2010年11月12日金曜日

赤い城(シャトー・ルージュ)をハカイしろ



Abd Al Malik "CHATEAU ROUGE"
アブダル・マリック『シャトー・ルージュ』


 2007年の大統領選挙で社会党セゴレーヌ・ロワイヤル候補が負けた時に、敗因のひとつに彼女の「声」があった,という説がありました。ロワイヤルの声に魅力が乏しい。仮に全く同じ演説を,サルコジの声で聞くのとロワイヤルの声で聞くのでは、サルコジの声の方がはるかに人を説得させるものがあるだろう、という説でした。たしかにそういうものがあると思います。しかし,その説に触れて,元TVジャーナリストでベルナール・クーシュネール現外相の夫人,クリスティーヌ・オックランは「声は訓練で直すことができる」と言ったのです。すなわちセゴレーヌ・ロワイヤルはその訓練を怠って,声を修正しないまま選挙に臨んで負けた,と。
 アブダル・マリックがラップでもスラムでもなく、「歌」を歌う時,私はあの声はどこに行ったのだ?と戸惑ったのです。スラムでビロードの声が出せても、歌うとそれが出ない。非常に奇妙な感じがしたのです。これではMCソラールではないか,と。
 そしてこれには賛否両論が出るであろう,ということは前もってアブダル・マリック自身が知っていました。テレラマ誌のシャンソン欄ジャーナリスト,ヴァレリー・ルウーのインタヴューに答えて,アブダル・マリックは自身の大転換を「初めてエレクトリック・ギターを持ったボブ・ディラン」になぞらえたのです。おいおいおい!
 前2作のアルバムに比べれば,確かにラジカルな変化です。しかし彼が「歌う」ことは、ボブ・ディランがエレキを持つことではないでしょうに。そして,もっと「歌う声」を形成してからの方がよかったのではないか、という気がします。
 不満はあれど、新しい方向に踏み出たアブダル・マリックはやっぱり面白いのです。彼にとっての「ヒップホップ」は、あらゆるものが溶け込んでもいい音楽であり、彼がジャズやポエトリー・リーディング(スラム)やシャンソン(グレコ,ブレル)をその中に溶け込ませたように、また哲学やヒューマニズム全体への考察をライムに溶け込ませたように、今度は「歌」(ポップ〜ヴァリエテ)とエレクトロとダンスビートを大胆に溶け込ませたのです。
 共犯者としてプロデューサーにチリー・ゴンザレス。効果的かつ小気味よいポップに仕上げるには、今日ゴンザレスほどの適任者はいないかもしれません。それがアブダル・マリックの持ち味とうまく調和するか,というのが問題ですが、私はすべてが成功したとは思えません。
 英語を混ぜるのは、やはりこの人の本領ではないのではないか、と思います。モリエールの言語だけでやってほしいなあ。
 14曲のアルバムで,新奇のグルーヴや、異種交配実験や,歌うエレポップみたいなもの中で,祖父の死でルーツ回帰してしまう「ヴァランタン」(1曲め)、ガキの頃の自転車競争で事故った思い出「ディナモ」(6曲め。自転車なのでどことなくクラフトワーク"Tour de France"みたいなバックトラックが妙におセンチで)などスラムものが私にはやはり一番しっくりくるようです。そしてアルバムタイトル曲の14曲め「シャトー・ルージュ」は、ジェラール・ジュアネスト(ジャック・ブレルのピアニスト,ジュリエット・グレコの夫)との再会で,ジュアネストのピアノ(作曲はジュアネスト自身)を伴奏にした12分の散文詩(叙事詩)リーディングです。雨の音やドアのしまる音や往来の音,想像したら簡単に絵が見えてしまうラジオドラマのような、懐かしくも情感も語彙も豊かな詩人の世界。絶対これが本領でしょうに、と納得させるための曲でしょうか。それとも「俺は何も変わっていない」という証拠を残したかったんでしょうか。

<<< トラックリスト >>>
1. VALENTIN (Abd Al Malik / Bilal)
2. MA JOLIE (Abd Al Malik / Wallen)
3. MISS AMERICA (Abd Al Malik / Bilal)
4. MON AMOUR feat. Wallen (Abd Al Malik / Wallen)
5. LE MEILLEUR DES MONDES / BRAVE NEW WORLD feat. Primary 1 (Abd Al Malik, Primary 1 / Bilal)
6. DYNAMO feat. Ezra Koenig (Abd Al Malik, Ezra Koenig / Wallen)
7. CENTRE VILLE (Abd Al Malik / Wallen)
8. GOODBYE GUANTANAMO (Abd Al Malik / Bilal)
9. NEON feat Mattéo Falkone (Abd Al Malik, Mattéo Falkone / Bilal)
10. WE ARE STILL KINGS (Abd Al Malik / Wallen)
11. ROCK THE PLANET feat. Cocknbullkid (Abd Al Malik, Cocknbullkid / Wallen)
12. SYNDI SKA LISTE (Abd Al Malik / Wallen)
13. GROUND ZERO (ODE TO LOVE) feat. Papa Wemba (Abd Al Malik, Papa Wemba / Wallen)
14. CHATEAU ROUGE (Abd Al Malik / Gérard Jouannest)

Abd Al Malik "CHATEAU ROUGE"
BARCLAY / UNIVERSAL FRANCE CD 2753875
フランスでのリリース:2010年11月8日


(↓アルバム『シャトー・ルージュ』のティーザー)


PS : 12月4日
2010年11月9日、パリ・ゼニットでのアブダル・マリック "Ma Jolie"。アコースティック・ギターにテテ。

0 件のコメント: