2009年11月19日木曜日
Juste quelqu'un de bien 単純にいいヤツ
11月19日パリ、ラ・シガールでケントのコンサートでした。
ケントは1957年リヨン生れのシンガーソングライター/BD作家ですが,1977年にリヨンのパンクバンド,スターシューターのリードヴォーカリストとしてデビューしています。あの当時フランスのリセの子たちが「ロック」として夢中になっていたのは,テレフォヌ,ビジュー,リリ・ドロップ,トラスト,スターシューターだったんですが,リリ・ドロップのベーシストだったのがエンゾ・エンゾです。
ケントもエンゾ・エンゾもバンド解散後,シャンソン・ポップのソロアーチストになります。それぞれメジャーシーンに出て来るのが90年代前半で,十数年間「中堅アーチスト」としてそこそこの活躍をしますが,音楽産業大会社は「そこそこ」とは契約更新しない時代になりました。ま,インディーから出直せばよろしいわけですが,ベテランの生きにくいご時世ですわね。
エンゾ・エンゾに1995年度のヴィクトワール賞(最優秀女性アーチスト賞)を獲得させるきっかけとなったのが,ケント作詞作曲の"JUSTE QUELQU'UN DE BIEN"です。ケントはケントでそれなりのヒットアルバムやヒット曲があるんですけど,それでもケントの一番の代表曲となると,この曲になるきらいがあります。群を抜いていい曲ですもの。98年から99年にかけて,ケントとエンゾ・エンゾはデュエットで1年間のツアーを行っています。このあたりが二人の絶好調期でしょうか。
ケントがインディーに移っての初のアルバムがこの『パノラマ』で,ギタリストのフレッド・パレムとケントの2台のギターを屋台骨にして,スターシューター時代から今日までのケントのレパートリーを文字通りパノラマ的に読み直してみよう,というプロジェクトです。きのうケントがステージ上のMCでも言ってましたが「最良のものは Best of ではない」という考え方で,人様にとってのヒット曲をセレクトするのではなく,自分にとって重要だったものをピックアップするという選曲方針です。そのためあまり知られていない曲も入っています。
ギターが良く鳴っています。ギターをかき鳴らすというのは,この人のルーツであるオーソドックスなメインストリーム・ロックがよく見えてきます。激しいストロークを繰り返す時は往年のハードロックよろしく獅子舞首振りをしてしまいますし,エンディングにはネックを振り上げて開脚ジャンプしますし。
普段の生活ではメガネをかけているのに,ステージでは首振りが激しすぎてとてもかけてられない,と言ってました。スポーツ選手のようにメガネにストライプをつければ,とすすめられるが,「それはセクシーではない」という理由でステージではメガネを拒否しています。おかげでギターのチューニング器や曲順表が見えなくて難儀しているそうです。歳だなあ。
当夜の場所ラ・シガールはほぼ全席「着席」でした。ロックンロールじゃない感じでした。ステージ左側にギターを抱いたケントが立ち,右側でフレッド・パレムがさまざまなギターを持ち替えての伴奏です。ボディーがすんなりしているし,動きもしなやかなので,私などにはとてもうらやましい万年青年の図。その割に客席側は熟年女性の多さが目につきます。ステージングはそういう客層にも関わらず,ノスタルジー・モードの「合唱」強要が一切なく,歌い,語り,ギターをかき鳴らすという淡々とした進行でした(良い良い)。
アルバム『パノラマ』の性格上,オリジナル曲発表当時の思い出などが語られたりするのですが,私にはナツメロではないので,全然大丈夫。ゲストで,アルバムにもデュエットで参加しているアニェス・ジャウイ,バルバラ・カルロッティ,アルチュール・H等が出ましたが,みんな待っていたのはスザンヌ・ヴェガでしょうかね。
初めて見たケントだったのに,なにか懐かしい友人に再会したような親密さ,これが私たち年寄りが陥りやすいワナですな。ある種のセミ中高年層を魅惑するオーラに溢れている感じですね。気持ちいいんだから,しかたない。
(↓昨夜のライヴで,ケントとアニエス・ジャウイのデュエット "Parole d'homme")
(↓Youtubeで公開されているスザンヌ・ヴェガとのデュエット "Juste quelqu'un de bien")
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