Marc Dugain "Tsunami"
マルク・デュガン『津波』
3月末発売以来書店ベストセラー1位を続けている近未来”大統領”小説。折しもフランスは(国民の6割以上が反対する)年金法改正を強行採択(49-3)で可決させた政府と大統領に対する大規模な抗議活動は続行していて、大統領および政府首脳の地方訪問先では鍋釜食器を叩く大騒音で出迎えるという新戦術が登場している。過半数の国民が反対の意思を明らかにしている”改革”を断行しようとする大統領、この小説の主人公の近未来大統領も全く同じ姿勢なのだ。既成政界に属さなかったシンデレラボーイ(年齢40代)というところも現大統領マクロンと共通する。いわゆる”官僚”よりも”コンサル”が幅を利かすという取り巻き環境も。
小説は一人称で書かれ、名前は一度も登場しないが「私」がフランス共和国大統領である。時代はロシアによるウクライナ侵攻がどういう形で収拾されたか(あるいはされていないか)わからないが生々しい記憶として残っている近未来。決選投票でポピュリスト候補を破って当選したが、続く国政選挙で大統領派が絶対多数議席を獲得していない(今のマクロンと同じ)。この男は「政治畑」の人間ではなかった。なぜ彼が大統領に当選できたのかは、投票棄権率の高さ、全年齢層での既成政党離れ、(ウクライナの教訓から)ポピュリストの掲げる欧州離反→欧州崩壊はやはり食い止めねばという(二者択一ならば欧州派をという)非積極的な選択票などが要因であった。そして彼が最優先としたのは、最緊急を要する地球温暖化対策すなわちCO2排出をいかに抑えるかという課題のラジカルな解決案であり、当選後緊急に法制化するという公約であった。それは、産業レベルでのドラスティックなCO2排出制限だけでは全く不十分であり、国民ひとりひとりの個人レベルでの排出制限努力が不可欠であるとして、個人の消費する電力、摂取する食料、日々の交通手段、電話パソコンなどの使用時間、体力消費カロリーなどのデータをすべて国が把握し、そこから算出してCO2排出制限に貢献している国民にはボーナスを、またその努力の足りない国民には指導(さらには罰金も)を、という法案なのである。
(↓)出版社アルバン・ミッシェル制作の本書プロモーションヴィデオ
マクロン2期目当選(2022年)の時によく言われたことだが、第一次投票で得票率28%、第二次投票で58%ということは、第一次の時に72%の国民が信任していないということで、第二次の時にル・ペンよりましだという理由でマクロンを信任していない72%の人々から30%がしかたなく投票したという解釈ができる。58%全体がマクロンを待望したわけではない、という解釈。それが故に大統領選に続く国政選挙で絶対多数議席が取れなかった。この小説の大統領も同じ状況。そしてマクロンは1期目で実現できなかった(コロナ禍という要因もあるが、既に反対意見の多かった)年金法改革を2期目最優先の重要目標として上程したのだが、全労組共闘のゼネストと全国数百万人の反対デモで... というのが2023年春のフランスの現実。この小説でも同様にこのCO2個人排出量制限の法案は、来るべき大反対運動にひるむことなく大統領は断行するべきだという強気の姿勢なのだ。マクロンがたとえこの年金改革が”不人気”であってもフランスの未来に絶対不可欠なのであると繰り返しているように、この小説の大統領もこの法案は地球の未来に絶対不可欠なのだという確信があるのだ。
国民と対決姿勢を取る大統領、それは民主主義の否定である。しかしそういうナイーヴな政治的デオントロジーだけ書かれた小説ではない。
