2013年3月24日日曜日

大伽藍ポップと人の言う...

Woodkid "The Golden Age"
ウッドキッド『ウッドキッドの黄金時代』

 フランスではかなり大騒ぎです。私は全く知りませんでした。ウッドキッドは本名をヨアン・ルモワーヌといい、1983年リヨン生れ(当年30歳)のポーランド系フランス人です。在住地はニューヨークです。この若者が世に知られるようになったのは、とりわけ映像作家・グラフィストとしてであり、2009年にエイズ予防キャンペーンのために制作したアニメ作品「ズィズィ・グラフィティー」カンヌ広告映画祭で5部門を受賞したのをはじめ、ヴィデオ・クリップ作家としてケティー・ペリーの「ティーンネイジ・ドリーム」(2010)、ラナ・デル・レイの「ボーン・トゥー・ダイ」(2011), テイラー・スウィフトの「バック・トゥー・ディッセンバー」(2011)などで、その仰々しい大作主義的映像で注目されます。
 2011年3月に、ヨアン・ルモワーヌは「ウッドキッド」という名で音楽アーチストとしてデビューします。EP 「アイアン (Iron)」のタイトル曲「アイアン」 の自作クリップは、2000年代のスーパーマヌカン、アギネス・ディーンが出演し、ヴィデオゲーム「アサシン・クリード・リベレーション」の予告CMの音楽として起用され、さらにディオールのメンズコレクション(2013年秋冬)のファッションショーの音楽として使われるなど、その種の分野では世界的に注目されざるをえないようなかまびすしさでした。
 ちょっとお待ちください。ここで私などは虚飾に満ちたビジネスの匂いを感じてしまうわけですが、スーパーマヌカンさんの出演料、 ヴィデオゲーム界の桁外れの予算、超高級ファッションブランドが出すギャラなどを考えても、そんなことをとやかく言われる前のその「音楽」とはどんなものなのかと疑ってしまう考え方ですね。プロモーション・ヴィデオの予算は音楽の質に比例するものではないけれど、往々にして大予算ヴィデオはYouTubeのヴュー数や、メディアでの露出度が高く、ヴィデオの絢爛豪華さがそのまま商業的成功につながるような見方が成立するものでした。私のようなヴィデオ・クリップにあまり興味がなく、ラジオやCDのような媒体で音楽を聞くことで音楽の善し悪しを判断する傾向のある人間は、ある日テレビやYouTubeであの音楽にこんなヴィデオがくっついていたのか、と驚くことがしばしばありますが、音楽とヴィデオは別物という境界線がまだ私の頭には存在してました。
 ウッドキッドという音楽アーチストは、私のような20世紀をひきずった音楽リスナーを根本的に変えてしまうようなインパクトがあります。こいつは全部ひとりでやっている、ということの意味が、単なるマルチ・プレイヤーという範疇に留まるものではない。こいつは全部ひとりでやっている、は映像/グラフィスム出身でありながら、つまり「音大出」ではないのに、ヴィデオクリップ映像の組み立てはもちろん、類希なるソングライティングのセンスときめ細かいサウンドの構築から、この男の持って生まれたメランコリックな声質の歌唱のコントロールまで、さらに「ビジネススクール出」ではないのに、制作予算の管理やメディアでのプロモーション効果を戦略するまでのマネージメントをこなせる、そんなスーパー・アーチストを思わせるものがあるのです。
 これには大予算が必要なのだけれど、大予算でなければできないアートもあり、これはこれだけ予算をかけなければなしえない、それをひとりで全部やってみせて、さあどうだ、と言えるアーチスト。金の匂いがぷんぷんしても、そのアートは揺るがないものを持っている納得の「リッチ」さ。
 「センセーション+映像+サウンド」という三位一体を実現してしまう音楽。私にはたいへんなショックでした。ある種古典映画やヴィデオ・ゲーム的でもある、ひとつの入口から入り、その様々な部屋に入ったのちにひとつの出口から出て行くのですが、その間の波瀾万丈のセンセーションを表現する音楽絵巻のようなアルバムです。 オーケストラの音、特に金管群とストリングス群、そして鍵盤(ピアノ+電子キーボード)、さらに軍楽のように響かせる打楽器群(和太鼓もあり)。シンフォニックで疾風怒濤風な管弦楽展開もあれば、中世ロマンティスム風な鍵盤主軸のバラードもあります。特徴的なのはギター/ベース/ドラムスの不在です。ロック的であることを拒否しているかのような、擬古調なアンビエントがあります。その上に抹香臭い憂愁をたたえたヨアンのヴォーカルが響く時、私たちは大教会・大伽藍の中でこの音楽を神妙に聞いているようなセンセーションに襲われます。終末的で、何も悪いことしていないのに、許しを乞いたくなるような、頭上からの音楽の重さです。
 いつもならば、「これ保守的だな」「これファッショだな」と思ってしまう私だったでしょう。しかし、今回はこの「金のかかり方」の力や、古典的な審美眼に堪える完成度の高さや、ひとりでここまでしてしまう稀な才能にだまされていいんだ、という納得のある1枚なのです。おそらく2013年の上半期のベストとなる作品でしょう。

<<< トラックリスト >>>
1. THE GOLDEN AGE
2. RUN BOY RUN
3. THE GREAT ESCAPE
4. BOAT SONG
5. I LOVE YOU
6. THE SHORE
7. GHOST LIGHTS
8. SHADOWS
9. STABAT MATER
10. CONQUEST OF SPACES
11. FALLING
12. WHERE I LIVE
13. IRON
14. THE OVER SIDE

WOODKID "THE GOLDEN AGE"
GREEN UNITED MUSIC / PIAS FRANCE CD 804 A044 022
フランスでのリリース:2013年3月18日

(↓)WOODKID "IRON"


(↓)WOODKID "RUN BOY RUN"


(↓)WOODKID "I LOVE YOU"


(↓)WOODKID - 2012年9月26日、パリ、グラン・レックスでのライヴ


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