2007年10月29日月曜日
父たちは「移民の歌」を歌っていた
オリジンヌ・コントロレ (feat. ムース&ハキム)『アルジェリア移民の歌』
ORIGINES CONTROLEES "CHANSONS DE L'IMMIGRATION ALGERIENNE"
フランスのワインや地方名産品についている「AOC」(appellation origine controlee)表示は,その産物が確かにその土地で作られていることを証明することによって,その品質を保証するものです。シャンパーニュ地方で作られていないスパークリング・ワインをシャンパーニュと称することや,ノルマンディー地方で作られていないチーズなのにカマンベールと名乗ることを妨げるためです。この「オリジンヌ・コントロレ」という耳慣れた地方物産表示は,直訳的には「コントロールされたオリジン」となり,聞きようによっては気に触る表現です。トゥールーズのゼブダ周辺の市民団体であるタクティコレクティフはこれを移民問題と関連づけて,外国人居住者への不当な差別に反対し,学校でも病院でも(未成年者でも病人でも)容赦なく不正滞在者を狩り出して強制送還させる(非人道的なること甚だしい)移民政策に抗議する音楽フェスティヴァル「オリジンヌ・コントロレ」をトゥールーズで開きました。サルコジの選挙公約であった「選択/選別された移民政策」を直接的にあてこするものですが,移民流出国(具体的にはアフリカ諸国)と条約を結び,フランスが必要な職能とその人数のみにそのビザを発給するというものです。つまり外国人労働者の出身地(オリジン)で既に選択/選別というコントロールをしてしまおうという考え方です。新しいタイプの奴隷売買に見えませんか?
アルジェリア移民は,産業革命期のヨーロッパ移民(特にイタリアと東欧)に続いて,20世紀に多くフランスに流入しましたが,フランス人に都合がいいことにヨーロッパ人たちよりも賃金が安く,原則的に短期(ほとんど季節労働)で帰っていってくれるはずだった彼らは,やがて経済成長に欠かせない社会構成エレメントとなってフランスに同化していきます。なぜならアルジェリア人は外国人ではなく独立前までフランス人だったのですから。そして彼らは兵士としてフランスのために戦場で戦ったのですから。
ゼブダのアモクラン兄弟,ムースとハキムは,このアルジェリア移民の第二世代としてフランスで生まれましたが,今日保守系フランス人たちが目の色を変えて大問題にしているこの移民というものが,ムースとハキムの親の時代にはどうだったのか,ということを当時の歌によって検証/追体験をしているのがこのアルバムです。親たちの時代ももちろんバラ色のものではありませんでした。しかし,彼らはその共同体の中で音楽を愛し,歌を歌い,日頃の憂さを晴らし,望郷の念を分かち合いました。ここに収められた多くの歌は,バルベスやベルヴィルといった当時のパリ市内のマグレブ町でのヒット曲であり,親たちはバルベスやベルヴィルのアラブ・カフェでこれらの歌を聞き,歌っていたはずなのです。
一番古いもので1930年代,ほとんどが50-60年代に「ヒット」したこれらの歌は,アラブとカビールの違いを越えて,フランスで生きるアルジェリアの悲喜こもごもの記録でもあります。このアルバムのシングルとして,今国営ラジオのFIPやコミュニティー系のラジオでよくオンエアされている「アデュー・ラ・フランス」(さらばフランス)という歌があります。
Adieu la France, Bonjour l'Algerie (さらばフランス,こんにちはアルジェリア)
Quand j't'ai quitte combien j'ai pleure (おまえと別れた時俺はどれだけ泣いたことか)
Fini souffrance fini l'indifference (もう苦しみもつれないそぶりもおしまいだ)
Bientot je s'rai avec toi ma cherie (俺はもうすぐおまえのもとに帰るから)
リフレインだけがフランス語です。このフランス語リフレインに移民のどれだけの思いが込められていたでしょうか。何度フランスにアデューと言いたかったことがあったでしょうか。
アルバムはアイト・メンゲレット,マトゥーブ・ルーネスなどの曲を含む11曲で,ムース&ハキムは「レ・モティヴェ」や「100%コレーグ」などのアルバムと同じようにアコースティック・バンドで,この歌の数々をまさにカフェで友人たちと唱和しながら演奏するようなスタイルでレコーディングしています。アコーディオン,ギター,マンドーラ,ネイ,ダルブーカなど,総勢10人のメンバーでプレイされ,私のダチのセルジュ・ロペス君もギターで参加していて,サウンド・エンジニアリングとプロデュースにゼブダのレミ・サンチェスの名前も見えます。
ラシッド・タハ『ディワン』2作にも通じる,彼らの父たちへのリスペクトです。ホームシック・ブルースは湿るよりも,みんなでわいわい歌った方がいいに決まっているのですが,この哀感はいつか笑顔に変えたいですね,変えられるものなら。
<<< トラックリスト >>>
1. AZGAR (Slimane Azem)
2. Into ADIEU LA FRANCE
3. ADIEU LA FRANCE (Mohamed Mazouni/Ahmed Soulimane)
4. TELT IYYAM (Ait Menguellet)
5. Maison Blanche (Cheikh el Hanaoui)
6. Intro LA CARTE DE RESIDENCE
7. LA CARTE DE RESIDENCE (Slimane Azem)
8. GATLATO (Djamel Allam)
9. BAHDJA BEIDHA (Dahmane el Harrachi)
10. CHEHILET LAAYANI (Abdelhakim Gourami - populaire chaabi)
11. ABRID (Matoub Lounes)
12. INTAS MA DYAS (Cheikh el Hanaoui)
13. ANFASS (Cheikh Arab Bouyazgaren / traditionnel)
CD ATMOSPHERIQUES/TACTIKOLLECTIF
フランスでのリリース:2007年10月22日
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3 件のコメント:
11/12 にパリで、Mouss & Hakim が出演する ORIGINES CONTROLEES のコンサートを見つけたものの、どういったものか分からず、ずっと気になっていた。これでスッキリです。
しかし、これは観たいですねぇ。
これはこれはMoussu D.さん、コメントありがとうございます。オリジンヌ・コントロレは10月19日にマルセイユのフィエスタ・デ・シュッドでマッシリアと看板を分けてのコンサートでした。この時の模様は下のurlで見れます。
http://www.concertandco.com/critique/fiesta-des-suds-massilia-sound-system/critique-concert-1-19373.htm
アルバム『アルジェリア移民の歌』の試聴サンプルと、そのツアーの映像/画像はタクティコレクティフが作っているOrigines Controlees のブログに載っています。
http://originescontrolees.blogspot.com/
12日のパリ、ニュー・モーニングでのライヴは楽しみですね。
(仕事の話はこのブログではしないようにしたかったのだけれど...)
12日のニュー・モーニングにも行けなかったし,何度お願いしてもレーベルからの返事がなかったので,先週からほとんどあきらめていたのですが,今日になって「ほぼ大丈夫」の知らせ。うれしいです。
ちゃんと翻訳しないといけませんね。大事なアルバムだから。年内には日本の店頭に並ぶかしら?
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