2011年8月16日火曜日

気体になったアラン・ルプレスト



 2011年8月15日、アラン・ルプレストが自殺しました。プロデューサーのディディエ・パスカリがAFPを通じて発表したコミュニケによると、ジャン・フェラの「山」に歌われ、フェラが半生を過ごしたアルデッシュ地方の山村アントレーグで7月半ばに開かれた「ジャン・フェラ・フェスティヴァル」にメイン・ゲストとして出演したルプレストは、そのままその村でヴァカンスを過ごしていましたが、15日未明に死体で発見されました。遺書は残されていますが、公開されていません。
 2008年1月、私はメニルモンタンのカフェでアランと会い、シャンソンのこと、詩のこと、病気のことも含めてたくさんのことを聞きました。誰もがアランの余生はいくばくもないと思っていた頃で、脳腫瘍の手術を奇跡的に成功させたものの、肺ガンが進行していた頃でした。ブレル、フェレ、フェラ以来のシャンソン詩人と言われながら、一般には知られず、オランピア出演は一度だけ、というマージナルなアーチストの作品を、他のアーチストたちが愛し、これらの歌は詩人が生きている間にもっともっと知られなければならないと言い、トリビュートアルバム「シェ・ルプレスト」(ルプレスト亭で)は2巻作られました。オリヴィア・ルイーズ、ジャック・イジュラン、ニルダ・フェルナンデス、エンゾ・エンゾ、イヴ・ジャメ、ロイック・ラントワーヌ、クラリカ、ケント、ラ・リュー・ケタヌー...。
 詩人はこれらのシャンソン「同業者(コレーグ)」たちに支えられて、元気を取り戻しているように見えました。バタクランで開かれた「シェ・ルプレスト」の宵は超満員で、喝采の中でルプレストは人々に愛されていることを感じたはずです。
 私はその後も何度かメニルモンタン界隈でアランと出会っていて、この写真の頃のような抗がん剤使用による脱毛状態から脱して、頭髪がどんどん伸びているのを自慢して私に見せてくれました。「いろんなプロジェクトがあるんだ」と会うたびに新アルバムのことや、新しい共演相手のことなどをうれしそうに話してくれました。
 2009年アルバム『氷山が溶けてしまう時』が発表され、私のブログでも紹介しました。私はそこで「死の床からの帰還を記念するアルバム」と書きました。死の床で書いた詩を再びシャンソンという声のアートで作品化できる、これは帰還です。脳という言葉の出どころを冒され、肺という声の出どころを冒され、アランの中でシャンソンは死ぬしかなかったのに、アランはシャンソンで帰ってきた。私たちはあの頃、少し軽々しくはありますが、「不死身の男」と彼を呼んだのです。
 しかし、病いの状態は完治ではなく、あくまでも Rémission(レミッシオン)= 鎮静期間であったにすぎません。闘病中も鎮静期間中も酒とタバコはやめていなかったようです。

 16日、レコード会社ロートル・ディストリビュシオンのリュック・ジェヌテーと長い時間電話で話しました。彼もすべての情報を集められているわけではありませんが、重いショックの中、電話の応対に追われていました。アントレーグのジャン・フェラ・フェスティヴァルにリュックは行っていないものの、見た人たちの証言によると驚くほど若々しく張りのあるステージだった、と。デビューアルバム『Mec(野郎)』(1986年)の頃のアランを見るようだった、と。観る者たちもアーチストもこのステージに大満足だったから、アランはこの村に残って休暇をすごすことに決めたのではなかったのか、とリュックは自問します。
 2011年末発表予定とされていた新アルバムは、どこまで進行していたものかわかりません。また来年にはパリのラ・シガールでの連続コンサートの予定が入っていました。

 俺が気体になったら、もっともっとスウィングするさ
  俺は神様のサキソフォンを出入りするジャズになるのさ
 Pour moi ça gazera mieux quand je serai devenu du gaz
  Quand je serai devenu du jazz, dans le sax du bon Dieu

 アラン・ルプレストは気体になってしまいました。鳴きたい気体。泣きたい気体。アラン、生きたい気体ではだめだったのですか?

(↓ Allain Leprest "C'est peut-être")

 

<<< 爺ブログ内のアラン・ルプレストに関する記事 >>>

2008年1月20日 明日アラン・ルプレストに会う。
2008年1月22日 
Allain Leprest is alive and well and living in Paris

2008年2月3日 Le Bonheur est dans Leprest
2008年3月13日 バタクランで「シェ・ルプレスト」
2008年8月5日 今朝の爺の窓(2008年8月)

0 件のコメント: