Gaël Faye + Grand Corps Malade + Ben Mazué "Ephémère"
ガエル・ファイユ+グラン・コール・マラード+ベン・マズュエ『かりそめ』
爺ブログではガエル・ファイユとグラン・コール・マラードはちょくちょく登場しているのだが、ベン・マズュエはこれまで私もほとんど縁のなかったアーチスト(シンガー・ソングライター)なので、まずこのベン・マズュエのプロフィールから。1981年ニース生まれ、現在40歳。25歳まで医学部で学んでいる。後述する「バンジャマン・ビオレー誘拐事件」の中で(血を流して倒れているビオレーを前に)グラン・コール・マラードがマズュエに「おまえ医者だろ?診断しろ」と言うシーンがあるが、これ、ウソではなかったのだね。というわけでプロとして音楽を始めたのは遅い。フォーク/シャンソン系の作詞作曲家としてアクセル・レッド、パトリシア・カース、ポム、ザーズ、フレロ・ドラヴェガなどに曲を提供、数年の下積みの末、2011年にメジャー(Sony)からアルバムデビュー(この時すでに30歳)、2017年のサードアルバム”La Femme Idéale"で一挙にブレイク、繊細+センチメンタルな新手のアラン・スーション/ヴァンサン・ドレルムとの評価。2021年にヴィクトワール賞年間ベストアルバムにノミネート(これが”誘拐事件”の引き金)、2022年に同賞ベストライヴパフォーマンスを受賞。
さてこの3人は昨日今日のつきあいではない。フランスで”スラム(slam)"がカフェを舞台にしたポエトリー合戦だった頃(2000年頃)から、グラン・コール・マラードとガエル・ファイユはスラム詩人として出会っていたし、2010年代にガエル・ファイユをラップ/シャンソンの側のアーチストとして変身させたのは作編曲家/ジャズプレイヤーのギヨーム・ポンスレであったが、ポンスレは同時にベン・マズュエのアレンジャーだったし、マズュエは2013年からグラン・コール・マラードにメロディーを提供し始めている。ポエトリー(グラン・コール・マラード)、ラップ/ヒップホップ/シャンソン(ファイユ)、ポップ/フォーク/シャンソン(マズュエ)、それぞれ違う志向性で作品を発表している3人だが、気心知れた旧知の仲。
この3人によるEPアルバム制作というアイディアはグラン・コール・マラードから出たものだが、その制作プロデュースをしたジャン・ラシッドはグラン・コール・マラードの映画監督作品"Patients"(2017年)と”La vie scolaire"(2019年)のプロデューサーであり、なんと私生活ではカティア・アズナヴールの夫(すなわちシャルル・アズナヴールの娘婿)なのである。このジャン・ラシッドがお膳立てをして、2022年4月、南仏プロヴァンス地方、サン=レミーにある録音スタジオ La Fabrique (19世紀の大農家を改造したレジデンス音楽アトリエ)を6日間貸し切りにして、3人のアーチストに加えて作編曲家/DJのカンタン・モジマン(Quentin Mosimann)、前述の作編曲家ギヨーム・ポンスレ、サウンドエンジニアのトリスタン・マジールを召集してつくられたのが、この『かりその(Ephémère)』という7トラックのミニアルバム。豪華な17 x 17センチ、ハードカヴァー60ページブック装丁、フレデリック・ペロ(文)+シャルロット・モー(イラスト)による「制作日誌」。7曲ミニアルバムCD(トータルランタイム:28分44秒)にしてはちょっと高めのお値段(FNAC価格で19,99ユーロ)であるが、この豪華ブックの面白さに免じて許す。
ガエル・ファイユ+グラン・コール・マラード+ベン・マズュエ『かりそめ』
爺ブログではガエル・ファイユとグラン・コール・マラードはちょくちょく登場しているのだが、ベン・マズュエはこれまで私もほとんど縁のなかったアーチスト(シンガー・ソングライター)なので、まずこのベン・マズュエのプロフィールから。1981年ニース生まれ、現在40歳。25歳まで医学部で学んでいる。後述する「バンジャマン・ビオレー誘拐事件」の中で(血を流して倒れているビオレーを前に)グラン・コール・マラードがマズュエに「おまえ医者だろ?診断しろ」と言うシーンがあるが、これ、ウソではなかったのだね。というわけでプロとして音楽を始めたのは遅い。フォーク/シャンソン系の作詞作曲家としてアクセル・レッド、パトリシア・カース、ポム、ザーズ、フレロ・ドラヴェガなどに曲を提供、数年の下積みの末、2011年にメジャー(Sony)からアルバムデビュー(この時すでに30歳)、2017年のサードアルバム”La Femme Idéale"で一挙にブレイク、繊細+センチメンタルな新手のアラン・スーション/ヴァンサン・ドレルムとの評価。2021年にヴィクトワール賞年間ベストアルバムにノミネート(これが”誘拐事件”の引き金)、2022年に同賞ベストライヴパフォーマンスを受賞。