ガキの時分からダチだったユゴーは今で言うところのアスペルガー症候群の傾向があり、人とのコミュニケーションがやや難しいという特徴があったが、稀な知能の持ち主で世界的な遺伝学研究者となり、米大手製薬会社数社から桁外れの報酬を条件に独占研究契約をオファーされている。それを断りユゴーはガキの時分からコミュニケーション術に長じ商才もあった「私」にパートナーシップを依頼し、二人でスタートアップ企業を設立し、ユゴーの最先端バイオテク研究をタテに世界の巨大資本のバックアップを得て、巨万の富を気づいていく。その研究の成功の果てに約束されているのは人類の寿命の飛躍的延長である。だがその実用化するのはフランスおよび欧州のレベルでは不可能と踏んだ「私」は、米国のいわゆる”GAFAM"と手を組む。この世界支配力を有してしまっているビッグ・テクGAFAMの水面化工作力(インターネット上の世界的世論操作力など)にしてみれば、フランスでその息のかかった大統領を誕生させることなどいともたやすいことなのである....。
「私」は最先端バイオテクノロジーで急激に世界的成功をおさめた企業トップとしてマスコミでの露出度も高くその優れたコミュニケーション術も手伝ってフランスでの大衆的イメージはすこぶる良く、その研究者サイドからの(つまり政治家のゴタクではない)環境問題提言や緊急な温暖化対策案は支持を拡げ、意図せずとも「次期大統領」という声が自然発生的に...。こうしてポッと出のゴールデンボーイはなるべくしてエリゼ宮の玉座につく。
しかし就いてみるや、大統領の激務とは想像を絶するものがあり、当選後のごく短い”恩寵の時”に続いてやってくる国民の幻滅感/一挙に噴出する不満、内閣/政府という自分の手足としての”政治プロ”たちの頼りなさ....。ここ数代の大統領たちと同じ轍を踏んでしまう。
そしてその大統領公約の骨子たる「個人CO2排出量制限法案」が浴びることになる急激な不人気という逆風に加えて、大なり小なり身から出た錆のような(まだ暴露されていないが遅からず暴露されるであろう)スキャンダルの種に怯え、及び腰になってしまうのである。まず睡眠時間などあるかないかわからないような激務とストレスに対抗するためにコカインを常習するようになる。まあ”よくある話”なのだが、フランスでは公になれば大統領のクビは飛ぶ。”サプライヤー”は大統領筆頭女性顧問マリオンの助手にして彼女の同性愛パートナーであり、その供給ルートはフランス税関の麻薬摘発差し押さえ倉庫からの”極上品”である。その娘が検問にひっかかり、取り調べにかなりの量の白い粉を”自分用”とシラを切っているが、時間が経てばどうなることやら... 。そして大統領のコカイン疑惑はすでに人の口に上りつつあった。
次なる身から出た錆はジハード・テロ絡みである。ISの勢いがあった頃フランスからシリアに渡ったある女性ジハード(幹部)闘士はクルド人部隊に捕らえられ収容キャンプに投獄されたが、脱走に成功し、幾度も身分証明書と面相を変えてフランスに最近帰国したことが内務省機関によって探知された。目的は難病手術であり、変名でフランスの病院に入院し、今日手術を受けたところだ、と。手術は成功し現在麻酔から醒めるのを待っている。内務大臣は緊急に大統領に面会し、この最高度の危険人物の処遇について指示を仰ぐ。逮捕してフランスの監獄に入れても、獄中で囚人たちにジハード洗脳し、新たなテロを準備できる能力は十分にある。内務大臣は大統領にこの国家にとって極度の脅威となっている女性を”消す”決断を迫るのである。手術後の昏睡中に(検死にかけても検出不能な)ある薬品を点滴に混入すればそれは可能だ、と。現在麻酔から醒める前に決断を、と。大統領はこれにゴーサインを出す。国家による一個人の暗殺を大統領命令で。だが、事情を全く知らされていない病院と医師側はこれは手術の成功からは説明のつかない”変死”であると問題視し、そこから死んだ女性の正体が突き止められ、メディアとイスラミスト組織側は....。
マルク・デュガン『津波』
