2010年5月16日日曜日

地中海の6人



ONEIRA "SI LA MAR"
オネイラ 『もしも海が』


 イランの血を引くパーカッショニスト、ビージャン・シェミラニを中心とした6人組です。シェミラニ家はペルシャ古典音楽の名門で,父ジャムシッド,兄ケイヴァン,妹マリヤム共にミュージシャンで,この4人は「シェミラニ・アンサンブル」として,世界的な舞台を踏んでいました。若きザルブの達人として,ペルシャ古典だけでなく,ユーロピアン・トラッドやエスノジャズの分野で幅広く交流していたビージャン・シェミラニは,ホワン・カルモーナ(フラメンコ),チチ・ロバン(アンジェのマルチエスノ・ギタリスト),サム・カルピエニア(オクシタニア,元デュパン),パトリック・ヴァイヤン(オクシタニアのマンドリン弾き),さらにスティングなどとも共演しています。
 オネイラは2006年から活動している,イラン,ギリシャ,フランス(&オクシタニア)という異なったオリジンを持つミュージシャン6人が集ったアンサンブルです。ビージャンの妹のマリヤム・シェミラニも,父ジャムシッドからペルシャ古典音楽の声楽と打楽器を伝授され,この兄のオネイラに参加しています。もう一人の女性はギリシャ,テッサロニキ(中央マケドニア地方の首府)出身のトラッド/クラシック両分野で活躍する歌手マリア・シモグルー。同じくギリシャから,同国当代一の女性歌手として君臨するサヴィナ・ヤナトゥーのバンドのネイ奏者,ハリス・ランブラキス。彼はネイをフィーチャーしたジャズ・クアルテットを率いて,世界中を飛び回っています。
 パリからはアコースティック・ギタリストのケヴィン・セディッキ。2009年4月にケヴィンはユーロピアン・ギター・アワードに優勝,同年11月からアル・ディ・メオラのアンサンブル「ワールド・シンフォニア」に参加して世界をツアーしています。
 そしてマルセイユから,サム・カルピエニアと共にエレクトロ・アコースティックなオクシタン・ビートバンド「デュパン」を引っ張っていたヴィエル・ア・ルー(ハーディー・ガーディー)奏者のピエール=ローラン・ベルトリノ。彼はサリフ・ケイタの2005年アルバム"M'BEMBA"でも4曲でヴィエルを弾いています。
 こういう腕達者ばかりの6人が集って,トルコ,ペルシャ,クレタ,ギリシャ,アラブ・アンダルシア,オクシタニアなどのレパートリーをベースにした,イマジナティヴな夢の地中海音楽を展開します。


「私たちは,その作られた曲から飛び立ってインプロヴィゼーションが自由に旅できるようなバンドを結成する。私たちはみんなこれまでこの夢を追ってきた。伝統を重んじるように創作を大事にし,よいものすべてを保持できる,より良い音楽の夢を。私たちの楽器と情熱と友情で,私たちの祖先が私たちに歌っていたことを,さまざまな町が私たちにささやきかけることを,私たちは演奏し,こことよその音楽を創っていこう。地中海の岸辺で,さらにそのもう少し遠くで,私たちがひとときを分かち合える物語を。」(ピエール=ローラン・ベルトリノ)

 ↑すばらしいマニフェストではないですか。「オネイラ」とはギリシャ語で夢幻。地中海の6人は夢のバンドをつくったのです。4年間でいろいろと試行錯誤があったでしょう。その後で完成されたこのアルバムは,異なった過去を未来人たちが対話しながら,さまざまな和声法を用いて,倍音で響き合う刺激的な新古典を生む錬金術のようです。誰も体験したことがない地中海〜中東音楽のハーモニーです。

   もしも海がミルクでできていたら
   僕は漁師になるだろう
   愛の言葉で
   僕の苦悩を釣り上げてしまうだろう

   海の中にはひとつの塔がある
   その塔にはひとつの窓がある
   その窓辺にひとりの女がいて
   船乗りたちを呼んでいる

   鳩よ,手を貸しておくれ
   おまえの巣に登っていくから
   かわいそうにおまえはひとりで寝ている
   僕がおまえのそばで寝てあげるから
      (Si la mar もしも海が)

 4曲め "HYPNOVIELLE"(作者:ピエール=ローラン・ベルトリノ/ビージャン・シェミラニ/サム・カルピエニア)で,ゲストでサム・カルピエニアがオック語詩のヴォーカルで歌っていますが,ちょっとしたデュパン再結成のおもむきで,ファンにはうれしい1曲でしょう。

<<< トラックリスト >>>
1 .SE DROMOUS (Maria Simoglou / Bijan Chemirani)
2. DODEKA CHRONON KORISTI (Trad / Harris Lambrakis)
3. SI LA MAR (Trad/Bijan Chemirani)
4. HYPNOVIELLE (P-L Bertolino / B. Chemirani / Sam Karpienia)
5. INTERLUDIO (Kevin Seddiki)
6. MYNISE MOU (B Chemirani / Maria Simoglou)
7. YEK ROUZ (Saadi / P-L Bertolino/ B Chemirani)
8. Zarbi (B Chemirani/ N Gosh)
9. HOMAYOUN (Harris Lambrakis)
10. RAZENIAZ (Trad / MOSHTAGH ESFABANI)
11. ANATHEMA (Trad/Karpathos)
12. HAFT ZARBI (B Chemirani / Kevin Seddiki)
13. BAHAR (B Chemirani / Kevin Seddiki)
14. NANOURISMA (Maria Simoglou / B Chemirani)


ONEIRA "SI LA MAR"
CD HELICO MUSIC/L'AUTRE DISTRIBUTION HWB58119
フランスでのリリース : 2010年5月31日


(↓)2007年12月のライヴヴィデオ。オネイラ+サム・カルピエニアによる"HYPNOVIELLE"。


PS1(5月19日)
本日ベルヴィルのル・ゼーブルでのライヴを体験。イランとギリシャの女性歌手二人は、明らかに全く別の歌唱テクニックを持っていて、この二人がハモるというのは実にスリリング。今日は女性二人とビージャンとギターのケヴィン・セディッキがとりわけ前面に出ていたステージング。ネイのハリス・ランブラキスは1曲だけ長いアドリブで場内を沸かせました。私のお目当てだったヴィエルのベルトリノはエレクトロニクスに忙しくてあまり目立ちませんでした。セカンドセットの最終曲2曲で、サム・カルピエニアが登場。ル・ゼーブルの高〜い天井にぶつけるような圧倒的声量の歌い込み。こういう中世的かつオリエント的なアンサンブルがサムの声にこれほど調和するとは。吟遊詩人ならぬ、吟遊パワーヴォーカル、という図。もっとたくさん聞きたかったですね。

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