2008年4月14日月曜日

インド人もクラヴィック!




 ドミニク・クラヴィック&レ・プリミティフ・デュ・フュチュール
 『むぜっ!と威張る虎』
Dominique Cravic & Les Primitifs du Futur "TRIBAL MUSETTE"


 レ・プリミティフ・デュ・フュチュールの7年ぶり4枚目のアルバムです。その間にリーダーのドミニク・クラヴィックはウクレレ・クラブ・ド・パリのアルバムを作ったり,ダニエル・コランとデュエットで「パリ・ミュゼット楽団」として日本に2度も行ったり,故アンリ・サルヴァドールの楽団のギタリストとして翁のサヨナラ公演ツアーに同行したり,ピエール・バルーの新アルバム「ダルトニアン」に参加したり...。八面六臂の大活躍でありましたが,その合間を縫って,よくもまあこんなすごいアルバムを作ったものです。
 レ・プリミティフは今から四半世紀前に,ミュゼットの巨人ジョー・プリヴァのギタリストだったディディエ・ルーサン(故人)と,ブルース・ギタリストだったドミニク・クラヴィックが中心になって結成された,パリ的オールドファッションド・ミュージック(ミュゼット,戦前シャンソン,マヌーシュ・ジャズ...)にこだわったジャグバンドで,アメリカ人の分際で(!)その種の音楽の大ファンだった漫画家ロバート・クラム(『フリッツ・ザ・キャット』で知られるニューヨーク・アンダーグラウンド・コミックの最重要作家)がバンジョーとカヴァーアートを担当していたことでも話題になりました。ファースト10インチアルバムの"Cocktail d'amour"は,クラムのファンたちが騒いだこともあって,今やそのアナログ盤はコレクター市場で大変な高値だそうです。
 時は移り,新アルバムは中核メンバーのドミニク・クラヴィック(ギター),ダニエル・コラン(アコーディオン),ダニエル・ユック(サックス,スキャット),ジャン=フィリップ・ヴィレ(コントラバス),ジャン=ミッシェル・ダヴィ(シロフォン),フェイ・ロフスキ(ミュージカル・ソー,テレミン),ベルトラン・オージェ(サックス)等に加えて,ゲストが全部で52人。オリヴィア・ルイーズ,クリストフ,サンセヴリノ,アラン・ルプレスト,マルセル・アゾラ,ピエール・バルー,ジャン=ジャック・ミルトー(この人創立メンバーでした),ラウール・バルボーサ,フラーコ・ヒメネス,クレール・エルジエール...。制作費のこと考えたら気が遠くなりますが,今回の4枚めは初めてメジャー会社(Universal)による制作ですから,お金のことは気にならなかったのでしょう。贅沢。豪奢。
 それよりも,ドミニク・クラヴィックという男が持つカリスマ的吸引力の方が,このメンツを大結集させた第一の理由でしょう。自らフランス屈指のレコードコレクターであり,ブルース,シャンソン,ミュゼット,ラテン音楽(特にブラジル)の研究家でもあるクラヴィックは,戦前パリが世界中の多くの芸術家たちを引き寄せたような,パリ的吸引力が大衆音楽に及ぼした過去を未来に向けて再び描こうとします。「未来の原始人たち = レ・プリミティフ・デュ・フュチュール」とはそういうトライブであり,日々アメーバ的に拡散していて,オリヴィア・ルイーズのような若いアーチストからピエール・バルー翁に至るまで,18歳から80歳までの52人がクラヴィックの呼びかけに応えて,一緒に旅を楽しむように,この多彩な16曲を録音してくれました。
 エキゾティックなミュゼット「ヒンドゥー・ワルツ」に始まり,チャップリン「モダン・タイムス」のテーマ "Titine"のアラブ的展開,アラン・ルプレストの絞り出しヴォーカルが描く映画「北ホテル」の舞台サン・マルタン運河,チャマメ王ラウール・バルボーサの酒酔い気分"Ivresses",和琴で奏でられるジョルジュ・ヴァン・パリスの映画音楽 "Nous sommes seuls"(これはマルク・ペロンヌの十八番レパートリーのひとつですね),ピエール・バルー翁が語る「ジャンゴ・ラインハルトの死」,テックス・メックスのアコ弾きフラーコ・ヒメネスの国境なきバラード"San Antonio's Bells"...。
 スラヴ風もアラブ風もラテン風もマヌーシュ風もシャンソン風も,「ワールド」系の強引なミクスチャーとは無縁の,パリ的抱擁力で自然に溶け合ってしまった感じの16曲です。若い人たちにはちょっとスムーズ過ぎますかな?
 4月21日にドミニク・クラヴィックに会えることになりました。この大労作についていろいろ聞いてみましょう。