3月末発売以来書店ベストセラー1位を続けている近未来”大統領”小説。折しもフランスは(国民の6割以上が反対する)年金法改正を強行採択(49-3)で可決させた政府と大統領に対する大規模な抗議活動は続行していて、大統領および政府首脳の地方訪問先では鍋釜食器を叩く大騒音で出迎えるという新戦術が登場している。過半数の国民が反対の意思を明らかにしている”改革”を断行しようとする大統領、この小説の主人公の近未来大統領も全く同じ姿勢なのだ。既成政界に属さなかったシンデレラボーイ(年齢40代)というところも現大統領マクロンと共通する。いわゆる”官僚”よりも”コンサル”が幅を利かすという取り巻き環境も。
小説は一人称で書かれ、名前は一度も登場しないが「私」がフランス共和国大統領である。時代はロシアによるウクライナ侵攻がどういう形で収拾されたか(あるいはされていないか)わからないが生々しい記憶として残っている近未来。決選投票でポピュリスト候補を破って当選したが、続く国政選挙で大統領派が絶対多数議席を獲得していない(今のマクロンと同じ)。この男は「政治畑」の人間ではなかった。なぜ彼が大統領に当選できたのかは、投票棄権率の高さ、全年齢層での既成政党離れ、(ウクライナの教訓から)ポピュリストの掲げる欧州離反→欧州崩壊はやはり食い止めねばという(二者択一ならば欧州派をという)非積極的な選択票などが要因であった。そして彼が最優先としたのは、最緊急を要する地球温暖化対策すなわちCO2排出をいかに抑えるかという課題のラジカルな解決案であり、当選後緊急に法制化するという公約であった。それは、産業レベルでのドラスティックなCO2排出制限だけでは全く不十分であり、国民ひとりひとりの個人レベルでの排出制限努力が不可欠であるとして、個人の消費する電力、摂取する食料、日々の交通手段、電話パソコンなどの使用時間、体力消費カロリーなどのデータをすべて国が把握し、そこから算出してCO2排出制限に貢献している国民にはボーナスを、またその努力の足りない国民には指導(さらには罰金も)を、という法案なのである。
(↓)出版社アルバン・ミッシェル制作の本書プロモーションヴィデオ
マクロン2期目当選(2022年)の時によく言われたことだが、第一次投票で得票率28%、第二次投票で58%ということは、第一次の時に72%の国民が信任していないということで、第二次の時にル・ペンよりましだという理由でマクロンを信任していない72%の人々から30%がしかたなく投票したという解釈ができる。58%全体がマクロンを待望したわけではない、という解釈。それが故に大統領選に続く国政選挙で絶対多数議席が取れなかった。この小説の大統領も同じ状況。そしてマクロンは1期目で実現できなかった(コロナ禍という要因もあるが、既に反対意見の多かった)年金法改革を2期目最優先の重要目標として上程したのだが、全労組共闘のゼネストと全国数百万人の反対デモで... というのが2023年春のフランスの現実。この小説でも同様にこのCO2個人排出量制限の法案は、来るべき大反対運動にひるむことなく大統領は断行するべきだという強気の姿勢なのだ。マクロンがたとえこの年金改革が”不人気”であってもフランスの未来に絶対不可欠なのであると繰り返しているように、この小説の大統領もこの法案は地球の未来に絶対不可欠なのだという確信があるのだ。
国民と対決姿勢を取る大統領、それは民主主義の否定である。しかしそういうナイーヴな政治的デオントロジーだけ書かれた小説ではない。
