2017年12月15日金曜日

2017年のアルバム 

ジュリエット・アルマネ『プティ・タミ』
Juliette Armanet "Petite Amie"

 やまっ、若くない。一聴してぐわぐわ押し寄せてくる年寄り感。2017年、最もイヤフォンで聴いたアルバム。つまり散歩の友。メランコリックになりがちな散歩をニヤニヤ笑いに変えてくれた怪盤。本当にお世話になりました感の強い1枚。
 ジュリエット・アルマネは1984年北フランス(つまりとてもベルギー寄り)リール生まれ(現在33歳。若くない)で、音楽アーチストになる前は、ARTE(独仏共同経営の文化教養テレビ局)とフランス国営ラジオFRANCE CULTURE(名は体を表す文化教養ラジオ局)でドキュメンタリー制作のジャーナリストだった。若くない感に加えてのクセモノ感は多分ここに由来するのかもしれない。それは単純なインテリっぽさではなくて、曲を作ったり編曲したりする時に、この女性はこうしたらこうなるという術の抽出しが多くて、ふふふと笑いながら作業している様子が目に浮かぶのである。
 この年寄り感のもとは多くのメディア評が指摘するようにもろな「セヴンティーズ」嗜好であり、より具体的には「ヴェロニク・サンソン・ヘリテージ」ということなのだ。トップアーチストとしてキャリアが長く、今や大御所中の大御所の地位にあるヴェロニク・サンソンであるが、辛口の批評誌/批評家に言われるまでもなく、その最高峰のアルバムは1972年のデビューアルバム『Amoureuse(アムールーズ)』(邦題『愛のストーリー』)であり、同じ年のセカンドアルバム『L'autre côté de mon rêve(夢の裏側)』(邦題『愛と夢の詩集』)であり、この2枚のクオリティーは群を抜いているのである。米人スティーヴン・スティルスと出会う前のもので、当時23歳だったサンソンが、当時の伴侶であり25歳だったプロデューサー、ミッシェル・ベルジェと二人三脚で制作した2枚。ジュリエット・アルマネのデビューアルバムは、誰が聞いても「サンソン+ベルジェ」のサウンドそのまんまであり、アルマネ自身、その影響を全く否定していない確信犯である。だから、2017年4月、このアルバム『プティ・タミ』が出た時、メディアは口々に「新ヴェロニク・サンソン」とはやし立てたのだった。
 サンソンだけではない。ヴールズィ、スーション、ウィリアム・シェレール、バシュング、ゴールド、ミレーヌ・ファルメール.... 後年ある種蔑視&否定される傾向にあった「非FM系」セヴンティーズ・ヴァリエテのアトモスフィアがボコボコ立ち上ってくる。しかもほとんどが美しいラヴソングであるのだから。例えばこの「アレクサンドル」である。

アレクサンドル
あなたの灰のひとかけに
あなたのラッキーストライクから落ちる灰のひとかけだけのために
わたしの命のすべてを捧げるわ

アレクサンドル
あなたはわたしのカリフォルニア
あなたの優しい言葉が
わたしのビキニの内側で泳いでいるわ

あなたはわたしの神への瀆し
わたしの最高に素敵な不眠症
でもあなたにジュテームと言うことは
わたしには禁じられているの

あなたはいくら汚らわしくてもいいわ
あなたはわたしの神

アレクサンドル
あなたのすべてにわたしはウイと言うわ
そのすべてが得られるのなら
わたしは天国よりも地獄を選ぶわ

アレクサンドル
わたしをあなたのアレクサンドリアにしてちょうだい
あなたはわたしが優しいって分かるはずよ
カリフォルニアみたいに優しいって

あなたはわたしの神への瀆し
わたしの最高に素敵な不眠症
でもあなたにジュテームと言うことは
わたしには禁じられているの

あなたはいくら汚らわしくてもいいわ
あなたはわたしの神

アレクサンドル
あなたは未発表盤より素敵よ
わたしはあなたの声を聞くのが好き
なぜってアレクサンドル
それはきれいなんだから

 わおっ。美しい旋律にワイルド&ダイナミックな詞、これは2017年、最も美しい愛の歌ではありませんかえ。
 それから散々「サンソン+ベルジェ」まんまと言われている「孤独な愛 L'amour en solitaire」(アルバム1曲め)

わたし一人ご満悦
浜辺で
わたしはメロドラマを演じ
雲たちを誘惑するの

わたし一人のパーティー
それは残念
二人ならばとても素敵
浜辺で二人で
タバコを吸えるなんて

わたし一人の船あそび
帆を上げるわ
でも一人だと水浸し
船乗り浸し

わたしの分身
わたしの無二の分身はどこに
わたしにはあなたはわたしの母だった
わたしの父だった、わたしのロデオだった
わたしは砂漠を横断する
孤独の愛を抱いて

わたしの分身よ 帰っておいで
わたしはわたしの大地を再び見つけたい
わたしのビールを、わたしのセーターを
もう砂漠の横断はこりごり
孤独の愛もこりごり

わたし一人の島
浜辺で
わたしは糸一本で支えられ
わたしの貝殻を集めている
壊れそう

わたし一人の顔
鏡に映る
たくさんの顔の中に
あなたを見つけることができない

わたし一人で踊るチークダンス
あなたの曲に合わせて
わたしは波に飲み込まれて
わたし一人で難破してしまう

でも結局のところ、そんなのどうでもいい
全然大したことじゃない
あなたがいなくて、わたしぼ〜っとしてただけ
ただそれだけ

わおっ。サンソンとは似ても似つかぬこの諧謔のセンスは、もうひとりのジュリエット、偉大な怪シャンソン歌手ジュリエット・ヌーレディンヌのもののようだ。元気になれる。
  無駄のない12曲39分アルバム。まだまだこのアルバムを散歩の友にできるぞ。

<<< トラックリスト >>>
1. L'AMOUR EN SLITAIRE
2. L'INDIEN
3. SOUS LA PLUIE
4. A LA FOLIE
5. CAVALIER SEULE
6. ALEXANDRE
7. MANQUE D'AMOUR
8. A LA GUERRE COMME A L'AMOUR
9. UN SAMEDI SOIR DANS L'HISTOIRE
10. STAR TRISTE
11. LA CARTE POSTALE
12. L'ACCIDENT

CD/LP BARCLAY 5748401
フランスでのリリース:2017年4月7日

カストール爺の採点:★★★★☆

(↓)"LA CARTE POSTALE" ジュリアン・ドレとのデュエットのヴァージョン(ライヴ)、これは「サンソン+ベルジェ」風。

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