2009年8月19日水曜日

やせっぽちのことを日本語で「えんぴつ」という



Amélie-Les-Crayons "A l'Ouest, je te plumerai la tête"
アメリー・レ・クレヨン『ライヴ2009』


 2001年ジャン=ピエール・ジュネ映画『アメリー・プーランの華麗な運命』(邦題は題も名前も短縮して『アメリ』)以来,アメリーという名の人物は周囲の人々に惜しみなく幸福をばらまく太陽のような少女,というイメージがついてしまいました。われらがアメリー・レ・クレヨンがこの芸名でリヨンで活動を開始したのは2002年のことで、アメリー人気のご利益狙いと思われたのはしかたありません。しかし、こちらのアメリーもその演劇的で物語的なスペクタクルが噂を呼び、観る者に必ず幸せな気持ちで家路につけるマジックな少女として、フランス全土で年間90日間ステージをつとめる努力が認められて、テレビやFMと縁のない「オン・ザ・ロード」の実力派女性歌手として評価を固めていきました。この辺の事情はジュリエット・ヌーレディンヌと良く似ています。
 アメリー・レ・クレヨンの「クレヨン」は日本語のクレヨンではなく,「えんぴつ」という意味です。たくさんのえんぴつを持った少女アメリーというわけです。
 自主制作の6曲入りアルバム『ひなげしの歌 Le chant des coquelicots』(2002年)に続いて,初フルアルバム『なぜにエンピツ? Et pourquoi les crayons?』(2004年)とCDは発表していますが,このアーチストはたぶんCDを売るということにあまりこだわっていないように思えます。彼女の歌とピアノと腕達者な3人の男性ミュージシャンで構成される,4人の旅芸人一座によるスペクタクルがCDよりも重要であるようなのです。彼女の歌を聞くのはいろいろな町でそのスペクタルを見に来る人たちであって,部屋でCDプレイヤーで聞く人たちは少なくてもいい。なぜならそのスペクタクルはCDよりもずっといいからなのです。
 400人のホールで始まった『ひなげしの歌』のスペクタクルを立ち上げてから,それはやがてフランス全土に広がり,1時間半の演し物は2時間になり,ツアー中に新しい曲が追加され,観客との丁々発止のインプロヴィゼーションで毎晩その様相は変わっていき,日々成長と変容を続けて行って,3年後には毎夜ソールドアウトで公演数200回を越してしまうのです。
 その記録は既に2005年にDVD化されていて,『ひなげしの歌』の総決算的な2時間のスペクタルを収録した "LE TOUR DE LA QUESTION 2005"は,それに先立つCD『なぜにエンピツ?』では見えづらかったこの女性とその一座のサーカス的で視覚的で劇的な展開がやっと見えた感じがしました。これを目の当たりに見たなら,誰もが納得するでしょう。
 そしてそのサイクルに一旦終止符を打ち,2007年に新しいアルバム『ラ・ポルト・プリュム(羽根の扉)』を発表し,さまざまなキャラクターの登場する絵本(32ページ)の体裁をした15曲アルバムから,また新しいスペクタクルが創作されます。2007年4月から始まったスペクタクル『ラ・ポルト・プリュム』のツアーの総集編的DVDがこれです。言わなくてもいいようなことを言いますが,今回もCDよりもずっといいのです。
 本編のコンサートライヴ90分の他に,ツアードキュメンタリー風の短編映画(ロード・ムーヴィーと副題されています)"A L'OUEST JE TE PLUMERAI"(童謡「アルエット=ひばり」のもじりで,西に着いたらおまえの羽根をむしってしまうぞ,といった意味でしょうか)が収録されていて,アメリーと3人の男たちの旅路が描かれます。この短編で,彼らの旅することの意味,スペクタクルと人生の関係などが,本人たちの口から語られます。言葉少ないながらも繊細さを感じさせるアメリーは,「アメリー・レ・クレヨン」は自分のことではなく,プロジェクトの名前であり,それを共同でつくりあげている人々の集合体であることをほのめかします。ミュージシャンたちは途中で招集されたわけではなく,最初の図面引きのときから参画しています。この一座の苦労と喜びがたった30分の短編で本当によく見えてきます。リヨンから始まったツアーが,西へ西へと向かい,フランスの大西洋岸の町サーブル・ドロンヌに着いた時,彼らは波打ち際でスペクタクル最初の曲「ラ・メグルレット(やせっぽち女)」を(もちろんアンプラグドで)歌います。この時アメリーが感極まって,頬に涙がつたっていくのをカメラは捉えます。--- この人たちはこういう旅をしているのだ。だから止められないのだ。旅を肥やしにしてスペクタクルを育てている人たちなのだ。---そんなことを考えました。

Amélie-les-crayons DVD "A L'OUEST, JE TE PLUMERAI LA TETE"
★ LA PORTE PLUME (90分コンサートライヴ映像)
1. Intro
2. La Maigrelette
3. Calées sur la lune
4. Depuis
5. La derniere des filles du monde
6. Chamelet
7. Le Train Trois
8. Les Pissotieres
9. De nous non
10. Mon docteur
11. Le citronnier
12. L'Errant
13. Le linge de nos meres
14. Les manteaux
15. La garde robe d'Elisabeth
16. Marchons
17. La fève
18. Le gros costaud
19. Ta p'tite flamme
★ Road Movie "A L'OUEST" (30分ドキュメンタリー)
★ Les Maigrelettes (10分の"La Maigrelette"のアンプラグド映像集)

DVD L'autre distribution AD1546V
フランスでのリリース:2009年8月17日


Amelie-les-crayons : DVD A L'Ouest (bande annonce)

2 件のコメント:

Yoko UC さんのコメント...

今晩は、えんぴつさんのご紹介をありがとうございました。 すごく好みにあいそうなので、早速コンサートのチケットを予約してしまいました。 
Le Hérisson の映画を見てから、誰か日本語で何か書いてないかな、と検索して、Castorさんのブログを発見して、以来ときどき読みに来てます。
映画の感想は、主役の人が全然本を読む感じでなくて、そして、小津という男についていろいろ考えました。
多くを語らないといい男に見える、ような気がしました。
それではまた、これからもお邪魔します。 Yuc

Pere Castor さんのコメント...

Yokoさん、コメントありがとうございます。パリの方じゃないですね? アメリー・レ・クレヨンはなかなかパリに来てくれないんですよ。でも彼女は地方の方が絶対に合っていると思います。どこかしら牧歌的。野性と言うよりオーガニック、野にありながら繊細なジョルジュ・サンドみたいな。着物着せたら日本美人になりそうな感じもありますね。不思議なキャラクターです。