ガキの時分からダチだったユゴーは今で言うところのアスペルガー症候群の傾向があり、人とのコミュニケーションがやや難しいという特徴があったが、稀な知能の持ち主で世界的な遺伝学研究者となり、米大手製薬会社数社から桁外れの報酬を条件に独占研究契約をオファーされている。それを断りユゴーはガキの時分からコミュニケーション術に長じ商才もあった「私」にパートナーシップを依頼し、二人でスタートアップ企業を設立し、ユゴーの最先端バイオテク研究をタテに世界の巨大資本のバックアップを得て、巨万の富を気づいていく。その研究の成功の果てに約束されているのは人類の寿命の飛躍的延長である。だがその実用化するのはフランスおよび欧州のレベルでは不可能と踏んだ「私」は、米国のいわゆる”GAFAM"と手を組む。この世界支配力を有してしまっているビッグ・テクGAFAMの水面化工作力(インターネット上の世界的世論操作力など)にしてみれば、フランスでその息のかかった大統領を誕生させることなどいともたやすいことなのである....。
「私」は最先端バイオテクノロジーで急激に世界的成功をおさめた企業トップとしてマスコミでの露出度も高くその優れたコミュニケーション術も手伝ってフランスでの大衆的イメージはすこぶる良く、その研究者サイドからの(つまり政治家のゴタクではない)環境問題提言や緊急な温暖化対策案は支持を拡げ、意図せずとも「次期大統領」という声が自然発生的に...。こうしてポッと出のゴールデンボーイはなるべくしてエリゼ宮の玉座につく。
しかし就いてみるや、大統領の激務とは想像を絶するものがあり、当選後のごく短い”恩寵の時”に続いてやってくる国民の幻滅感/一挙に噴出する不満、内閣/政府という自分の手足としての”政治プロ”たちの頼りなさ....。ここ数代の大統領たちと同じ轍を踏んでしまう。
そしてその大統領公約の骨子たる「個人CO2排出量制限法案」が浴びることになる急激な不人気という逆風に加えて、大なり小なり身から出た錆のような(まだ暴露されていないが遅からず暴露されるであろう)スキャンダルの種に怯え、及び腰になってしまうのである。まず睡眠時間などあるかないかわからないような激務とストレスに対抗するためにコカインを常習するようになる。まあ”よくある話”なのだが、フランスでは公になれば大統領のクビは飛ぶ。”サプライヤー”は大統領筆頭女性顧問マリオンの助手にして彼女の同性愛パートナーであり、その供給ルートはフランス税関の麻薬摘発差し押さえ倉庫からの”極上品”である。その娘が検問にひっかかり、取り調べにかなりの量の白い粉を”自分用”とシラを切っているが、時間が経てばどうなることやら... 。そして大統領のコカイン疑惑はすでに人の口に上りつつあった。
次なる身から出た錆はジハード・テロ絡みである。ISの勢いがあった頃フランスからシリアに渡ったある女性ジハード(幹部)闘士はクルド人部隊に捕らえられ収容キャンプに投獄されたが、脱走に成功し、幾度も身分証明書と面相を変えてフランスに最近帰国したことが内務省機関によって探知された。目的は難病手術であり、変名でフランスの病院に入院し、今日手術を受けたところだ、と。手術は成功し現在麻酔から醒めるのを待っている。内務大臣は緊急に大統領に面会し、この最高度の危険人物の処遇について指示を仰ぐ。逮捕してフランスの監獄に入れても、獄中で囚人たちにジハード洗脳し、新たなテロを準備できる能力は十分にある。内務大臣は大統領にこの国家にとって極度の脅威となっている女性を”消す”決断を迫るのである。手術後の昏睡中に(検死にかけても検出不能な)ある薬品を点滴に混入すればそれは可能だ、と。現在麻酔から醒める前に決断を、と。大統領はこれにゴーサインを出す。国家による一個人の暗殺を大統領命令で。だが、事情を全く知らされていない病院と医師側はこれは手術の成功からは説明のつかない”変死”であると問題視し、そこから死んだ女性の正体が突き止められ、メディアとイスラミスト組織側は....。
