2008年11月4日火曜日
Less Worse Blues
マリオ・カノンジュ『ライヴ - リゾーム・ツアー』
Mario Canonge "LIVE - Rhizome Tour"
盛岡の彼女,マリオ・カノンジュ(1960- )はマルチニック島出身のピアニストで,同島を代表するビギン・オーケストラのマラヴォワのリーダーだったポロ・ロジーヌが亡くなってからは,マラヴォワのピアニスト/編曲家の役もつとめています。80年代以降に出て来た島の新しい凄腕ミュージシャンたちのひとりで,最初ジャズフュージョンのバンド「ウルトラマリン」で注目され,その後はビギンやズークやサルサもすれば,ジャズやフュージョンもする,というオールラウンド型のピアニストです。マラヴォワからソロ・ヴォーカリストになったラルフ・タマールのピアニスト/作曲家/プロデューサーでもあり,前述のマラヴォワの他にラテン・ジャズのコンボ「サケショー」(熱い酒,熱燗)のリーダーでもあり,タマールやカノンジュのアルバムを出しているレコードレーベル Kann'Productionsのオーナーでもあります。
マルチニック島の伝統ということでは,マリウス・キュルチエ,アラン・ジャン=マリーの後継者として当代一のビギン・ピアニストと言えるでしょう。このCDのボーナスとしてエンヘンストされたクイックタイム映像で,ステリオ作のマズルカ曲「マニクー・ヴォラン(むささび)」のソロ演奏が見れますが,島のリズムでうきうきしてしまいます。
小柄でちょっとずんぐり体型で,ステージでは大変ひょうきんだったりしますが,あだ名は「シューペル・マリオ(スーパー・マリオ)」で丸顔に口ひげがそういう雰囲気です。しかし,私はマリオを見るとどうしても,昭和時代のプロレスラーで,グレート東郷という人を思い出してしまうんですね。わかりますか?
さてこのライヴは2004年に出した『リゾーム』(地下茎,根茎という意味ですが,ドゥルーズとガタリによる現代哲学用語でもあります)というアルバムの後のツアーでの録音です。ピアノ+ドラムス+ベースのトリオです。第一曲から白熱のビギン曲で始まる,それはそれはたいへんなライヴで,シューペル・マリオの面目躍如といったところですが,私はこのアルバムの見本CD-Rを10月にレーベルからもらった時から,ほとんど1曲ばかりを繰り返し聞いていました。
それはスパイク・リー映画『モー・ベター・ブルース』のサントラ・テーマだった "Mo' Better Blues"のカヴァーなんですが,このCDでは6曲目(最終曲)で収録されています。私はあの映画も大変好きでした。カノンジュのアレンジはゆるめのゴスペル風で,主旋律をハミングでオーディエンスと唱和したりして,とても良い雰囲気で展開します。
話はがらりと変わって,今日はステーツの大統領選挙投票日です。フランスのラジオ/テレビ/新聞,これほど興奮して報道されている米大統領選挙は前代未聞です。ブッシュ時代を終わらせる選挙だからなのか,カラードの大統領という歴史的選択のせいなのか,ラジオ/テレビは今夜は徹夜で特番を続ける構えです。
私は昔からアメリカの大差ない保守2大政党での選挙戦というのに白けてしまう傾向がありました。今回もその考えに変わりはないですし,オバマの超巨額の選挙資金というは一体何なのかを考えると,この人は無名の民たちのことを真っ先に考える政治家では絶対にないことが確信できましょう。まあそんなこと言っても,あの人かこの人かというチョイスしかアメリカの人民たちに残されていないのなら,私は今度だけは,お願いだから,後生だから,バ ッ ド チ ョ イ ス だ け は 避 け て ね と言いたいわけです。ブッシュを2期も当選させてしまった国なんだから...。
その意味でですね,この「モー・ベター・ブルース」が胸に響くのですよ。「モー・ベター」というチョイスは今度の選挙にはないかもしれないですが,「Less Worse レス・ワース」というチョイスだけはしてくださいよ,と。
<<< プレイヤーズ >>>
マリオ・カノンジュ Mario Canonge - piano
リンレイ・マルト Linley Marthe - bass
チャンダー・サージョー Chander Sardjoe - drums
<<< トラックリスト >>>
1. Manman- Dlo (Mario Canonge)
2. Madikera (Mario Canonge)
3. Where are you ? (J Mc Hugh)
4. Plein Sud (Mario Canonge)
5. Lueyr Eteinte (Mario Canonge)
6. Mo' Better Blues (Bill Lee)
+ Bonus video (Quick Time) "Manicou Volant"(A Stellio)
CD KANN' PRODUCTIONS 150971
フランスでのリリース : 2008年11月3日
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6 件のコメント:
この国には根深い二極化があり
日本人がよく知っている”進んだ”アメリカ人を全体の1割とすると
残りの9割は聖書を盲信するあまり進化論を教える小学校を放火したり、銃が大好きで、
NYがどこにあるかも地図で示せないし
白人以外とは食堂の店員くらいとしか話をしたことがない、
そんな国なんです。
田舎白人であり黒人であり、
クリスチャンでイスラムでありアジア人でもある人間が
大統領になるという、それだけのことですが
私ら日本人が想像するよりも遥かに大きなインパクトが
この、巨きな国には及ぼされるようです。
60年代を体験してきたうちのジューイッシュにとっては
いままさに歴史の変革を目撃した男泣きの最中で、
見てられません(笑)。
あ、そうそう
前回は民主党の得票数は充分足りてたんですが
投票用機械のメーカーがバリバリの共和党支持者で
「あとは任せとけ」という電話が
CEOから共和党にあったという情報が指名後にリークされたりしていました。
この国の政治は、ハリウッドの機構と非常に似通っています。
つくづく、”若い”国だと思います。
エスカさん
一夜明けた感じ,どうですか?
