりを
うろつくのを見ているが
きみの芸は退屈だ
いつも同じ老ぼれジョーの歌だ
僕がきみのことを見ていなかったとでも思っているのか
僕がきみのことを見ていないとでも

また夜のパリのこと
ネオンとタクシー
また青白い夜明けのこと
歌手なんてみんな同じようなもの

人生の黄昏まで
僕は歌い続けるさ 僕の恋人よ
それが何か問題なのかい?


11曲め "Le Garçon"
詞曲:ヴァンサン・ドレルム
雪降るボーモンで、7月の浜辺で、あなたたちを愛していた子、それが僕。
いとこのトマがカウボーイに扮してるこの仮装写真に写っている子、それが僕。
あなたたちのことを愛していた子、変わってしまったね、ごめんなさい、でも今でも僕のことがわかるかい?
色あせたスーツを着て、中身も色あせてしまった子、それが僕。
2月のルーアンで、21人のチケット購入者のためにバルバラを歌うコンサートを開きたかった子、それが僕。
ある晩第3階段教室で、とても昔のある夜、そこに残っていた学生、それが僕。
希望を持っていた子、変わってしまったね、ごめんなさい、でも今でも僕のことがわかるかい?
20時に楽屋に入る子、それが僕、でも中身は変わっていない。

移動遊園地に近づくと耳が赤くなってしまう子、それが僕。
バレエ教室でたったひとりの男だった子、それが僕。
車に乗ると道順案内をしなければならなかった子、それが僕。
「スターウォーズ」を見なかった子、それが僕。
ブルーノ・マリーローズにサインをねだった子、それが僕。
コールドウェイヴのバンドの一員だった子、それが僕。
ヴァンサン・シュミットと友だちだった子、それが僕。
一人の幼友だちを亡くした子、それが僕。
パリに移り住んだ子、それが僕。
地下鉄駅で言うとアレジア、バルベス、ポワソニエール、ベルヴィルで暮らしていた子、それが僕。
夜中にディアコネス病院(12区)のバルコニーにいた子、それが僕。
12区の区役所で新生児誕生を届け出た子、それが僕。
12区の区役所でもうひとり新生児誕生を届け出た子、それが僕。
雪降るボーモンであなたたちを愛していた子、それが僕。

<<< トラックリスト >>>
1. LA VIE DEVANT SOI
2. DANS LE DECOR
3. JE NE VEUX PAS MOURIR CE SOIR
4. DANSER SUR LA TABLE
5. LES CHANTEURS SONT TOUS LES MEMES
6. LA DERNIERE FOIS QUE JE T'AI VU
7. UN ETE
8. CRISTINA
9. ETES-VOUS HEUREUX
10. A PRESENT
11. LE GARCON

VINCENT DELERM "A PRESENT"
CD TOT OU TARD 3340102
フランスでのリリース: 2016年10月7日

2016年10月20日木曜日

Yes Oui Can

V/A "Les Artistes Français chantent en Anglais - The French Artists sing in English"
V/A 『英語で歌うフレンチアーチストたち』