身から出た錆その3は、大統領夫人ヴァネッサとの複雑な関係に起因する。世界有数の頭脳であるユゴーとスタートアップを始める前、「私」はうだつの上がらないコミュニケーションエージェントであったが、ヴァネッサは一流雑誌の(フェミニスト系)トップジャーナリストとして活躍する花形だった。収入も知名度もまるで違う。このパワーバランスにおいて、「私」をいくらか見下すことで二人の愛情関係がうまく機能していたようなところがある。ところが、ユゴーとの事業が驚異的な成功を収め、それまでとは逆にヴァネッサと桁違いの収入と財産を手に入れるようになって、パワーバランスは崩れていき、お互いに居心地が悪くなる(+後述の”子供”の問題)。二人は結婚の際に深い考えもなしに「夫婦財産分与契約」(財産分与50/50)に署名していたが、「私」は今や離婚をも視野に入れた関係になったとき、あまりにも違う財産の違いゆえヴァネッサに半分持って行かれることに承服できない思いが持ち上がってきた。そこで、人を介して財産の相当な部分を抜き出し、某国某島オフショア口座に...。これが後日、「フランス大統領の隠し口座」という超極秘情報がロシアの機関に探知され、ロシア大統領プーチンが直々に「私」に二人だけで話をしたいので極秘でクレムリン宮殿まで来いと呼び出すことになる。ここがこの小説の白眉。プーチンがフランス大統領の首とフランス国の国際的信用を守りたければ、俺の言う通りにしろ、と「私」を直接恫喝するのである...。フランスはこれによってロシアの属国になりかけるのですよ。
もうひとつ、妻ヴァネッサとの複雑な関係は、世のあまたの夫婦と同じように、この二人も何度も関係の修復を試みようとするのだが、その最後の願いのように「子供」という絆を希求するのである。しかし事故的に不妊の体になってしまったヴァネッサは、代理母(藍紙提供も)を使ってもいいから「私」の子を作り、「私」が父となりヴァネッサが母となり育てよう、と合意していたのである。ちなみにフランスでは"まだ"「代理妻出産」は非合法。そして大統領のプライベート携帯電話に地方の産院から「無事女児誕生」の知らせが。しかし、この時点でヴァネッサはひるんでしまい、この子を育てることはできない→離婚へ、という選択を「私」に告げる。出産後乳児を引き取るという代理母との契約は履行できなくなってしまう。「シングルファザー大統領」となるのか? ー 覆面公用車をつかって”代理妻”の住むフランス深部の農場近くまで行き、運転手に知られぬように車を降りてひとりで徒歩で農家に”娘”と初対面に行く大統領、このエピソードはなかなか美しい。
2023年春のフランスのように、前代未聞の街頭抗議運動が続く「私」のフランス。そして労組・野党・市民団体らが最大の抗議行動日と予告している日が近づいてくる。数百万人のデモ隊が街路を埋め尽くし、一部過激派は市街戦も辞さぬと準備している。大統領にこの時点での「廃案」はないのか?と念を押す閣僚たち。マクロンのようにこの「私」は法成立あるのみ、と強硬姿勢を崩さない。なぜなら、この法律は人類の未来(ユゴーの開発する新薬によって寿命が飛躍的に延びる人類の未来)を救うために必要不可欠なのだから。なぜなら、マクロンにとってこの年金改革はフランスの年金制度崩壊を阻止するために必要不可欠なのだから。なにかとヴァーチャルとリアルがシンクロする小説である。
2023年春のフランスのように、前代未聞の街頭抗議運動が続く「私」のフランス。そして労組・野党・市民団体らが最大の抗議行動日と予告している日が近づいてくる。数百万人のデモ隊が街路を埋め尽くし、一部過激派は市街戦も辞さぬと準備している。大統領にこの時点での「廃案」はないのか?と念を押す閣僚たち。マクロンのようにこの「私」は法成立あるのみ、と強硬姿勢を崩さない。なぜなら、この法律は人類の未来(ユゴーの開発する新薬によって寿命が飛躍的に延びる人類の未来)を救うために必要不可欠なのだから。なぜなら、マクロンにとってこの年金改革はフランスの年金制度崩壊を阻止するために必要不可欠なのだから。なにかとヴァーチャルとリアルがシンクロする小説である。
