2009年10月17日土曜日

ようやってクレオール



 10月16日、女性2人(妻と娘ですが)を連れ立って、パリ10区ニュー・モーニングでオルラーヌ Orlaneのライヴを。
 オルラーヌはレユニオン島生まれのクレオール女性で、ある日、ある事情で、マルチニック島に移住します。それからずっとマルチニックを第二の故郷としてアーチスト活動をしていますが、19歳でプロデビュー(この世界では実力のある人はみんなコーラス/バックヴォーカリストとしてデビューします)し、トゥーレ・クンダなどとも活動を共にしたことがあります。
 今日びでは珍しいことではなくなりましたが、めちゃくちゃにすぐれた歌唱力があって、美貌とセクシー度を伴って、なおかつ作詞作曲ができる、という90年代ズークの世界では稀な女性アーチストでした。
 そして島のせまい了見のいがみあい、というのがまだありまして、マルチニック島、グアドループ島、ギュイアンヌというカリブ圏の3つのフランス海外県で、人々が出身地の違いで牽制しあうミニ・ナショナリズムがあります。その中に、このレユニオン島出身の女性が入っていって、カリブ大衆音楽ズークを歌う、という音楽活動には、いろいろ障害があったのではないか、と察します。「レユニオン娘のズークは本物じゃない」みたいなレッテル論ですね。それをこの女性は軽々とクリアーできる、類い稀なる歌唱力と、溢れ出るチャームで、島のシーンをとりこにしてしまいます。
 ズーク退潮? とんでもない。確かに90年代、島の若い衆はヒップホップ/R&B/ダンスホールサウンドシステムに大挙して流れていったのでした。ズークは熟し、根をはった老若男女のダンスミュージックとなったのでした。
 オルラーヌがステージでこんなことを言いました「よその国ではディスコやクラブで、みんなひとりひとりで踊っている。この時代に男女二人が組になって踊っているのは、私たちアンティル人だけよ。ズーク・ラヴを発案した人たちは偉い。私たちはそれを誇りに思わなければならない。そして私たちはず〜っとズーク・ラヴの火を絶やさないでいきましょう!」。
 男女密着ダンス「コレ・セレ(くっついて、しめつけて)」は、カッサヴ/ジョスリーヌ・ベロアールの大ヒット曲で、ランバーダに先立つこと5年。以来ズーク・ラヴは、カリブのエロいダンスとして、アンティル(とフランスのアンティル・コミュニティー)のダンスホールを席巻してきました。この火を絶やさないでいきまっしょう!とオルラーヌは、時流もへったくれもなく、百年一日のような、ベタな、もはやレトロな趣きもある、ズーク・ラヴを正攻法で展開するのです。これが、すごくいいのですよ、お立ち会い。
 キャリアすでに十数年、4枚のアルバムを発表しているオルラーヌは、島では押しも押されもしない大スター。しかし、なんと、これが初めてのフランス本土、パリでのステージなのでした。MCは最初から最後までフランス語でした。クレオール語ではないのですよ。これが内輪受けのショーにならず、きちんとしたエンターテインメント性を際立たせる演出になっていたと思います。そして話上手。乗せ方も上手。挑発も上手。貫禄も十分で、バックバンド(キーボードx2、ギター、ベース、ドラムス、パーカッション、バックコーラスx3)に睨みをきかせながら、見事な統率力でひっぱる女座長のたたずまいです。バンドもうまいです。いつもながらマルチニックの演奏水準の高さ(本土と比べると)に感服します。
 オルラーヌがステージで強調していたのは「クレオール性」で、レユニオン、マダガスカル、ハイチ、マルチニック、グアドループ、ギュイアンヌなどにまたがった汎クレオール文化が彼女のアイデンティティーのよりどころとなっているわけで、海を隔てていても兄弟姉妹的な親密性を感じているのです。それは翻って、ブラックネスとはちょっと違うメティス性、混血性、多文化を吸収するハイブリット性みたいなもので、そのことがバラク・オバマに対しても胸を熱くさせる親近感を抱いてしまうのですね。オバマの大統領就任の初演説の時に、生中継テレビを見ながら、演説をしくじるんじゃないかとハラハラしていた、なんて話してました。
 現時点での(局地的ではありますが)大ヒット曲「ショコラ」は、この肌の色のことでもあり、アフリカネスよりはクレオールネスに近く、彼女たちクレオールが持っている官能的で扇情的な愛情表現をズーク・ラヴで歌い上げるものです。クレオール女性万歳。チョトレート・イズ・ビューティフル。

↓オルラーヌ「ショコラ」のヴィデオ・クリップ


↓オルラーヌ「ショコラ」ライヴ。10月16日パリ、ニュー・モーニング

1 件のコメント:

さなえもん さんのコメント...

セクシーダイナマイト!(表現古い)
ライブでの娘さんの反応はいかがでした?

昔、ハル・ベリーの出演したもので
白人男性と黒人女性の恋愛&人種問題の
「チョコレート」というタイトルの映画が
あったことを思い出しました。