 ルシアル・マルチネーのMAGIC RECORDSの2016年9月新譜です。この会社も私の会社同様2000年代に何度か倒産を噂され、その「閉業在庫処分セール」を手伝ったこともあります。奥さんと娘さんと3人企業としてしぶとく残っているところは、私の会社と全く同じで、たまに電話で話すたびに、お互いの連帯・友情を確かめ合う、そんな仲でコラボレーションを続けております。コレクターの琴線をくすぐる60-70年代盤の復刻で大変評価の高い仕事をしているレコード会社ですが、オリジナル盤の復刻よりも、そのサービス精神のためかたくさんのものを詰め込む編集盤が多く、その辺がオリジナル盤を求めるコレクターの欲求とソリが合わなかったり。そして、残念なのは解説や資料が乏しいのです。今日び、インターネットで検索すれば、多くのことは知ることはできますけど、ライナーノーツに解説やデータがあれば、どれだけ助かるか、と思うことしばしばです。マルチネー自身が稀代のコレクターなので、 あまり手の内をバラしたくないのかもしれません。
 この編集盤も、おそらく全曲マルチネーのシングル盤(あるいはLP)コレクションからの選曲だと思います。25曲トータルランタイム78分。なんという気前良さ。2枚に分けて、vol 1, vol.2 として、倍の売上を狙ったっていいところだと思いますよ。太っ腹のCD1枚もので登場。しかし解説が皆無。
 要は60年代から70年代前半にかけて、歌詞を英語で録音したレコードを出したフランスのアーチストたちの珍盤の数々というわけです。かつてはフランスは英語を話すのが不得意な国の代表みたいに言われていましたし、隣国ドイツやオランダや北欧が英語バイリンガルが一般的になった時代にも、パリのような大都市でも英語がほとんど通じなかった。この60-70年代ももちろんそんな時期で、英米アーチストならともかく、フランス人が英語で歌ったら、ひっこめバカヤローと言われてもしかたなかったでしょう。
 英語で歌う理由は多々あったでしょう。フランソワーズ・アルディやサッシャ・ディステルのようにイギリスで人気の出た歌手たちは当然英語を要求されたでしょう。1957年に始まったユーロヴィジョン・ソングコンテストは、欧州各国の大衆歌謡曲を加速度的にショービジネス化して、歌の市場の国境を取り去り、国際ヒットという可能性をもたらしました。あの頃はまだフランス語で国際ヒットというのは可能でしたし、ベコー、アズナヴールといった大シャンソン歌手たちは世界中にファンを持っていましたが、次世代はシャンソンの未来というのはあまり考えられなかったようで、英語というのは「世界」という可能性を与える言語だったのです。そして時を同じくしてやってきた「ロック革命」というのがありまして、若い世代を熱狂させたこの音楽は、やっぱり「英語で歌われてこそ」と思われたのです。日本70年代に「日本語によるロックは可能か」と論争されたように、フランスでも同じようなことがあり、フランス語は全然ロックに乗らない、と否定的なことを言う人たちが多かった。ロックだけでなく、ブルース、R&Bなどから音楽を始めた若い人たちも「フランス語で」などと考えもせず、英語の方が本物なのだから、という感覚。
 そんな時期のフランス人アーチストたちなのです。ここに収められた25曲で、真に世界的ヒットで、今日もナツメロFMの定番となっている曲はたったひとつ、ジルベール・モンタニエの「ザ・フール」(1971年。この年モンタニエ19歳)だけです。
 モロッコ出身のR&B歌手ヴィゴン(フランス人ではないんですけど、まあいいじゃないですか)の「ハーレム・シャッフル」(1967年)もザ・ローリング・ストーンズがカヴァーしたということで時々ナツメロTVラジオに登場しますが、これはヴィゴンがオリジナルヒットというわけではない。
 イエイエの大物たるジョニー・アリディ、リシャール・アントニー、ディック・リヴァース(レ・シャ・ソヴァージュ)も意外な側面と言えないことないけれど、国際色よりもローカル色が出ますね。
 大物で大変驚いたのはクリストフで、ジョルジュ・ロートネール監督の『サリナへの道(ROAD TO SALINA)』(1970年仏伊合作サイケデリック・ミステリー映画。主演にあの『モア』 のミムジー・ファーマー)の映画音楽を担当し、その主題歌「サリナから来た女(The Girl from Salina)」は抒情サイケ・プログレど真ん中の迫力です。
 映画音楽ものではレイモン・クノーの同名小説を映画化した "ON EST TOUJOURS TROP BON AVEC LES FEMMES"(1971年、ミッシェル・ボワロン監督 = 日本ではナタリー・ドロン&ルノー・ヴェルレー主演『個人教授』でことさら有名) の音楽で、クロード・ボーリング作 "A LITTLE PEACE OF MINDE"(歌:Trianglophone)という、カントリー調のサントラ大御所芸の作品も。
 しかし、この編集盤の宝ものは、やはりポップ・ロック系の隠された佳曲の数々で、うれしい発見多々あり。後年映画音楽(特に『37,2 ベティー・ブルー』)で名を成すガブリエル・ヤレドと、後年(スタジオセッション)コーラスデュオとして名を成すコスタ兄弟(ジョルジュ・コスタ&ミッシェル・コスタ)の3人組 COSTA YARED COSTA(1973年)とか。それから後年バシュングの作詞家で名を成すボリス・ベルグマンが、ギリシャのアフロディーテズ・チャイルド(デミス・ルソス&ヴァンゲリス・パパタナシュー)「レイン・アンド・ティアーズ」(1968年) に続く国際ヒットを目指して書いた、(フランス人スタジオミュージシャンの即成バンド)ジュピター・サンセットの "BACK IN THE SUN"(1970年)。フェージングのかけ方があの時代を思わせますよね(バルバラ「黒いワシ」も1970年)。同じくボリス・ベルグマンが、同じようにスタジオミュージシャンかき集めの即成バンドで、当時人気のあったアンデス民謡(コンドルは飛んで行く...)にインスパイアされた曲調で(午後の数時間で)録音したシングルがタイム・マシーン「ターン・バック・タイム」(1971年)。こういうスタジオでバンドでっち上げてシングルヒットを狙うというパターン、よくありましたね。
 北フランス、リール出身のバンドで、当ブログで2009年6月に大きく紹介したアナーキック・システムもこの盤で取り上げられてます:「ロイヤル・サマー」(1973年)
 カヴァーものでは、ビートルズの「エリノア・リグビー」を1971年に CSN風コーラスワークとプログレ・ギターでやっているイルース&ドキュイペというデュオ(Bernard Ilous & Patrice Decuyper)。