<<< トラックリスト >>>
1. La valse Hindoue
2. Sur le toit 〜 Romana (feat. OLIVIA RUIZ & CHRISTOPHE)
3. Dalinette (feat. MARCEL AZZOLA)
4. Titine
5. Ton manteau gris (feat. CLAIRE ELZIERE)
6. La grande truanderie (feat. SANSEVERINO)
7. Canal Saint Martin (feat. ALLAIN LEPREST)
8. Syldave ou Bordure ?
9. Ivresses (feat. RAUL BARBOZA)
10. Nous sommes seules
11. Mon Idéal (feat. JEAN-JACQUES MILTEAU)
12. Ménage à trois (feat. SANSEVERINO)
13. Mingus Viseur
14. Syldave et Bordure !
15. La derniere rumba de Django (feat. PIERRE BAROUH)
16. San Antonio's Bells (feat. FLACO JIMENEZ)

DOMINIC CRAVIC & LES PRIMITIFS DU FUTUR "TRIBAL MUSETTE"
CD UNIVERSAL MUSIC JAZZ FRANCE 5305916
フランスでのリリース:2008年4月14日


 
PS 1
レ・プリミティフの マイスペースです。"Titine"が試聴できます。

2 件のコメント:

かっち。 さんのコメント...

クラヴィック氏にお会いになったら是非新作のプロモートに来日して欲しいとお伝え下さい。実は最初のコラン師との来日コンサートの時にも直接お願いしました。そのときは新作を作ってプロモートで来日コンサートをと。半分かなったのだから残りも叶えて欲しい。もちろん素晴らしい活動に感謝していることも。僕は客席最前列で歌っていたので覚えられていたみたい。

Pere Castor さんのコメント...

昨日午前中会ってきました。私はレ・プリミティフの用件で行ったのですが,その午後に日本のリスペクト・レコードのための「パリ・ミュゼット」新作の録音が終了することになっていました。日本側はたいへん積極的で,この新作ではもう何回かのコンサートをブッキングしているそうです。リスペクトさんは儲かってるんですねえ。コランのアンソロジーも出したそうじゃないですか。
レ・プリミティフはやっと昨日フランスのCD店に出回ったようです。リスペクト「パリ・ミュゼット」とは思想もレンジの広さも全然違うのですが,同じ人がやっているとは...。バルやゼット界のスラングで,バル・ミュゼットに足繁く通う男たちのことを「アパッチ」と呼んだのです。ミュゼット好きのトライブはアパッチなのであります。この含みで,ロバート・クラム画伯は,このジャケット・イラストレーションの真ん中に本物の「アパッチ」を持ってきます。しかしクラム画伯の茶目っ気で,このアパッチの顔はどことなくフランス人(ゴール人)で,おまけに両切りジターヌを唇の端にくわえています。この二重三重の諧謔がレ・プリミティフの本領でして,「フレンチカフェ風」などというだけで若いお歴々にちやほやされるような音楽とは,根本が違うんですね。そうやってクラヴィックに喰ってかかったんですが,同じ人間のやっていることなので...。