パリも徹夜組があったようで,明け方にはあちこちのバーで歓声が上がったそうです。シャンゼリゼやバスチーユに大挙して人が出るという騒ぎはありませんでしたが,圧倒的にオバマ支持が多かったフランスの報道は,総じて「歴史的選択」の重要性を強調していました。
1年半前にサルコジを選んだ国の人たちが,今朝は「オバマで良かった」と手放しで喜んでいる姿は,なんとも笑えないものがあります。
Yes We Can。この「we」はステーツの人たちのことで,あんたたちのことじゃないんだ,とフランス人たちに言いたくなります。
そうかあ,デヴィッドさんは泣いたかあ。確かに私も81年のミッテランの時は泣いたもんなあ。あの後の恩寵の時期というのがあって,みんな浮かれていたものなあ。
あの時もミッテランになったらソ連の戦車がやってくるという噂を真剣に信じていたフランス人も少なくなかったですし。
アメリカっていいとこあるじゃないですか。ね。
こちらはすっかり冷静になりました。
オバマは政治家として必ずしもベストではないんですが
象徴としての意味はやはり凄まじい物があります。
こちらで大統領選を目の当たりにするのは
これで4,5回目なんですが
今回ほど、政治はまつりごと=お祭りというのを
体感したことはなかったかもです。
ネットやTV、新聞や雑誌、町のあちこちで
もうありとあらゆる形で盛り上がり、
選挙権もないのにハッとさせられたり、
凝ったギャグに大笑いさせられたり。
直接政治(大統領選挙については、手順は間接選挙ですが)の人たちって、「自分で選んでいる」感にあふれていて楽しそうです、本当に。
アフリカンアメリカン系の知人(金融関係)は
1月の就任式を見に、NYからワシントンDC まで
一家でわざわざ出かけるとか。
メディアもあらゆるノウハウを駆使して
インパクトある絵柄を発信するでしょうね。
エスカさん
メディアということでは,フランスでもオバマの勝利はメディア戦術の勝利,とりわけウェブ戦術の勝利みたいな評価がされています。「ウェブを制する者選挙を制す」傾向は年々ますます顕著です。フランスのテレビ(国営F3)のアメリカ駐在記者が「アメリカ深部の大多数は新聞もラジオもテレビも見ないが,ネットを見ている」なんて極端なことも言ってましたが,極端じゃないのかなあ。
11月5日の新聞はアメリカでは保存板でしょうね。フランスは時差があって,5日の新聞でまだオバマ勝利が報道されていないので,6日付新聞から第一面にデカデカとオバマです。この時差は歯がゆいですね。だからみんなネットになっちゃう。
ベルルスコーニがオバマのことを「日によく焼けたいい男」と言ったそうです。旧大陸にはこういう最低の男がまだまだいるんです。ベルルスコーニやサルコジを国のトップに選ぶ人たちが旧大陸にはゴマンといるわけですよ。情けないです。
今週のテレラマの読者投書欄にジェフリー・ユージェニデスの小説『ミドルセックス』のことを書いている女性がいて,その中で1988年のマイケル・デュカキスの敗北の原因は,名前に母音が三つあったからだ,と説明するのです。「通常アメリカ人は母音が2つ以上ない名前の大統領を好む。 Truman, Johnson, Nixon, Clinton。たとえ母音が3つになっても,シラブルは2つを越えない。Reagan。その最も極端な例はひとつのシラブルでひとつの母音しかない名前だ。Bush。だから彼は2選されたのだ」。この投書者はここでアメリカは3つの母音を持つ名前の男を今回選出できるように,祈ろうではないか,と締めるわけです。
ボイン,ボイン,ボイン!
オチが可朝師匠とは(笑)。
11月9日付けのフランスの日曜新聞ジュルナル・デュ・ディマンシュ紙で、ベルルスコーニの「日焼け男」発言について、元イタリア人のカルラ・ブルーニ(現フランス大統領夫人)が、その軽卒さに憤って「私はフランス人になることができて本当に良かったと思っているわ」とのたまわったそうで。
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