2023年7月24日月曜日

ヴェロニク・サンソンの用例

FabCaro "Moins qu'hier (plus que demain)"
ファブカロ『昨日よりも少なく(明日よりも多く)』
(Glenat刊 2018年5月)


ファブリス・カロの名を一躍ビッグにした不条理BDアルバムの大傑作『ザイ・ザイ・ザイ・ザイ』(2015年)の3年後のBDアルバム。ウェディング特盛麺というなんともシュールな表紙である。げに男女の仲とはシュールなものであり、出会わないミシンとコウモリの関係であり、それは往々にして知り合う前から壊れている。ファブリス・カロはその「壊れ」のさまざまな位相を1ページ基本6コマで描いてみせる。全部で約60編。
とりあえず2編紹介してみよう。

午前7時16分 アガットとベルナール

(上左)
男:う〜ん、きみのコーヒーはうまいよ、マ・シェリー。
(上右)
男:朝早くにきみを目の前にして飲める、なんてしあわせなんだ。
(中左)
男:僕はきみの起きがけの顔が大好きなんだ。髪も整えず、化粧もしていない。素敵だよ。
(中右)
女:ベルナール、あなた本当にむかつく人ね。いつもポジティヴで、すべてに満足してる。
(下左)
女:私あなたにうんざりしてるってやっと気づいたの。
(下右)
男;ほら、このことだよ。僕たち二人で最高なのは、どんなことでもお互いに言えるってこと。すばらしいことだよ。




21時28分 カミーユとフローラン

(これは絵だけでわかると思うんだけど、無粋に翻訳を)


(中右)
女:うまいわね。
(下左)
女:ギターのあとは、なにか違うものがいいわね。私の言いたいことわかるでしょ。
男:ああ、とてもよくわかるよ。









 
まあ他にも秀作はたくさんあるんだが、とどめを刺す一編というのがこれ(↓)。1ページひとコマ。フィーチャリング:ヴェロニク・サンソン(赤線は私)。


19時46分 マエルとクリストフ

女:クリストフ、あなたすっかり変わってしまったのね。知り合った頃には、まさかあなたがヒットラーの口ヒゲをして
ヴェロニク・サンソンの歌を歌いながら、テニスラケットを左手に、ウィンドーシャッターのパンフレットを右手に持って、リヴィングルームで裸でウンコするなんて考えもしなかったわよ。









 

この「壊れ」のありさまはシュールを通り越して異次元ワープものである。さてこの場合のヴェロニク・サンソンというメタファーの意味である。決して時代遅れの歌や人前で歌って恥ずかしい歌(例えばミッシェル・サルドゥーの歌のような)というニュアンスではない。これは英米ポップの歌を(英語で)暗記して歌えない人でも、あの時代(すなわちセヴンティーズの)新しげな(仏)ポップソングだったと愛した、ノンアングロフォン(No English spoken)の愛唱歌、という立ち位置。スノッブな人たちが鼻で笑うような。今日ではジュリエット・アルマネやクララ・ルチアニによるサンソン再評価によって、それほど抵抗はなくなったものの、その前はカラオケで歌うのもちょっと勇気が要ったと思うよ。さしずめこのクリストフが(ウンコ垂れながら)歌っていた歌というのは容易に想像がつく。「アリア・スーザ」(↓)に違いない。


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