2013年5月26日日曜日

われらが美しきギターの時代

Georges Moustaki "Solitaire"
ジョルジュ・ムスタキ『ソリテール』

 2008年、ムスタキさんの最後のアルバムです。ヴァンサン・セガル(ブンチェロ)のプロデュースで、ヴァンサン・ドレルム、カリ、チャイナ・フォーブス(ピンク・マルティーニ)、ステイシー・ケントなどとのデュエットがフィーチャーされた、言わば後進たちの熱い後押しに支えられたカムバック祈願アルバム。その時ムスタキさんは74歳。その前の年2007年は大統領選挙の年で、ムスタキさんはセゴレーヌ・ロワイヤル候補(社会党)を支援して、数年ぶりに人前で(5月1日ロワイヤル支援集会@スタッド・シャルレッティ)歌っています。カリとの意気投合はこの政治集会の時で、このカムバックアルバム『ソリテール』でもカリの熱烈なるリスペクトがよく現れています。同じ2007年にはヴァンサン・ドレルムのプライヴェート・コンサート"FAVOURISTE SONGS"にも出演していた、ということはこのブログの前の記事で書いてますが、ドレルムもその縁で『ソリテール』に参加しています。
 ムスタキさんが自ら「われらみんなの師匠」と言ってはばからないほど敬愛していた大先輩アンリ・サルヴァドールはついこの間までバリバリの現役だったのに、その年2008年の2月に90歳でこの世を去りました。サルヴァドールの超人的な元気さに比べたら、ムスタキさんは既にかなり弱っていたような感じです。アルバムに続いて2008年5月にはオランピア劇場に出演していますが、もうかなりしんどそうな感じでした。(当時の国営フランス2のニュース↓)

Georges moustaki a l’olypia album solitaire  6... par jean_luc_arsene
 その後も精一杯の努力で、コンサートを続けていましたが、2009年2月に気管支炎を発病、以前から弱っていた呼吸器系統の衰弱には勝てず、予定されていたスケジュールをすべて中止して、歌手廃業宣言をします。
 図らずも「白鳥の歌」になってしまったわけですが、このアルバムの最初の曲は本当にそれっぽい歌で、逝ってしまった先輩たち、一緒に老いた同輩たち、みんな俺たちはギターを弾いていたんだ、ああわれらが美しきギターの時代、という郷愁300%みたいな歌なのです。歌詞に注釈込みで以下に訳してみます。
LE TEMPS DE NOS GUITARES

われらが美しきギターの時代
ブラッサンスは「ゴリラに気をつけろ!」と叫んでいた (Georges Brassens "Gare au gorille")
サッシャは自分の家族について語り、(Sacha Distel "Scandale dans la famille")
マキシムはどこかで生まれていた (Mxime Le Forestier "Né quelquepart")

ディランは転がる石のようだったし (Bob Dylan "Like a rolling stone")
ブレルはヴズールの町をワルツで踊らせていた (Jacques Brel "Vesoul")
パコはア・ガロパール(全速力)でギターをかき鳴らした(Paco Ibanez "A galopar")
われらが美しきギターの時代

われらが美しきギターの時代
ルクレールは「俺と俺の靴」を歌い (Félix Leclerc "Moi, mes souliers")
ルマルクは「町の小さな靴屋さん」で (Francis Lemarque "Un petit cordonnier")
ダルナルは「傭兵」を口ずさんだ (Jean-Claude Darnal "Le Soudard")

コリューシュはアリスティッド・ブリュアンの生返りだった
ジョエルはまだ若造だった (Joël Favreau ブラッサンスのギタリスト)
ジャン・フェラもいたし、ギ・ベアールもいた
われらが美しきギターの時代

われらが美しきギターの時代
オーフレイは「サンチアノ」を歌っていた (Hugues Aufray "Santiano")
リセは城館の召使いとなり(Ricet Barrier "La servante du chateau")
ピエール・ペレもアンヌ・シルヴェストルもジャック・イヴァールもいた

ロベール・シャルルボワはモンレアルからやってきた
ジャック・ドゥエはその故郷ドゥエからやってきた
あの時はゲンズブールがまだガンズバールになっていなかった
われらが美しきギターの時代

