2008年3月21日金曜日

昨夜は冬が終わった日でスタン



 アランブラ(Theatre de l'Alhambra)は1920年代に建てられた劇場で,第二次大戦まではミュージックホールとして人気を高めましたが,ブームが去って長い間閉鎖されていて,倉庫や家具の競売場などにも使われていましたが,それを完全に壊して再建,2008年に劇場として再オープンしました。そのオープニングにこのスタニスラスのコンサートが組まれていたのですが,最初2月に予定されていたのを工事の遅れで3月に延期,それでもそれまでに工事が終わるかどうか危ぶまれていたそうです。
 3月19日と20日(20日の方は追加です。急に人気が出たのです。TF1のStar Academyに出演したのが原因とも言われています),私たちは20日の方に行きました。会場に入ると,壁の塗装が終わっていないし,空調パイプなどむき出しになっていて,床は絨毯張りのところとコンクリートのままのところがあったり。1階席と2階席合わせてキャパ600-800人ほどでしょうか。
 おおそれにしても,なんという客層でありましょうか。ほぼ満員ですが,身内関係の多そうな30歳〜60歳です。若い人は,若干の親子連れを除いて,まず見ませんでした。この年齢層ですから最初から最後まで座って見れましたが,これがスタニスラスのファン層なんでしょうか。
 ステージは劇場スペースですからやや広めでしょうけど,そこにかみ手にロックバンドセクション(ギターX2,ベース,ドラムス,キーボード),しも手に十数人のストリングスオーケストラ,ハープ,木管1,金管1,打楽器1...もうぎゅうぎゅうに詰めて配置した感じです。真ん中にいるわれらがスタンはヴォーカルとエレピです。
 基本的にあのシンフォニックなアルバムと全く同じ音が出る,というスペクタクルです。カラオケでするのとあまり大差ない,という悪口も出そうなほど,CDアルバムと同じ編曲で同じ音です。われわれのぜいたくは,ここでストリングスとリズムセクションでちょっとでもずれが出たりすると「わ,これは生演奏なのだ!」とうれしくなってしまう,みたいな人間たちのパフォーマンスに触れることだったりします。なにか子供の頃にテレビで見た「オーケストラがやってきた」を思わせるものがあります。
 クラシックのフルオーケストラ(オペラ・ド・マッシー管弦楽団)の常任指揮者であり,音大の教授でもあるスタニスラス・ルヌーが,35歳でポップ・ミュージックの自作自演アーチストとしてデビューしました。昨年11月に出たファーストアルバム "L'EQUILIBLE INSTABLE"(Polydor France)は,その少女マンガ的リリシズムとセンチメンタリズムと,フルオーケストラが表現できる叙情性のすべてを駆使したような明解かつ繊細な編曲と,ロマンティック少年ヴォイスのスタニスラス・ルヌーのヴォーカルテクニックが,奇跡のように結晶した世にも稀な作品です(こんな日本語をよく書けるなあ,爺?)。私はそれを検証に行ったのですが....,なんとそのまんまなのです。
 これは新装ホールのせいでしょうか,音量が私が普段コンサート会場で聞く音量よりもずっと小さいのです。これはクラシック・コンサート音量ではないかしらん。あるべきリズム(主にベース・ギターとドラムス)のズンズンズンズン音響が薄いから,客席も揺れないんですね。この音量でのエレクトリック・ギターのソロは寒々しいのです。ストリングスが聞こえ,ハープ(いいですねえ,このコンサートの花ですねえ)やクラリネットやフルートが,エレクトリック・ギター同様にはっきり聞こえるシンフォニー効果を得るには,この音量でないといけないのかもしれません。しかしもっともっとデカイ音で聞きたかった...。
 アルバムに収められた曲は全部演奏しました。"La Belle de Mai","Memoire morte"のようなバラードがやはりビシビシ来ました。「今日は冬の最後の日,最後の冬を謳歌しよう」というMCでヴィヴァルディー四季「冬」を原曲にした "L'Hiver"も素敵でしたけど,これはクラシック・イージーリスニングですねえ。
 で,自作曲でないものを3曲やりました。ケイト・ブッシュ「嵐が丘 Wuthering Heights」!スタニスラスなら同じキーで歌えるのではないかと期待していましたが,最後まで1オクターブ下でした。敬意を込めて作者を「カトリーヌ・ビュイソン Catherine Buisson」(薮のカトリーヌ)と紹介していました。
 それからザ・ビーチ・ボーイズの"Pet sounds"から「神のみぞ知る God only knows」!この時スタニスラスは最近始めたばかりというアコーディオン(ピアノ鍵盤式)を抱えての演奏で,左手ボタン部には,押してはいけないキーの部分にガムテープがベタっと張ってあり,大笑いでした。
 そしてカヴァーの3曲めは,劇場アランブラの黄金時代を懐かしみ,あの頃のスター,フレッド・アステアへのオマージュとして「ザ・ウェイ・ユー・ルック・トゥナイト(今宵の君は) The way you look tonight」をほとんどピアノ弾語りで。これはびっくりでした。極上でした。スタンのかすれ声高音部のロマンティスムはこういう曲でこそ生きるのですね。
Fred Astaire "The Way You Look Tonight"

 現在フランスのシングルチャート上で2位にある"Le Manège"は,アンコール2曲めでやりました。当然「これ聞くまでは」のファンが多かったでしょうが,わたくし的には2007-2008年フランスで発表された最も美しい楽曲です。わたくし的には恩寵の瞬間でありました。はい。Tu me fais tourner la tête...。

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