Silvain Vanot "Bethesda"
シルヴァン・ヴァノ『ベテスダ』
かつて「ノルマンディーのニール・ヤング」と呼ばれた人です。1963年生れ。中学教師をしながら作ったデモテープがジャン=ルイ・ミュラに認められて,ミュラの後押しで1993年にLABELS(Virgin)からアルバムデビュー。ほんと,まんまニール・ヤング(クレージー・ホース時代)でした。それからだんだんに丸くなっていって,シャンソンや映画音楽に接近したりして,ミュラとよく比較されるオーガニックなシンガーソングライターになっていきました。アルバムはLabelsから5枚出ました。最後の2002年のアルバム"Il fait soleil"は,以前運営していたインターネットサイトで私は大絶賛していたはずです。鈴木惣一郎も参加してましたね。
あれからもう7年。同世代の90年代フランス・インディーシーンの立役者たち(ドミニク・ア,ミオセック,カトリーヌ,イニアテュス,オトゥール・ド・リュシー,リトル・ラビッツ...)などと同じように,レーベルとの契約を切られたり,お呼びがかからなかったりで,鳴りをひそめざるをえなかった時期が長かったですが,シルヴァン・ヴァノはちゃんと帰還して新アルバムを作ってくれました。
英国は北ウェールズのブリン・ダーウェン録音で,寒々とした草原と農場を思わせるカンタベリー的環境です。で,元ヘンリー・カウのジョン・グリーヴスが,ベース,ハーモニウム,オルガン,ピアノなどで重要な働きをしています。それからシャック(マイケル・ヘッド)のドラマーのイエイン・テンプルマンが参加しています。ペダルスティール・ギターの名手B.J.コールが甘く切ない音色で入ってくると,ニール・ヤング/ストレーゲイターズのベン・キースがまぶたに浮かびます。それからエルヴィス・コステロやチチ・ロバンのバンドでバス・クラリネットを弾いているルノー・ガブリエル・ピオンもいます。
アルバムタイトルの『ベテスダ』は,聖書(ヨハネ書)に出て来るエルサレムの池の名前で,主の使いがその水を動かせば,その水を最初に受けた者はいかなる病気でも治ってしまうと伝えられています。全体的に癒しの雰囲気があるアルバムですが,枯れてさらに丸くなったシルヴァン・ヴァノの慈愛みたいなものも,ふつふつと。
ビート・ジェネレーションの聖歌みたいなエデン・アーベ作「ネイチャー・ボーイ」の仏語カヴァー「エトランジュ・ギャルソン」が唯一の例外で,あとは全曲ヴァノのオリジナル曲です。
河よ おお 河よ
私はおまえがどこで眠っているのか知っている
だがおまえが起きて出ていく時どこに行くのかは知らない
河よ おお 河よ
私が知らないことは
私には苦にならない,少なくとも今のところは
(河 - Rivière)
なにか竹林の七賢人みたいな,中国の仙人が自然と問答しているような歌詞ではありませんか。山や河や野に向かって,日がな一日語ったりしているのでしょうね,このヴァノは。アルバム終曲の「花 - Les Fleurs」に至っては,このヴァノの賢人ぶりが際立って,私は恐れ入りましたと深々とお辞儀しましたね。
花は他の花の上には生えない
それはあらゆる匂いを自分にふりかけるが
最良の匂いもあり最悪の匂いもある
(中略)
花は水と泥を吸って生き,そして死ぬ
花の命は長くはない
それは1年よりは短いが,1時間よりは長い
人は花を美しい少女たちに与えるし
みんなが泣いている時に死んだ者たちにも与える
花ってそういうものさ
その(ヴァノ)場の気分と言いますか,飾らず,気取らず,ありのまま,無農薬...。眠くなったらお茶を飲みましょう。おいしいお茶を!
<<< トラックリスト >>>
1. O MON TOUR
2. UN PIED DERRIERE
3. LES CLOCHES DE L'AMOUR
4. HAWAII
5. RIVIERE
6. LE MOUTON A TROIS TETES
7. NATURE BOY (ETRANGE GARCON)
8. BAMBI BLANC / FORET NOIRE
9. BOIS FLOTTANT
10. IMPLACABLE
11. LES FLEURS
Silvain Vanot "BETHESDA"
CD MEGAPHONE MUSIC CDMEGA20
フランスでのリリース:2009年9月28日
(↓アルバム4曲め「ハワイ」のライヴヴィデオ)
Silvain Vanot - Hawaï (2007) from Jean-Philippe Pelletti on Vimeo.
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