マッシリア・サウンドシステム『アニヴェルサーリ』
マッシリア・サウンドシステムの40周年アニヴァーサリーアルバム。1984年5月20日(日曜日)、マルセイユのストリートアートの聖地ル・クール・ジュリアンで初お目見えラバダブ(Rub à Dub)を敢行したというのが、マッシリア誕生の瞬間であった。40周年記念ツアーは6月29日から始まり、そのハイライトは7月19日のマルセイユ旧港の水上特別ステージを使ったメガ無料コンサートということになっている。
さてこのアニヴァーサリーアルバム『アニヴェルサーリ』は新曲がない。2022年から23年にかけて、マッシリアの歴史的ナンバー20曲をオールドスクールRub a Dubスタイルで再録音し、コレクター仕様の7インチシングルの2種のボックスセット(私はあまり興味ないので買っていない)として発表したものの中から、10曲をピックアップして再収録、加えてインスト2トラックを含む4曲のボーナストラック、という14曲。だからオリジナルアルバムという性格はない。お祝いもの。いいのかな?2024年6月のフランス、天下取りを成就する一歩手前まで来ている極右を食い止めんと、急遽超党派連合を果たした”新”人民戦線の熾烈な闘いを横目で見るように...。私はこの味もヒネリもない旧作再録音にあまり感心しなかったので、アルバム評はせずに、6月29日付けのリベラシオン紙に2面を占める記事になったタトゥーのインタヴューを訳して紹介したい。
リベラシオン「40年前マッシリア・サウンドシステムを結成するに至った動機は何だったのですか?」
80年代初頭のマルセイユの自由FM”Radio Galère"の番組「スカンク」からすべては始まった。その中で俺はダチのジャノ(別名 Jah No)と二人でインストルメンタルに乗せて即興で時事問題についチャチュ(Tchatche =でまかせ説法)したんだ。こんなことをするのは世界で俺たち二人だけだと思っていたんだが、ある日別の自由FM局”Radio Activité"でジョー・コルボー(Jo Corbeau) が同じようなことをしていたのを知った。彼と出会い、親しくなると、自然と俺たちの周りで仲間が増え不定形のバンドのようなものができて、1984年5月、マルセイユのル・クール・ジュリアンで初めてのコンサートを開けたというわけさ。だがバンドが本格的に4、5人のメンバーとして固まったのはそれから1、2年経ってのことだった。俺たちの目標はそれを俺たちの生活にすることだった。俺たちはみんなロックンロールの世代だったんだから。俺たちが望んでいたのは Rock & Folk誌(仏ロック雑誌1966年創刊)に書いてあったようなことを実践することだった、すなわち Sex, Drugs and... Reggae、さ。
リベラシオン「なぜレゲエなんですか?」
それは当時のパンクとレゲエの混じり合いのおかげさ。さらにサウンドシステムのカルチャーには思想伝達と即興表現の度量の大きさがあったんだ。ストリートのメディアみたいなもんだ。俺たちはみんながマルセイユに感じていたような文化的砂漠のような諦め感を拒否して、このカルチャーにおおいに興味を持ったんだ。あらゆる若者たちがマルセイユを出て行きたいと思っていた。ここで何かをしようというのは想像できないことで、パリかロンドンに移っていくしかなかった。だがマッシリア・サウンドシステムにはミュージシャンだけが集まったわけではなく、画家もいたし、服作りをしている者もいた。だから一種の複合種目のムーヴメントだったのさ。
リベラシオン「歌詞にオック語を使用するというのは?」
マルセイユの言語表現を交えたのさ。俺たちの音楽を中心にしたひとつのトータルな世界を創ろうとしたんだ。まず手始めにジャマイカの土地の表現を真似てみた。例えばラスタたちがあいさつとして言う「アイリー(Irie)」(=クール、OK、ナイス)を俺たちは「アイオリ(Aïoli)」に変えた。ラスタファリズムにおけるイスラエル部族を俺たちはマルセイユ部族に置き換え、ラス・フェルナンデル(Ras Fernandel)やジャー・レミュ(Jah Raimu)といった偶像的人物も生み出した。それに俺はごく若い頃から新しいオック語表現のシャンソンに興味があったんだ。それである時それをレゲエとミックスしてみた。初めてオック語で歌ったのは、異星人を迎えるコンサートと題されたラ・ボンヌ・メール(ノートルダム・ド・ラ・ガルド聖堂)でのライヴだった。よく覚えている。これはジョー・コルボーのクレージーなアイディアさ。ジョーは俺たちの父親みたいなもんだった。そこから俺たちはオクシタン・ムーヴメントの人々と交流するようになり、俺たちの第二の父親とも言えるファビュルス・トロバドールのクロード・シクルと出会うことにもなった。一種の民族音楽研究家でもあるクロードと俺たちはいろんな共通点があった。このことで俺たちのものを見る尺度が変わり、俺たちはマルセイユからオクシタニア全体を照射するようになったんだ。
