2019年7月20日土曜日

明日は月の上で


救世主アダモ『明日は月の上で』
Salvadore Adamo "A demain sur la lune"
(1969年)

(←)2019年7月20日付けリベラシオン紙フロントページです。1969年7月20日、米国宇宙船アポロ11号の2人の飛行士によるウォーキン・オン・ザ・ムーンの50周年を記念しての5面特集記事。主要テレビをはじめ世界中のメディアで同じようなことをやっているはずなので、私がとやかく言うことではありまっせん。リベ紙はその特集のタイトルとして、当時地球的規模で大スターだったベルギー人アーチスト、サルヴァドール・アダモ(1943 - )の1969年のヒット曲のタイトル「A Demain Sur La Lune(明日は月の上で)」を採用しました。言うまでもなく、このサルヴァドールは1963年の「雪が降る」以来、日本で最もポピュラーなシャンソン歌手として君臨し、何度も何度も日本に行くから、日本語も堪能ですし、日本では最もパリ的なベルギー人と奥様がたに評判です。後輩の森進一(1947年生、1966年デビュー)は往時「日本のアダモ」と呼ばれていました。それはそれ。
この「明日は月の上で」もさっそく岩谷時子の素晴らしい日本語詞がついて日本語版が吹き込まれ、毎回日本公演では奥様がたが総立ちで唱和するほどの人気ナンバーになりました。このヴァージョンは越路吹雪など日本のおシャンソンの人たちにも多くカヴァーされています。
明日月の上で
神様のそばで
明日月の上で
大空のすみで
オリジナル曲 "A Demain Sur La Lune"は当然1969年人類月面到達という事件にインスパイアされて作られたものです。誰でも子供の頃の夢だったのかもしれませんが、お月見ならぬ「お地球見」の風流も歌詞中に現れます。どうもね、当時はロマンティックな王子さまのような、日本の奥様がたの願望に沿ったイメージが先行していたようで、あの頃、英米のポップス(ロック含め)を聴いていた日本リスナーたちと、フランス語ポップス(イージーリスニングを含め)を好んでいた人たちとの溝を大きく深めた原因のひとつにアダモがなっていたと思うんですよ。ま、(60年代ですから)ビートルズ聴く人はアダモは遠慮すると思いますよ。その溝を一挙に縮めたのがポルナレフである、という主張には一理ありますよ。だって、この歌だって、めちゃくちゃ歯の浮くような歌詞なんだ。
À demain sur la lune 明日は月の上で
Aux quatre coins des dieux 四方を神々に囲まれて
À demain sur la lune 明日は月の上で
À trois bornes des cieux 天国にたった三里の距離のところで

Il y aura un carrosse 馬車は僕たちを
Qui nous emmènera 子供の頃の夢の場所に
Voir mes rêves de gosse 連れていき
Et tu t'y reconnaîtras きみはこれは夢じゃないと気づくだろう

Et pour toi ma jolie 僕の美しい人、きみのために
Le vent, ce magicien 風という名のマジシャンは
Jouera une symphonie 千人のミュージシャンをつかって
De mille musiciens シンフォニーを奏でるだろう

À demain sur la lune 明日は月の上で

Là nous verrons la terre そこから僕たちは地球を見るのさ
Comme une boule de Noël まるでクリスマスツリーの玉飾りみたいに
Se balancer légère 宇宙の大きなもみの木に吊られて
Au grand sapin du ciel 静かに揺れている

Et d'étoile en étoile そして星から星へと
Nos chevaux voleront 僕らの馬は飛んでいくだろう
À l'heure où le ciel se voile 空が白い千の夢のヴェールで
De mille rêves blancs 覆われるとき

À demain sur la lune 明日は月の上で

Le vent te couvrira 風はきみを
D'un voile de dentelle レースのヴェールで包み
Et tu t’endormiras そしてきみは最高に美しい夜のなかで
Dans la nuit la plus belle 眠りにつくだろう
Moi moi moi je te bercerais 僕はきみの揺籠をゆすりながら
J'attendrai ton réveil きみの目覚めを待っていよう
Puis je t’embrasserai 太陽が出たらその目も気にせず
À la barbe du soleil きみにくちづけるのさ

À demain sur la lune 明日は月の上で

 なんと饒舌なことでしょう。 「ヴェール」が2回出てくるところなんか、普通作詞家として恥ずかしくてできないんじゃないの?空駆ける馬とか、クリスマスツリーみたいな地球とか、風という名のマジシャンとか、一体この人は本当に1960年代に生きてた人だろうか、と疑いたくなるんですが、その当人が1966年に第三次中東戦争(6日戦争)を勃発するきっかけとなった「インシャラー」という曲も作ってるんですね。
 ベルギーで生まれた偉大なマンガ「タンタンの冒険」(エルジェ作) の16作目で「めざすは月(Objectif Lune)」(1953年発表)というのがあります。赤白の市松模様(クロアチアの国旗のよう)のロケットで月世界探検に出発する話です。アポロ11号の16年前の想像力、そのフォルムの美しさに感服します。
 さてアダモ「明日は月の上で」に戻りますが、歌詞はどうあれ、一流のメロディー・メイカーであったアダモのこの曲のBメロ、よく聴いてください。このメロディーは1975年、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディー」にパクられたんじゃないか、と私は真剣に疑っています。

(↓)アダモ「明日は月の上で(A demain sur la lune)」


(↓)アダモ「明日は月の上で(A demain sur la lune)」日本語版


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