2021年12月18日土曜日

命の問題っていうのは、それがひとつしかないってことさ

OrelSan "Le jour meilleur"
オレルサン「よりよい日」

From album "Civilisation"
2021年のアルバム『シヴィリザシオン』より

2021年12月現在、発売1ヶ月で驚異的な勢いで売れ続けているオレルサン4枚めのアルバム『シヴィリザシオン』から、新しいプロモーションクリップ"Le jour meilleur"が12月16日に公開された。ひところのフレンチ・ラップ/ヒップホップから見ればたいへん異色だったノルマンディー(両親が教師/中流家庭)出身の日本マンガ好きのベビーフェイスラッパー。郊外・人種・階級・暴力といった問題と無縁なわけではなく、それにコミットした曲もあることはあるが、本領の(ラップ的)世相読み・社会観察はずっと個人的な世界で、良くも悪くも散文的でわかりやすい。悪ぶらない ベビーフェイスぶりが評価されているのかもしれない。
 新クリップは、ノルマンディーの浜辺で(バーンアウトで)入水自殺を図ろうとした40男が踏みとどまり、たぶん自身の若い頃の隠れ家だった海辺の小屋を再訪し、そこで若い頃の自分自身(17歳当時の オレルサン映像が編集されて共演する)を再発見する、というシナリオ。若き日の自分自身から生きる勇気を諭されるみたいな。全編で見られるノルマンディー地方の風景(海、ビーチ、漁港、絶壁、ノルマンディー作戦戦場跡とモニュメント、カーンのマレルブ・スタジアム...)が美しい。この青年の郷土愛なのだろう。ゴルフクラブを背中にくくるのは日本マンガ「プロゴルファー猿」からの援用だと思う。
 歌の方は、抑鬱状態にある友人に声かけをする、なかなか簡単ではない友情もの。2行め「命の問題っていうのは、それがひとつしかないってことさ」、このことに尽きる。

おまえがバカなことをしでかす前に、俺に二言三言の戯言を言わせてくれ

命の問題というのは、それがひとつしかないということだ

風邪を治療するみたいには抑鬱は絶対に治すことはできない

だがそれが続く間はおまえは俺に頼っていいんだ、そう自分に言いきかせてくれ

人生にアレルギー反応を起こすと朝は真っ暗だ

すべてがデジャヴの後味がして

夜は死んでいる、みんながおまえを放棄してしまい、月でさえおまえを見放した
だがいくつ越えるかわからない砂丘の先には砂漠の果てがあるかもしれない

すべてはうまくいく、というのは嘘っぱちだ、それはおまえも知ってるだろう

俺にもどう言っていいのかわからなくなることはあるが

いつだっておまえの言うことに耳をかたむけることはできる
すべてが変わるわけじゃない、だがおまえが動けば話は別だ

横断しなければならない砂漠を前にしたら、前に進むしかないんだ

ほかにどうしようもないんだ、前に進むしかないんだ

好転した日が来たら、その時にあの時のことを笑えばいいんだ

より良い日が来たら、より良い日が

より良い日が来たら、その時にあの時のことを笑えばいいんだ

すべての流行歌の歌詞みたいに、あらゆる女たちは去ってしまう

すべてのラップのライムみたいに、ダチたちはみんなおまえを裏切る
時にはおまえは助けが必要で、時にはおまえはひとりの友が必要になる

時にはおまえは憎しみを抱かなければならないし、時には敵だって現れる

実際のところおまえはすべてをコントロールすることはできないし、

そのことを自ら認めなければならない

ほかのすべてのことと同じように、幸せであるためには、

まずその前に幸せになるってことを教わらなければならない
寝る前におまえは明日そうすると自分に言い聞かせて眠るんだ

目が覚めたら明日そうするんだと自分に言い聞かせるんだ、友よ


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