2011年8月22日月曜日

A cause du soleil... 太陽のせいやんけ...



 こういうどこの家の庭/ベランダにでもあるような白のプラスティック椅子でした。屋外や覆いのないベランダのようなところで使われるために作られたものですから,悪天候でもそのまま外に放置されています。
 この夏,ヴィルヌーヴ・ルーベに2週間借りたレジデンスのベランダにも4脚ありました。こういう生活の場合,リヴィングで食事を取るのは稀で,だいたいがベランダでアペロや食事や団らんの語らいの時間を過ごすことになります。テレビは備え付けてあるものの,ほとんど見ない。FMラジオは音楽だけでなくローカルな天気予報やイヴェント情報が入るので,レジデンスにいる時はほとんどつけっぱなし状態で,十数年前に買ったAIWAのCDラジカセは今夏も大活躍で,ベランダでゴキゲンな音楽を流し続けてくれました。
 私たちのお気に入りのステーションはふたつあって,中高年である私と奥様はラジオ・モナコ,ハイティーンである娘はKISS FM,共にパリでは聞けないコート・ダジュールの地方ステーションです。
 この夏のヴァカンスはわが家は,私+奥様+娘+犬様に加えて,娘の親友のルイーズというお嬢さんを連れての,4人+1匹の休暇でした。レジデンスにはちょっと立派なプールがついていて,午後9時まで開放しているので,私たちが午後7時頃にビーチから帰ってきても,娘たちはプールに直行して,あたりが薄暗くなるまでプールで遊んでいます。そして私が3階(最上階)からプールに向かって「ア・ターブル!(食事ができたから帰っておいで!)」と叫ぶと,水着のまま上がってきて,そのままテーブルに着席します。この場合,このプラスティック椅子がたいへん役に立つわけですね。濡れてたってかまわないわけですから。
 さて,このプラスティック椅子なんですが,私たちが入居して3日めの昼,体重84キロの私が食後満腹のリラックス気分で後ろ方向にちょっとスウィングしたら,4本ある脚の後ろ側の2本がバレエの大開脚のようにゆっくりと左右に広がっていき,私の体もスローモーションで後方に倒れていき,限界点でプラスティック椅子はバキっと大きな音を立てて一本の脚を折ってしまい,私は椅子と共にベランダのコンクリート床に倒れて,後頭部を激しく打ってしまったのでした。
 ここはどこ? 私は誰?
 人の不幸をなんとも思わず,奥様と娘たちはこのスペクタクルに大笑いして喜んだのでした。そしてこのアクシデントの原因はひとえに私の体重にある,と決めつけたのです。太りすぎ,食べすぎ,飲みすぎ,運動不足。あらゆる名前をつかって私の過失を責めるのです。したり顔で「これが教訓だからお父さんは痩せる努力をしないと」などとのたもうのでありました。
 そんな理不尽な,そんな不条理な...。
 私の不幸を少しもおもんぱかってくれない女性たち。打った後頭部を気遣って,なでなでしてくれるくらいの愛情があってもいいんではないですか,え? もしももっと頭を強く打ってしまって万一私が死んでしまったら,「プラスティック椅子殺人事件」が立件する可能性だってあったかもしれないんですよ! だいたいこの椅子は体重84キロごときで脚が折れるはずはないでしょう。一体誰がこの椅子脚が折れるように細工したのか? 奥様か? 娘か? ルイーズか? 犬様か? 私に殺意を抱いているのは一体誰なのか?

 その午後,レジデンスの管理人室に壊れたプラスティック椅子を持って行って,事情を説明して,椅子を取り替えてもらいました。その時管理人のムッシューに聞きましたよ - 「この椅子ってそんなに弱いものなんですか? 私くらいの体重でも耐えられないものなんですか?」 - するとムッシューはこう言ったのです「それは太陽のせいなのです。- C'est à cause du soleil」と !!! 強い日射に晒されっぱなしだと,プラスティックは強度を失ってしまうのです,と。きわめてきわめて文学的な瞬間でしたね。私の体験した不条理は「太陽のせい」という一言ですべてが了解できたのでした。一瞬にして地中海的でカミュ的なヴィジョンが目の前に広がります。

↓ルッキノ・ヴィスコンティ『異邦人』(1967年。ムルソー役にマルチェロ・マストロヤンニ)


2 件のコメント:

kay さんのコメント...

カストール爺さま

はじめまして。こんにちは。
いつも興味深く拝見させていただいています。

今回の記事を読んで、わたしも思わず
カストールさまの女性陣と同じように
笑いをこらえることができませんでした。

そして、オチがあまりにもステキだったので
わたしの拙ブログでもつかわせていただきました。
ありがとうございます。

これからもカストールさまのブログを楽しみにしています。

Pere Castor さんのコメント...

Kayさん,コメントありがとうございました。私ら中高年はカミュ「異邦人」は中高生の頃に読んで,若くして不条理の頭痛のタネを作ってしまった世代です。あなたはフランス語がおできになるので分かると思いますが,passé composéで書かれているというだけで教授から「読みやすい小説」と促されて,その短さも手伝って,仏文科生が最初に読了するフランス語原書の定番でした。
フランス語続けてますか? 私はいつまでたっても passé composé どまりですよ。また時々のぞきに来てください。