2009年11月24日火曜日

ペイジの技もなく、プラントの声もなく、しかし!



 THEM CROOKED VULTURES "THEM CROOKED VULTURES"
 ゼム・クルックト・ヴァルチャーズ 『ゼム・クルックト・ヴァルチャーズ』


 わが窓から見える対岸の夏ロックフェス「ロック・アン・セーヌ」で、この夏爺がぶっ飛んだバンドの初アルバムが届きました。クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・ネイジ(QOTSA)のジョシュア・オム、ニルヴァーナ〜ザ・フー・ファイターズのデイヴ・グロール、レッド・ゼッペリンのジョン・ポール・ジョーンズが集まったバンド、ゼム・クルックト・ヴァルチャーズです。私は門外漢で、普段ほとんどロックを聞かないのですが、その門外漢があのステージを見てしまったために、かなりの興奮度で待ちわびていたアルバムです。本当に久しぶりのことです。全ジャンルを通してアルバムを待ち望むこと自体、本当に久しぶりのことなのです。
 良いオーディオで聞きたい、そう思いました。結局人に遠慮することなく大音量で聞けるカーステが理想の環境ですし、しかもパリを外周する環状自動車道(ペリフェリック)を混雑のない夜10時以降に運転しながら聴くというのが、私の貧乏臭い恍惚の瞬間を持続的につくってくれたのでした。
 重戦車の地響きのようなものに快感を覚えるのではありまっせん。はっきりと聴こえてくるのは激しく連打するドラムスの音であり、うねりまくる重低音のベースの音です。オールドスクールの重いロックビートです。私はツェッペリンはわずかに編集盤4枚組CD(ロングボックス)1セットを持っています(日本で若い時分に持っていたLPは今頃どこで朽ち果てていることやら)。ディヴ・グロール関連ではニルヴァーナはLPを持っていますが、フー・ファイターズは何も持っていません。ジョシュア・オムに関してはQOTSAもイーグルス・オブ・デス・メタルも何も持っていないどころか、聞いたこともありません。こういう私ですからここで講釈できるようなものは何もないのです。
 アートワークがわかりやすい。鳥の頭をした男が3人。だから鳥男(トリオ)。
 なぜにこんなに強烈に揺さぶられるのか。その揺さぶられがどうしてこんなに心身の奥底を刺激するのか。これは説明のしようがないのですが、私たち中高年には最初に太古の記憶のような意識下の懐かしさなのかもしれません。幼年期に私は、自分が乗ったバスや車がバックする時、不快に近い、息がつまりそうなセンセーションを覚えたものでした。それがいつの間にか何ともなくなったのですが、子供の頃それがとても嫌だったという記憶はある。このバンドを夏にロック・アン・セーヌで初めて見た時、こういう音に揺られると、その不快に近かったセンセーションを思い出してしまったような気がしたのです。そしてその不快はバランスが崩れる恐怖だったのかもしれないけれど、グラっと揺れることが快感に近いものに変わっていく体験をあなたはしていませんか? 最初の煙草や最初のアルコールは誰にとっても不快なものであったはずです。それがグラっと揺れるときに違うセンセーションを覚えた時にあなたはそれをやめることが難しくなったのではありませんか? 遊園地で目の回る遊びをたくさんした記憶みたいなものじゃないですか?
 話が音楽から外れましたら、もとに戻すと、このバンドでこの揺れを作っている真犯人はデイヴ・グロールのドラムスでしょう。力まかせとシンコペーション、この二つの武器でゴッホの絵のように大気にさまざまな渦巻きを次々に描いてしまっているようなドラミングです。
 揺さぶりの13トラック66分。薬品もアルコールもなく陶酔できる人たちの幸福。デイヴ・グロールとJP・ジョーンズが決め手を握っている曲では、そこにペイジのヴィルツオーゾがなくても、プラントの恍惚ヴォーカルがなくても、それはそれで中高年を狂喜乱舞させるリズムの魔があります。だから、私はあまりメロディーやギターが気になりません。もう一度ナマで体験してみたいです。

<<< トラックリスト >>>
1. "No One Loves Me & Neither Do I"
2. "Mind Eraser, No Chaser"
3. "New Fang"
4. "Dead End Friends"
5. "Elephants"
6. "Scumbag Blues"
7. "Bandoliers"
8. "Reptiles"
9. "Interlude With Ludes"
10. "Warsaw Or The First Breath You Take After You Give Up"
11. "Caligulove"
12. "Gunman"
13. "Spinning In Daffodils"

THEM CROOKED VULTURES "THEM CROOKED VULTURES"
CD SONY MUSIC 88697619362
フランスでのリリース 2009年11月13日


(↓2009年レディング・フェスでのゼム・クルックト・ヴァルチャーズ。もろ「移民の歌」ノリの"Spinning in Daffodiles")

2 件のコメント:

Tomi さんのコメント...

いいですね~、JPJ。
昔のようにMy love~な、可愛い青年ではないけど、おっさんにはおっさんの甲斐性があるって感じです。
今のペイジ&プラントが受け入れられない私には、JPJは余計にカッコ良く映ります。
でも・・・本音を言うと、おっさんになったJPJ、画では見たくはなかったです。。。

Pere Castor さんのコメント...

70年代、爺がまだ東京にいた頃、ダデイ竹千代と東京おとぼけキャッツが超轟音で「移民の歌」のイントロを始めてかの雄叫び部分が終わったところで、バタっと止めて、「イミンのない歌でした」とアナウンスしたのですよ。
このゼム・クルックト・ヴァルチャーズも部分的な(ゼップ)パロディーみたいなところがあって、年寄りにはうれしいです。