そしてまた内務大臣が緊急の重大情報として、一部過激派が治安維持機動隊に対して”実弾攻撃”を用意している、と。内務大臣は大統領に問う:デモ隊が機動隊に実弾攻撃をかけてきた場合、機動隊は報復発砲しても良いか?大統領は実弾発泡を許可するか? ー 大統領は苦渋の末、許可を出すのである。しかして、その反政府大行動日はやってきて、流血の事態は避けられず起こってしまうのだが、その弾丸は....。
もうダントツのベストセラーになる理由がよ〜くわかりますよ。エリゼ宮の玉座についたがゆえに、いかなる有能優秀な人物であれ、大統領は壊れてしまう、というフィクション。この人物は強靭な欲・野心の持ち主ではない。誰がやっても大統領はこのように壊されていくだろう。大統領は未来を約束することなどできないということを誰もが知っているから。そもそも未来とはより良いものでは絶対にあり得ない。未来はより悪くしかなりようがない。私たちが地球の近未来を考えただけで、その姿はわかってしまう。毎夏毎冬の異常な寒暖、異常災害、大洪水大旱魃...。若い世代、子供たちはより悪い未来しか約束されていない。この絶望感を抱いて投票所に行けますか? ー 「寿命が長くなる」という朗報を持って大統領になった男、その朗報を現実化する前に人々から「果たして長生きすることは良いことなのか」と否定されてしまう話と読んだ。朗報ばかり告げるのはポピュリズム、悪報ばかり告げるのもポピュリズム。エリゼ宮の内側では誰もそんなこと考えないのだね、と教えてくれる一冊。超一級のエンターテインメントですから、手軽に読んでみてください。
Marc Dugain "Tsunami"
もうダントツのベストセラーになる理由がよ〜くわかりますよ。エリゼ宮の玉座についたがゆえに、いかなる有能優秀な人物であれ、大統領は壊れてしまう、というフィクション。この人物は強靭な欲・野心の持ち主ではない。誰がやっても大統領はこのように壊されていくだろう。大統領は未来を約束することなどできないということを誰もが知っているから。そもそも未来とはより良いものでは絶対にあり得ない。未来はより悪くしかなりようがない。私たちが地球の近未来を考えただけで、その姿はわかってしまう。毎夏毎冬の異常な寒暖、異常災害、大洪水大旱魃...。若い世代、子供たちはより悪い未来しか約束されていない。この絶望感を抱いて投票所に行けますか? ー 「寿命が長くなる」という朗報を持って大統領になった男、その朗報を現実化する前に人々から「果たして長生きすることは良いことなのか」と否定されてしまう話と読んだ。朗報ばかり告げるのはポピュリズム、悪報ばかり告げるのもポピュリズム。エリゼ宮の内側では誰もそんなこと考えないのだね、と教えてくれる一冊。超一級のエンターテインメントですから、手軽に読んでみてください。
Marc Dugain "Tsunami"
Albin Michel刊 2023年3月31日 260ページ 21,90ユーロ
カストール爺の採点:★★★☆☆
(↓)3月29日国営ラジオFrance Inter レティシア・ガイエのインタヴューで本書『津波』について語るマルク・デュガン。現実との類似性について予言的だがいつ執筆したのか、という質問に「1年前」に書いたと答えている。見えていた人なのですね。
カストール爺の採点:★★★☆☆
(↓)3月29日国営ラジオFrance Inter レティシア・ガイエのインタヴューで本書『津波』について語るマルク・デュガン。現実との類似性について予言的だがいつ執筆したのか、という質問に「1年前」に書いたと答えている。見えていた人なのですね。
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