2009年9月2日水曜日
今朝のフランス語「ラ・ビーズ」
フランスのファーウェスト,ブルターニュのフィニステール半島の先っちょにある漁港の町ル・ギルヴィネックは,2007年秋に,欧州連合の決めた漁獲量割当のために漁に出られなくなった漁民たちが抗議運動を起こし,漁船団で港湾封鎖するなどの実力行使をして,漁民たちの救済を訴えました。その11月6日,大統領サルコジはわざわざル・ギルヴィネックまで出かけて行って実情視察をしようとするのですが,漁港で大勢の漁民たちから激しい怒号/罵声/ヤジ/卑語を浴びてしまいます。この模様はデイリーモーションなどインターネット上で大々的に伝播され,一躍このル・ギルヴィネックという町はアンチ・サルコの象徴のようになってしまったんですね。
さて,そのル・ギルヴィネックがまたニュースねたになっています。女性市長エレーヌ・タンギー(保守/大統領多数派/UMP党)が通達を出し,A型インフルエンザ予防対策として,市役所職員間の「過剰な抱擁による挨拶 embrassades superféctoires」を自粛するように命じたのです。すでに市役所内では,こういう挨拶ができなくなっていて,この通達は新学期の始まった幼稚園や小学校まで適用されることになっています。
この難しい表現の embrassades superféctoires とは何かと言いますと,町言葉では「ラ・ビーズ la bise 」なんです。つまり,頬と頬をくっつけて口でチュッ,チュッと接吻音を出す(あるいは頬に接吻してしまってもいいんですが),同性異性関係なく,ごく親しかろうがそんなに親しくなかろうが,どんな相手でも普通にする,肌と肌のコンタクト挨拶です。
これをこの市長さんは,石鹸による手洗いの励行や,一回使ったティッシュペーパーで2度鼻をかまないこと,とか,そのティッシュを捨てるための密封型ゴミ箱を設置すること,などと同じように重要なこととして,「ラ・ビーズ自粛」に市民の理解を求めます。既に幼稚園では,卓抜なるアイディアを持った先生がいて,紙製のピンク色のハートをいっぱい籠に入れておいて,子供が好きな子供に愛情を表現したい時は,ラ・ビーズの代わりにこのハートをあげるようにする,というのです。そんなもので愛情が伝わるのでしょうか。幼稚園の子供からスキンシップを取り上げるのって,考えものですが,それよりも衛生第一。
そう,衛生第一。公共の保健が最優先される2009年秋・冬です。公道での唾はき,啖はきはもともと禁止されているのですが,プロ・サッカーの試合をテレビで見ると選手がしょっちゅう唾はきをしているので,これを禁止させよ,という動きもあります。唾はきにイエローカードが出るようになるかもしれません。
ラ・ビーズ禁止令,抱擁禁止令,接吻禁止令,いろいろ出てくるでしょうね。親しい者同士に接触することを市長令で禁止するところまで,A型インフルエンザによる異状事態は進行しているのでしょうね。
未来の子供たちは「フランスには2009年まで『ラ・ビーズ』という不潔極まりない習慣があった」と歴史教科書に読むことなるかもしれません。
←カルラ・ブルーニ=サルコジに「ラ・ビーズ」をするバラク・オバマ
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2 件のコメント:
オバマさん、結構しっかりビーズしていますね。
いい写真です。
私の初めてのビーズは今から18年ほど前。
フレンチロックを聞くようになってからです。
フェスティバル春などのイベントが東京で行われていた頃です。
ビーズをすると(相手にもよりますが)近しくなれた錯覚にあいます。
日本の文化にはないから、こそばゆく新鮮でした。
秋のパリではビーズをする人たちが減っているか
この目で確かめてみます。
これ、手がおかしいですよね。最初オバマは普通に握手しようとしていたのに、カルリータが頬を突き出すので急にビーズに変えた、みたいな図でしょう。
この数日のFMはビーズではなくビートルズのことばかり(例のモノラル復刻の話です)ですが、ビートルズの1963年の歌に「フロム・ミー・トゥー・ユー」というのがあります。
If there's anything that you want,
If there's anything I can do,
Just call on me and I'll send it along
With love from me to you.
これを翌年にクロード・フランソワがカヴァーしますが、歌詞はこうなります。
Si t'as besoin de quoi que se soit
Si j'peux faire quelque chose pour toi
Vite écris-moi
Je t'enverrais avec des bises de moi pour toi
タイトルは「デ・ビーズ・ド・モワ・プゥル・トワ Des bises de moi pour toi」です。With love from me to youが愛の代わりにビーズになるわけですが、それくらいビーズがものを言う国柄なんですね。
で、英語で言うところの Kiss キスなんですが、これがこの国ではどうなるかと言いますと.... 人々が想像するKissとは異なるかの French Kissになってしまうのです。これは別物です。
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