われらが美しきギターの時代
ブラッサンスは「ゴリラに気をつけろ!」と叫んでいた
サッシャは自分の家族について語り
マキシムはどこかで生まれていた

アンリは優しい歌を歌っていた  (Henri Salvador "Une chanson douce")
彼こそわれらすべての師匠だった
私はと言えばただのらくらと怠惰に生きていた
われらが美しきギターの時代

本当にたくさんの、たくさんの人たちがいた
そうとも、私は何人も忘れてしまった
私の記憶の力を許しておくれ
われらが美しきギターの時代の記憶を

われらが美しきギターの時代
われらが美しきギターの時代
フランス(およびフランス語圏)の自作自演シャンソンとフォーク・ムーヴメントの Who's Who みたいな歌です。ムスタキさんは最晩年にこんな歌作って、ギターぼろんぼろんのノスタルジーに浸っていたんでしょうね。特に直前に亡くなったアンリ・サルヴァドールへの敬意、もうすぐ、そっち行くからね、みたいなあいさつのようでもあります。
(↓YouTubeの投稿動画"Le temps de nos guitares")


<<< トラックリスト>>>
1. Le temps de nos guitares
2. Sorellina
3. Une fille à bicyclette (with Vincent Delerm)
4. Mélanie faisait l'amour
5. Partager les restes (with Stacey Kent)
6. La jeune fille
7. Ma solitude (with China Forbes)
8. L'Inconsolable
9. Sans la nommer (with Cali)
10. La chanson de Jaume
11. Solitaire
12. Donne du rhum à ton homme (with China Forbes)

Georges Moustaki "Solitaire"
EMI CD 2074952
フランスでのリリース:2008年5月

(↓メイキング・オブ・「ソリテール」2008年)








3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

Bonjour Pere Castor,
我が敬愛するムスタキが天に昇り、ムスタキのアルバムを聞きなおすと、この le temps de nos guitaresの美しさに改めて気づき、歌詞を検索してみると、このページが一番にあがりまして、ブログを読ませて頂きました。
日本人でムスタキのファンを初めて見つけたので嬉しくてコメントさせて頂きました。
ラジオから流れた Sans la nommerを始めて聞いたのはもう12年前のこと。そして初めてギターを買って歌ったのは Ma liberteでした。以来、ムスタキは Leonard Cohenと並び、私の好きなアーティストとして不動の位置を譲りません。
Le temps de nos guitares を聞きなおすと昔の音楽は本当によかったことに気づきます。
また今後もブログを読ませて頂きます、Merci beaucoup!

Pere Castor さんのコメント...

匿名さん
コメントありがとうございました。熱心なファンの方に読まれていると思うと気が引き締まります。"Sans la nommer"や "Le temps de vivre"のような革命や左翼の理念がはっきりした歌もあれば、人生を深く見据えた歌もある一方で、詩的にこの上なく優しい歌、それからとんでもない怠け者の歌もある、そういう詩情のレンジの広さ、というのが誰にもない唯一無二のムスタキの魅力だと思っています。
最後のアルバム『ソリテール』は、2、3の曲を除いて、どうも好きになれないでいるのですが、それは制作サイド(レコード会社EMI)がブラジル(ボサノヴァですけど)を強調して、無理矢理「アンリ・サルヴァドール型のカムバック」(2001年の『アンリ・サルバドールからの手紙』)を計算していたような商魂が見え見えのところがあるからなんです。もっと自然態なムスタキ最後のアルバムって作れなかったものだろうか、と今になっては遅すぎるイチャモンですけど。

匿名 さんのコメント...

いかにもPere Castorのおっしゃる通り、ソリテールはあまりにもボサノヴァテイストで、自分もほとんど聴いていなかったのです。De coleccion のLe meteque、 Il y avait un jardinなど、むしろそちらの方が好きです。 Solitaireがボサノヴァテイストなのにはそういう理由があったのですね。確かにもっとMoustaki色の出たアルバムを作って欲しかったですね。それでも自分はこれからもムスタキの歌を唄い続けます!
コメント返信ありがとうございました!