2008年4月10日木曜日

フランス語の番人? Je sais, je sais, je sais...



 ジャン=ルー・ダバディー(シナリオ作家、劇作家、作家、コント作家、作詞家....)(1938 - )(69歳)が、アカデミー・フランセーズ(フランス学士院の一部門でフランス語審議会。言わば「フランス語の番人」。定員40人)の会員に選出されました。こんな堅いところにダバディーが、と意外に思う人が多いですね。テレビ受けのいい、いつもにこやかな紳士で、ギ・ブドスやミュリエル・ロバンにコントを提供していただけあって、軽妙で博識な語り口が魅力でした。明らかに女性(と男性)にもてそうな感じ。ダンディー。
 父親が既にフレール・ジャックやモーリス・シュヴァリエの作詞家という家で育ったジャン=ルーは、15歳で大学資格を取った早熟児で、19歳に初小説を刊行しています。この19歳の頃に、フィリップ・ソレルスとジャン=エドラン・アリエと共に前衛文芸誌「テルケル」の創立メンバーになっています。兵役の時に書いていたコント・シナリオの多くがのちにギ・ブドスの舞台で炸裂し、セルジュ・レジアニに書いた詞によって作詞家業も始めます。
 しかしその筆は、一連のクロード・ソーテ監督の映画作品"Les choses de la vie"(邦題『すぎさりし日の』1970),"César et Rosalie"(邦題『夕なぎ』1972),"Vincent, François, Paul et les autres"(邦題『友情』1974)やトリュフォーの『私のように美しい女』(1972)で知られるようになり,シナリオ作家、とりわけダイアローグの名手としての定評を勝ち得ていきます。
マルチなライターで,テレビ,演劇,寄席芸などにも進出していきますが,私たちにはなんと言っても作詞家の仕事が印象的です。ジュリアン・クレールでは,"Jaloux", "Partir", "Ma préférence", "Femmes... Je vous aime"などのヒット曲だけではなく,かのドラマティックな死刑廃止論の歌 "L'Assassin assassiné"(1981)もダバディー筆でした。ポルナレフでは「愛の休日 Holidays」,「悲しみの終わる時 Ca n'arrive qu'aux autres」,「愛の物語 Nos mots d'amour」など美しいメロディーに載った美しい詞が多いんですが,なんと言ってもとどめは「フランスへの手紙 Lettre à France」(1977)ですね。
 それに加えて私にとってのジャン=ルー・ダバディーは最重要な2曲があって,まず1974年ジャン・ギャバンの"Maintenant Je sais"ですね。この歳になったから身にしみるのかもしれませんが,いくら歳を取ったってどうして地球は回っているのか,なんてわからないのですよ。私は何も知らないということを知っている。こういう柔軟な人が,アカデミー・フランセーズというフランス語の最高権威の学会員になるというのは素晴らしいですね。文学者,作家,詩人,哲学者などがこの学会の大部分なわけですが,映画界から選ばれた人は,1981年ルネ・クレール監督(『巴里祭』1932)が亡くなってからひとりもいなかったのだそうです。またシャンソン界からアカデミー入りするかもしれないと話題になったシャルル・トレネは,1983年の選考で結局落とされてしまっていて,これまで誰もいなかったのです。ということで,ダバディーのアカデミー・フランセーズ入りは,映画/テレビ/演劇/シャンソンの大衆的な部分からの初選出という意味があるわけですね。
 もう1曲は1971年クロード・ソーテ映画『すぎりし日の Les choses de la vie』のために作られた,ロミー・シュナイダーとミッシェル・ピコリの『エレーヌの歌 Chanson d'Helene』ですね。これはこの映画のシナリオをダバディーが書いているんですが,映画の結末とは別の歌を作ってしまっている(映画は事故的死に別れ,歌は観念的別離),というのがダバディーのナニでしょうね。
 なにはともあれ,ジャン=ルー・ダバディーのアカデミー入りを心から祝福しましょう。

(↓)ロミー・シュナイダー&ミッシェル・ピコリ「エレーヌの歌」(1971年)

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

おかげさまで今日の朝一番にニュースをお知らせ頂いて、今日の大野教室前説でダバディー氏を熱く語ってきました。ポルナレフ2曲。往時のお船も鳥も全てと去年のフランスへの手紙。ただし去年のエッフェル塔コンサートはサビのあまりの衰えで止めてしまった。それから大野教室の年齢層を考慮したジャン・ギャバ〜ン。〆はこれしかないでしょうの殺された殺人者。ところでダバディー氏の占めたアカデミー19番席はシャトーブリアンだのルネ・クレールだのの由緒ある席でやんすね。

Pere Castor さんのコメント...

かっち。君,
いつもありがとうございます。
ダバディーは日本では息子が有名人なのですね。クロード・ソーテ映画はいいですね。"Les choses de la vie"は,あの当時フランスではこんなに煙草を喫っていたのか,とビックリしました。ミッシェル・ピコリもロミー・シュナイダーも切れ目なく煙草喫ってますね。見てるだけで喉がいがらっぽくなります。