2023年4月16日日曜日

シャンソン・フランセーズの過去

Juliette "Chansons de là où l'👁 se pose"
ジュリエット『👁の止まったところから出た歌』


ジュリエット・ヌーレディンヌの5年ぶりの新作アルバム。ジュリエット一流のオールド・スクール、オールド・ファッションドのおシャンソンアルバムであり、古来よりシャンソン・フランセーズが持っていた3分のドラマ(悲劇、喜劇、悲喜劇)性に圧倒される。もはやこの人にしかできないシャンソン芸なのかもしれない。『目の止まったところから出た歌』というタイトルも多くを語ってしまっている。日常目にするものから発生してしまう悲喜劇がシャンソンになるのである。どれもがそういう歌ではないが、どれもが素晴らしいので、深々と肘掛け椅子に座って聞けばいいと思う。3曲め「階段(Escaliers)」をその代表として以下に歌詞訳する。ただオチの言葉である「階段のエスプリ L'espirit de l'escalier」というフランス語表現を前もって解説しておく必要があると思うので。「階段のエスプリ」の仏ウィキペディアの定義はこうである:
L’esprit de l’escalier (ou esprit d’escalier) est une expression française signifiant que l’on pense souvent à ce que l’on aurait pu et dû dire de plus juste, après avoir quitté ses interlocuteurs (lorsqu'on se retrouve au bas de l'escalier de leur demeure).
「階段のエスプリ」とはフランス語表現のひとつで、往々にして対話相手と別れたあとで(相手の住まいを出て階段の下に降りてしまった時点で)あのことを言っておけばよかったと思ってしまうことを意味する。

ではジュリエットの素晴らしい1曲「階段(Escaliers)」
すべての階段はローマに通ず

人生とはあらゆる種類の階段で成り立っているものだできているものだ
地下倉から屋根裏まで行くのに あのドアからこのドアに向かうのに
まっすぐな階段もあれば曲がった階段もある
何段も降りたあとでまた昇るのは戦いだ

階段は心臓の鼓動を高鳴らせる
3段抜かしで飛び昇る人みたいに
だから数時間だけのボヘミアンの恋人たちは
エレベーターなしの6階を隠れ家にしている
でも所帯生活には1階に戻ってくる
どの階にも階段がある

上から下へ、下から上へ
死刑台のてっぺんまで
あるいは表彰台の最高位まで
導いてくれる
すべての階段はローマに通ず

人生とは人の行き来する階段で成り立っているものだ
踊り場ではほぼ誰とでもすれ違う
これじゃ駅通路や旅籠屋のよう
コンシエルジュが王様の王国のよう

ゆっくり時間かけて進む者もいれば、転がり落ちる者もいる
口笛吹いて追い越して行く者もいれば、文句を言う者もいる
どんなに試練であろうが勇敢に昇っていく人たちを称えよう
降りてくる時にまた同じ人たちに出会うかもしれないから

時には荷物を上げるのを手伝ってもらわなければならないこともある
いつだって階段はみんなで分かち合うものだ

上から下へ、下から上へ
荷物が軽かろうか重かろうが
ぐずぐずしようが、突進しようが、スラロームしようが
すべての階段はローマに通ず

人生とは急で険しい階段で成り立っているものだ
踏むと虫喰いでギシギシ音がなり、割れてしまうこともある
確かな一歩で離陸したと思っても
着地する靴の下には何もなく、転げ落ちてしまう

 

断崖絶壁に張り付いた小径をひとり進む
肝試しの階段で人はひどい目に遭う
照明タイマーが切れた時にわれらを待っているのは
終わりのない転落、とてつもない悲鳴、それが運命

鉄でできた蛇、檻に入った鋼の怪物
いつでも大殺戮を準備している階段がある

下から上へ、上から下へ
ヨーヨーの巻輪のように
気分の変わりやすいわれらには
すべての階段はローマに通ず

人生とは階段で成り立っているが、そのあとは?
こんなことは未来永劫続くのか?
終末の日には、私も最後の階段の手すりから手を離し
出発しなければならないのか?

階段の最上の高みで私を待っているのは
恩情あふれる大主さまか?
あるいは目の眩む螺旋の最下の奥底で
火を掻き立てているサタンが待っているのか?

いやいや私はもう石棺のことを考えたりしない
あの世では階段も階もありはしない

上から下へ、下から上へ
虚無に至るまで、墓穴に至るまで
メトロノームが止まるまで
すべての階段はローマに通ず

このテーマに関して私はもっと言いたいことがあったんだ
でも私の至らないところで、最悪なことに
私には即座には良い考えというのが絶対に浮かばないの
これを称して「階段のエスプリ」と言うんだな


And Juliette is buying a stairway to heaven !

<<< トラックリスト >>>
1. La housse et la couette
2. Le Seigneur des mouches
3. Escaliers
4. La Perruque
5. Lames
6. La lueur dans l'oeil
7. Poivrons
8. Litanies du Diable
9. La Madone des clébards
10. Dans le marc de café
11. Deux Chevaux
12. Regarde bien, petit (Jacques Brel)

Juliette "Chansons de là où l'oeil se pose"
LP/CD/Digital Barclay/Universal 5500649
フランスでのリリース:2023年2月24日

カストール爺の採点:★★★★☆

(↓)フランス国営テレビの音楽情報スポット Basique で新作をプロモーションするジュリエット

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