2019年3月3日日曜日

レイラ・スリマニ、カール・ラガーフェルドを悼む

2019年2月19日、(推定)85歳で亡くなったファッションクリエーター、カール・ラガーフェルドを追悼特集した週刊レ・ザンロキュプティーブル誌2月27日号に、ゴンクール賞作家レイラ・スリマニの故人を惜しむ談話が掲載されている。古典文学への深い造詣で知られ、その蔵書30万部と言われる書庫とそれに隣接したラガーフェルド選書書店(Librairie 7L, 7 rue de Lille 75007 Paris)で交わされたラガーフェルドとスリマニの会話の思い出を語っている。(この圧倒的な書庫の空間は、2017年1月にフランス国営テレビFRANCE 2のレア・サラメの番組 "STUPEFIANT!”で映し出されているので、(↓)に動画を貼っておきます)
以下、レ・ザンロキュプティーブル誌およびレイラ・スリマニに無断で同談話を日本語訳してみます。

Leïla Slimani : "C'était quelqu'un d'une grande profondeur"
レイラ・スリマニ:「偉大な深みを持った人物」

の最初の小説『鬼の庭で(Dans le jardin de l'ogre)』(2014年)の刊行のあと、彼のファッションショーに招待された。ショーが終わり、彼が招待客たちを接待しているサロンに通された。私と彼は座につき、本について語り始めた。私と彼の会話はいつも文学が話題の中心だった。彼は驚くほど多くの現代文学を読んでいて、それらについてとてもはっきりした意見を持っていて、とても楽しかった。その意見がとても厳しいのは、彼がとても古典文学を愛していたからだと私は思っている。彼は自分たちの時代の最も偉大な文豪たちはすでに皆死んでしまったという印象を抱いていた。彼の意見はみな興味深く、私たちが日頃あちらこちらで聞く意見とは全く違っていた。私は彼の素晴らしい書庫に入るという幸運を得た、ユニヴェルシテ通りの彼の自宅のすぐとなりにあり、信じられないほど高い天井の一間で、何万という数の本が収められていた。そして彼は今しがたそれについて語った書物がどこに置いてあるかを言うことができた。あらゆる言語の本があり、彼は同じ書物をドイツ語と英語とフランス語で読んでいた。彼にはそれがごく自然のことで、どの言語で読んでいるのか全く意識されないほどだと語っていた。私に多く語っていたのは17世紀の文学、特にラ・ファイエット夫人についてだった。彼はそのエスプリを愛していた。総体的に彼は、エスプリ、才気、人間性といったことにとても敏感なところがあった。私は彼に、あなたはとても17世紀的なところがあって、気の利いた言葉を操るのがとても好きなので、当時での文芸サロンでは目立っていたでしょうね、と言った。また、彼はドイツ文学についても語った。彼は子供の頃ゲーテを読んでいて、そのパッセージを暗記していた。彼はトーマス・マンについてもたくさん語ってくれた。その上彼は「イリヤス」と「オデュッセイア」の叙事詩を正確に語ることでできる人でもあった。彼はとても古典的な「オネットム honnête homme」(註:17世紀社交界の範と考えられた紳士、節度を心得、婦人に丁寧で言動の洗練された貴族 ← スタンダード仏和辞典より)の教育を受けた人だった。
さらに彼はミッシェル・ウーエルベックを熱愛していて、天才的で世を覆す作家と評していた。彼が大いに気に入ったのはウーエルベックがポリティカル・コレクトネスに全く屈することがないということ。
カール・ラガーフェルドは非常に豊かなユーモアの持ち主で、実生活にはある程度距離を置いているけれど、とても奇妙なのは、彼は今日の資本主義と消費商業主義のアイコンであり、象徴であるのにも関わらず、それに対して非常に明晰な視点を持ち、この消費社会に飲み込まれないために脇道に進むということができた人物であったということ。それが彼の最も素晴らしい点であり、誰かが彼を何かの中に押し込めようとしたとたん、彼は即座に彼のいる場所についてはすべてお見通しだという言葉を発することができ、人がそれについてどう思おうが知ったことではないという態度をとること。
私は世の中には二つのタイプのアーチストたちがいると思っている。一つめは、今日の大多数であるが、過去の知識なしに創造することが可能だと思っている人たち。私たち文学の世界では、「私は一切本を読まずに作品が書ける」と言う作家たちで、私は信用しないが。もう一つは、過去において創られたものと共に創造して、その歴史の中に自らを刻もうとする人たち。カール・ラガーフェルドは後者である。彼は非常に多くの図と形と歴史を消化し、理解し、自分のものにしたが、それは彼にとって全く重荷ではなく、その考証学的博識が彼の創造を助けたのである。そしてまたその博識が彼を市場の原則から自らを防衛することの手助けとなったのだ。彼は偉大なる読者であり、彼は人間の条件とは何かを知る真の知識があったのだ。それは偉大な深みを持った人物だった。
彼の人間性に関する視点は? "空の空。伝道者は言う。空の空。一切は空。” 奥底のところで、彼は人間たちを断定していなかった。彼は人間たちに大きな優しさを持っていた、なぜなら彼はそれ自身の弱点である有限性ということを理解していたのだから。だからこそ言おう、空の空、一切は空、それは翼を与えることもできるし、あなたを地面に墜落させることもできる。そしてそれは彼に翼を与えたのだ。彼はその人生を一冊のロマンにし、ひとつの並外れた物語にしたのだ。
(聞き手/まとめ:ネリー・カプリエリアン)

(↓)カール・ラガーフェルドの書店と書庫で撮影が行われた国営FRANCE 2 レア・サラメの番組"Stupéfiant!"(2017年1月)

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