 それでもやっぱりイギリス人にはかなわない、と思わせるのが、60年代からシルヴィー・バルタンやジョニー・アリディのライター/コンポーザー/アレンジャー/バンドマンとして活躍していたイギリス人二人、ミッキー&トミー(ミッキー・ジョーンズ&トミー・ブラウン)の手になる曲で、ここでは「フランスのブライアン・ジョーンズ」ロニー・バードが歌っています:「サッド・ソウル」(1969年)。



 と、まあ、いろいろと発見のある盛り沢山の1枚。マルシアル・マルチネーに最敬礼。

<<< トラックリスト >>>
1. JOHNNY HALLYDAY "SHAKE THE HAND OF A FOOL" (1962)
2. JOEL DAYDE "DO IT NOW" (1972)
3. GILBERT MONTAGNE "THE FOOL"(1971)
4. JUPITER SUNSET "BACK IN THE SUN" (1970)
5. HECTOR & LES MEDIATORS "WHOLE LOTTA SHAKING GOIN' ON"(1963)
6. VIGON "HARLEM SHUFFLE" (1967)
7. ALAN JACK CIVILISATION "SHAME ON YOU" (1969)
8. LES 5 GENTLEMEN "DAYTIME" (1968)
9. CENTURY "WHY (DID YOU TAKE SO LONG)" (1970)
10. LES VARIATIONS "COME ALONG" (1968)
11. TRIANGLE "BLOW YOUR COOL" (1970)
12. RICHARD ANTHONY "PERSONALITY" (1959)
13. COSTA YARED COSTA "GOT ME" (1973)
14. DOC DAIL "SAD HAROLD" (1969)
15. TRIANGLOPHONE "A LITTLE PEACE OF MIND" (1975)
16. ZOO "HARD TIMES GOOD TIMES" (1971)
17. MORRIGANN "MY LADY NEVER SAID GOOEBYE" (1972)
18. CHRISTOPHE "THE GIRL FROM SALINA" (1971)
19. HOLLY GUNS "CRAZY WEEK" (1969)
20. CLASSICAL M "SUCH A LOVELT VOICE" (1970)
21. ANARCHIC SYSTEM "ROYAL SUMMER" (1973)
22. RONNIE BIRD "SAD SOUL" (1969)
23. ILOUS & DECUYPER "ELEANOR RIGBY" (1971)
24, LES CHATS SAUVAGES "I'M A PRETENDER" (1962)
25. TIME MACHINE "TURN BACK TIME" (1972)

V/A "LES ARTISTES FRANCAIS CHANTENT EN ANGLAIS"
CD MAGIC RECORDS 3931014
フランスでのリリース : 2016年9月 



PS : これなんかも本当に大好き。ZOO "HARD TIMES GOOD TIMES" (1971)