リベラシオン「音楽はメッセージを伝達ための口実ですか?」
民俗音楽というのはその歌詞が即座には理解できなくてもメッセージを伝えられる魔力を持っている。例えばブルースマン、きみは彼が物語っていることを把握できなくても、彼が言おうとしていることを見抜くことができる。俺が初めてボブ・マーリーを聞いた時、俺は英語がよくできなかったが、彼が歌っていることはクリアーに感じ取ることができた。俺たちの大きなメッセージは他者性(Altérité = 非類似性、差異)であり、世代間の混合であり、お互いに似通っていない人々を俺たちの旗印のもとに集結させることだ。だけどマッシリアのコンサートにはパスティスを飲む目的だけで来る連中もいるよ(笑)。
リベラシオン「まさにそのパスティスですが、あなたたちは往々にしてアイオリ、パスタガ(パスティスの町語)、ガレジャード(マルセイユ人のホラ話)といったマルセイユ・フォルクロールにのみ矮小化して語られることがありましたが...」
地方人とはいやな言葉だが、彼らはしょっちゅうそのクリッシェ(俗に一般化しているイメージ)だけで見られてきた。北フランス出身と言うと、ビール飲みと言われるだろう。俺たちにとってはそのクリッシェこそが、共同の親しい空間をつくる上でとても役に立つ道具になるんだ。俺たちの聴衆の中でも、これをちょっと低俗なもののように言うやつらがいるけど、気にしてないさ。俺にとってフォルクロールは人民のテレビ映像なんだ。大衆的なものと伝統的なもの、そしてちょっと高尚なものの混じり合ったもので、アーティスティックなクリエイションとして語られるものさ。
リベラシオン「あなたたちがマッシリア・サウンドシステムとして体現しているこのマルセイユとその周辺の土壌をどう定義しますか?」
それはグランド・ブルー(紺碧の海)と、地中海を囲む国々や俺のように北からやってきたよそ者たちが働くためにやってきた工場の結合体なんだ。人種のるつぼであり、街はさまざまなガラクタを集めて作られたものだ。しかしながらこれらの様々な違いが集まりひとつの集合体となり、それに属することの誇りが例えばスタジアムなどで自慢の叫びとなって表現されるんだ。これはユニークなことさ。様々な違ったルーツをわがものとしてしまう度量、それはある種マルセイユ人としてすべての人を帰化してしまうキャパシティーなのさ。例えば俺がアルメニア人やアルジェリア人の友人宅に行くと、彼らはアルメニア語やアルジェリア語で話し、アルメニア料理やアルジェリア料理を食べるんだが、結局のところ彼らはみんなマルセイユ人なんだ。
(・・・中略・・・)
リベラシオン「マッシリア・サウンドシステムは政治的意思表示のあるバンドだと思いますか?」
バンドのメンバーは全員意思表示している。俺たちは組合に加盟しているし、左派としてのバックグラウンドがある。それは俺たちのやっている音楽と調和しているし、マルセイユとも符号している。その反対側に行きながら、連帯や平等の価値を前面に押し出すのは難しいことさ。俺たちの聴衆も意思表示があるからこそ俺たちもその意思を表現するんだ。これもまたフォルクロールさ。それは日常生活において有意義なことなんだ。俺たちの歌は勇気を与え、毎朝仕事に出かける人の背を押し、悲しい時に一緒にいてやり、デモの時に歌われるものなんだ。これは重要だよ、マルセイユでは俺たちの歌はいつもデモで歌われる歌のトップ10に入っている。最近では俺たちはSOS Méditerranée(地中海を渡ってくる難民たちへの支援NGO)のためのコンサートで演奏したけど、俺にとってこれは”政治意思表示”と言うよりも単純に当然のことなんだ。
リベラシオン「マッシリアの40年にわたる政治意思表示にもかかわらず、極右政党(FN国民戦線→RN国民連合)の伸長は止まっていない...」
俺はそれを苦々しく思っているさ。だけど俺は政治家ではないから、それは俺の個人的な失敗ではない。ジレ・ジョーヌ運動が起こった時、多くの人たちが良からぬ理由でこの傾向に傾いていったのを俺は見ている。しかしもう何十年と繰り返している労働者階級の敗北のあと、そのことが人々の熟考をさまたげ、食卓テーブルをひっくり返すやつらの方に近づいていったということを俺は理解しないでもない。みんなそのやつらがイカサマ師であることを知っていても、だ。
リベラシオン「あなたたちは選挙で投票しますか?」
もちろんさ。マッシリアのメンバー全員が投票すると思うよ。
リベラシオン「あなたたちが活動を始めた頃、マルセイユの市長はガストン・ドフェールでしたね。今日市長はブノワ・ペイヤンになりました。この間に何が変わったと思いますか?」
