2013年3月4日月曜日

人はもう恋でなんか死なない


ROBI "L'HIVER ET LA JOIE"
ロビ『冬とよろこび』

 あんた誰? Who you ?
 冬は寒い。寒いから冬。この真冬のど真ん中の零下の日に届いたアルバムです。モノクロで、白よりも黒が圧倒的に支配的なジャケット。この寒いさなかに女が、泡立つ(あまりきれいとは思えない)水の中で背泳ぎ風に両腕を伸ばしている。その左の下腕には鯉のぼりのウロコのようなタトゥーが。バシュング『ファンテジー・ミリテール』(1998年)のジャケを、バシュングの代わりにPJ・ハーヴェイの顔が代役したような感じもしますが、藻で緑色だらけな『ファンテジー・ミリテール』のジャケに対して、このロビのデビューアルバムは黒いのです。黒く光ってすらいるのです。
 ロビ『冬とよろこび』と題されたアルバムです。私ならば『冬とよ』なんて遊びたいところですが、そういう遊びを許してくれないような黒さが勝っています。このロビという源氏名をもった女性シンガーソングライターの本名はクロエ・ロビノー(Chloé Robineau)と言います。安直な地口と思われましょうが、黒さが際立つファーストネームです。
 水枕ガバリと寒い海がある (西東三鬼)
これは昭和俳句の傑作のひとつです。病に伏して熱の中で耳の下から聞こえてくる水枕の水の音を、俳人は「ガバリ」と聞き、そこに寒い北洋を思ってしまいます。水枕というミニマルの容器に冬の大海が拡がっていく。私はですね、このロビのアルバムに何度も「ガバリ」という音を聞いてしまったのですよ。"Gabarit"(ギャバリ)とはフランス語で体躯や乗り物などの大きさのことですが、この際それは無関係。
 寒い波と書いてコールド・ウェイヴ。この記事を書いている途中で、元タクシー・ガールのダニエル・ダルクの訃報が飛び込んできました。R.I.P. 。ダニエル・ダルクの死に関してはこのブログのここで触れていますから、読んでみてください。ダニエル・ダルクのタクシー・ガールはフランスの典型的なコールド・ウェイヴのバンドでした。冷たいシンセの音、無機質なビート、アンニュイなヴォーカル、こういうのは80年代にフランスの得意技になってしまうんですが、お手本はスーサイド、スロッビング・グリッソル、スージー&ザ・バンシーズみたいなところでしょうか。このロビはアメリカ人5弦ベーシスト(+各種機械)のジェフ・ハラムとキーボディスト(+ギター+各種機械)のボリス・ブーブリルの二人というミニマルで寒々しいインストルメンタル環境で、一見して女流詩人のような佇まい(パティ・スミス、カトリーヌ・リベロ...)ではっきりした叙情と官能の言葉をサウンドにはめ込んでいく、という音楽です。私はエリ・メデイロスのいたスティンキー・トイズや、スージー&バンシーズや、近くはポーティスヘッドを想ってしまいます。女歌によるコールドウェイヴですから。またその詩的な震え具合で、ドミニク・アの女性版という評価もあります。
 ロビは2011年のレ・ザンロキュプティーブル誌主催の新人コンテストLes Inrocks Lab
の準優勝者で、この時からジャン=ルイ・ミュラ、アルノー、ドミニク・ア、ヴラディミール・アンセルム、 といった一癖も二癖もあるアーチストたちから熱い声援を受けるということでも、一風変わったアーチストの登場が予見されていました。それから1年半、ミュラやアルノーの前座ステージなどで、このドスの利いたコールドウェイヴ・パワー・トリオ(ロビ+ハラム+ブーブリル)はどんどん評価を高め、ファンジン、E-ジン、ロック・メディア、シャンソン・メディアに露出していきます。なぜ最後の「シャンソン・メディア」がこの新人歌手に注目するかと言いますと、その詞の「シャンソン度」の高さからなのです。例えば...

私は裸で前に進む
私の涙は飲み干された
私は朝日と共に身を起こす

私は前より少し孤独になったけれど
私を欲しがる男たちは
前と同じように私をものにするだろう

私は何も得るものなんかない
いつも何もない
だからって死なないでしょう
だからって死んだりするの
夜を共にして、悲しい朝になったところで
人はもう恋でなんか死なないのよ

人はもう恋でなんか死なない
人はもう死なない                       ("On ne meurt plus d'amour" 人はもう恋でなんか死なない)

 こんな歌聴きますと、重低音ベースでパワーアップした21世紀のバルバラ、という気になりますよ。
 アルバムは2013年2月5日にリリースされました。支援者代表としてドミニク・アが1曲でデュエット(5曲め "Ma route")。他に80年代フランスのインダストリアル・バンド、トリゾミー21のカヴァー1曲(8曲め "Il se noie")。

星空の下で、
雨に打たれて、降り注ぐ光に照らされ、
海に向かう道の上で
波と風に
私の祈りを込めて
あるいは
この最後の春の
バカさ加減を理由に

私はあなたを殺してやる、殺してやる
あなたはおしまい
あなたを殺してやる、殺してやる
もっと殺してやる
     (”Je te tue” あなたを殺してやる)

 梶芽衣子さんのことなんかを思い出したりする曲もありました。ロビ、注目しています。 がんばってください。

<<< トラックリスト >>>
1. On ne meurt plus d'amour
2. Où suis-je
3. Tout ce temps
4. Je te tue
5. Ma route (with Dominique A.)
6. Demain
7. Le monstre
8. Il se noie (Trisomie 21 cover)
9. Belle et bien
10. Cherche avec moi
11. Ou pour toujours

ROBI "L'HIVER ET LA JOIE"
CD LES DISQUES DE JOIE / L'AUTRE DISTRIBUTION AD2281C
フランスでのリリース:2013年2月5日

(↓ "On ne meurt plus d'amour" オフィシャル・クリップ)








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