以前は旅行者たちが来ていたが観光客(ツーリスト)は来なかった。それがマルセイユが流行のデスティネーションになってしまった。今日、対外的にはマルセイユのライト・ヴァージョンを売り物にしている。このあいだ俺はパニエ地区(マルセイユ旧港に近い歴史的街区)に行ったんだけど、そこでマッシリアは結成されたんだ。あの当時タクシー運転手は怖がってそこに行きたがらなかった。今やこの界隈をツーリストたちが集団で自転車やキックスクーターでやってくる。AIRBNB(民泊レンタル)のために大きな南京錠がいくつも吊り下がっている地区もある。まったくクレイジーだ。よろず屋やパン屋がなくなり、その代わりにアートギャラリーや先端流行のブティックが並んでいる。老朽化して危険な状態にある住宅の問題や市民を巻き込み死者を出すギャング抗争の問題を置き去りにして、大挙してやってくるツーリストたちを受け入れているマルセイユ市民たちの生活はかなり難しいものになっている。俺はラ・シオタに住んでいるが状態は全く同じだ。俺が住んでいる小さな通りには今や6世帯しか生活していなくて、残りの建物はみんないわゆるキャスター付きスーツケース族ばかり。それ自体悪いこととは言わない。ただそれに伴って物価が上がったりするのはごめんだし、子供たちだけに貸し出すのもやめてほしい。近所づきあいが壊れてしまう。3日間だけ民泊で過ごすやつらにとって、近所のことなんて全く頭に入っていない。バルセロナやリスボンでも事情は同じだ。住民たちは自分たちの住んでいる町にいながらにして追放されているように感じている。まるでツーリストの行き来が絶えないネイティブアメリカンの保護区の住人のように。
リベラシオン「マッシリアは7月19日にマルセイユ旧港の水上特設ステージでの無料コンサートに登場します。それは10年ほど前には考えられなかったことだと思うのですが...」
たしかにそうだ。以前は俺たちは常に政治家たちから無視されていた。俺が記憶しているのは当時文化大臣だったジャック・ラングがマルセイユを訪問した時に、当時のマルセイユ市長だったロベール・ヴィグールーに俺たちのことを紹介したんだが、ヴィグールーは俺たちが何者で何をしているのか全く知らなかった。だが今だにこのマルセイユ市には文化と音楽に関する根本的な仕事というものがない。
リベラシオン「あなたたちとマルセイユのラッパーたちの関係はどうなっているのですか?」
全く関係はない。同じ種目に属していないのだから当然だよ。彼らがヴェロドローム・スタジアムを満席にするコンサートを打つことは結構なことだよ。俺がただひとり注目しているのはジュル(Jul)さ。非常に興味深い。彼ははっきりと自己を持っているし、彼がものを言う時、俺はマルセイユの小さな声を感じて、とてもいいと思っている。俺たちは彼が避難の攻撃に曝された時みんな立ち上がって援護したさ。オリンピック聖火がマルセイユに到着し彼がマルセイユの聖火台に点火したことで起こったスキャンダル攻撃。あたかも突然に恐ろしい野蛮が文明に襲いかかってきたかのような。その時、やつらはその音楽にも激しい攻撃を展開した。オートチューンを使ったものなど音楽ではない、と。俺には覚えがあるよ、俺が若かった時エレクトリック・ギターに関して同じことを言っていたし、しばらく後ではスクラッチもそう言われた。俺はね、これらすべてのことの背後にあるのは、階級的侮蔑(mépris de classe)だと思っているし、それが俺をイラつかせるんだ。
(リベラシオン紙2024年6月29日、インタビュアー パトリス・バルドー)
Massilia Sound System "Anniversari"
CD/LP/Digital Manivette Records MR43
フランスでのリリース:2024年6月
< トラックリスト >
1. Lo Oai totjorn
2. Joyeux Voyous (renew)
3. Canon Es Canon (renew)
4. Qu'elle est bleue
5. Pas d'arrangement (renew)
6. L'eau et le gaz
7. Cròniq (renew)
8. Frit confit
9. 3MC's sur la version (remix)
10. A Cavalòt
11. M. Spock (bonus)
12. Janvié special blend (bonus)
13. Aiolilili party (bonus)
14. Blu side medley (bonus)
カストール爺の採点:★★☆☆☆
(↓) マッシリア・サウンドシステム40周年ツアーのプロモーション動画
(↓)マッシリアの40年/プロモーション動画
(↓)マッシリア・サウンドシステム『アニヴェルサーリ』全曲
0 件のコメント:
コメントを投稿