さてこの3人は昨日今日のつきあいではない。フランスで”スラム(slam)"がカフェを舞台にしたポエトリー合戦だった頃(2000年頃)から、グラン・コール・マラードとガエル・ファイユはスラム詩人として出会っていたし、2010年代にガエル・ファイユをラップ/シャンソンの側のアーチストとして変身させたのは作編曲家/ジャズプレイヤーのギヨーム・ポンスレであったが、ポンスレは同時にベン・マズュエのアレンジャーだったし、マズュエは2013年からグラン・コール・マラードにメロディーを提供し始めている。ポエトリー(グラン・コール・マラード)、ラップ/ヒップホップ/シャンソン(ファイユ)、ポップ/フォーク/シャンソン(マズュエ)、それぞれ違う志向性で作品を発表している3人だが、気心知れた旧知の仲。
この3人によるEPアルバム制作というアイディアはグラン・コール・マラードから出たものだが、その制作プロデュースをしたジャン・ラシッドはグラン・コール・マラードの映画監督作品"Patients"(2017年)と”La vie scolaire"(2019年)のプロデューサーであり、なんと私生活ではカティア・アズナヴールの夫(すなわちシャルル・アズナヴールの娘婿)なのである。このジャン・ラシッドがお膳立てをして、2022年4月、南仏プロヴァンス地方、サン=レミーにある録音スタジオ La Fabrique (19世紀の大農家を改造したレジデンス音楽アトリエ)を6日間貸し切りにして、3人のアーチストに加えて作編曲家/DJのカンタン・モジマン(Quentin Mosimann)、前述の作編曲家ギヨーム・ポンスレ、サウンドエンジニアのトリスタン・マジールを召集してつくられたのが、この『かりその(Ephémère)』という7トラックのミニアルバム。豪華な17 x 17センチ、ハードカヴァー60ページブック装丁、フレデリック・ペロ(文)+シャルロット・モー(イラスト)による「制作日誌」。7曲ミニアルバムCD(トータルランタイム:28分44秒)にしてはちょっと高めのお値段(FNAC価格で19,99ユーロ)であるが、この豪華ブックの面白さに免じて許す。
1曲ずつかいつまんで解説はしないので、悪しからず。全曲一聴して、掛け値なしに衝撃的なのが4トラックめ「誰がバンジャマン・ビオレーを誘拐したか?(Qui a kidnappé Benjamin Biolay?)と5トラックめ「大義名分(La Cause)」。この2トラックはセットになっている。”バンジャマン・ビオレー誘拐事件”は曲と言うよりはラジオドラマ寸劇で、続く「大義」はバンジャマン・ビオレーの代表的傑作曲"La Superbe"(2009年発表、2010年ヴィクトワール賞2部門)の主題をサンプルしている。ビオレーがこのミニアルバムの4人目の主役となっているような導入のしかたである。
(4)バンジャマン・ビオレー誘拐事件
(あらすじ)
時は2021年2月12日、ラ・セーヌ・ミュージカルを会場に開催された第36回ヴィクトワール賞セレモニー、その年のベストアルバムにノミネートされたのが、バンジャマン・ビオレー『グランプリ』(爺ブログに記事あり)、グラン・コール・マラード『メダム』(爺ブログに記事あり)、ベン・マズュエ『パラディ』、ガエル・ファイユ『むかつく月曜日』(爺ブログに記事あり)。
(5)La Cause (大義名分)
(ビオレー曲 "La Superbe"のイントロのサンプルに乗って...)
おわかりかな? 3人はバンジャマン・ビオレーをサカナに2トラック作ってしまったのですよ。"La Cause"のグラン・コール・マラードのライムなど、(成り上がり)インテリ左派アーチストとしてメディアに(ぶっきらぼうな)毒舌を吐くことで知られるバンジャマン・ビオレーへの強烈なあてこすりなのだけど。まあこれも(ダチ関係で通じ合える)ユーモアとして解されるものだろう。その証拠にビオレー自身「声の出演」をしているし、自曲"La Superbe"のサンプルを許してるし、ブックレットの謝辞欄にはちゃんとバンジャマン・ビオレー("pour son clin d'oeil amical" = 友情ある目配せに感謝)が記されているし。
<<< トラックリスト >>>
1. On a pris le temps
2. Tailler la route
(↓)"Tailler la route" オフィシャルクリップ
(4)バンジャマン・ビオレー誘拐事件
(あらすじ)
時は2021年2月12日、ラ・セーヌ・ミュージカルを会場に開催された第36回ヴィクトワール賞セレモニー、その年のベストアルバムにノミネートされたのが、バンジャマン・ビオレー『グランプリ』(爺ブログに記事あり)、グラン・コール・マラード『メダム』(爺ブログに記事あり)、ベン・マズュエ『パラディ』、ガエル・ファイユ『むかつく月曜日』(爺ブログに記事あり)。
その夜、グラン・コール・マラードはむかついたデキ心でビオレーのヴィクトワール賞トロフィーを盗み出し、同じ敗者の苦汁をなめたベンとガエルを呼び出して、一緒に悔しさをサカナに飲んだいたが、「やっぱりこれは返した方がいいよ」という結論になり、3人で真夜中にバンジャマン・ビオレー邸に向かう。しかし穏便にことがおさまるわけがなく...。
気が立ってしまったビオレーと3人は乱闘のさわぎに。マズュエにつかみかかったビオレーの顔面にガエル・ファイユの鉄拳が。KO。鼻から血を出して気絶したビオレー。まだ息はある。さあ、どうする? グラン・コール・マラードが「俺にアイディアがある」と。車のトランクにビオレーを押し込み、3人は逃走する。
翌朝ラジオのニュース「バンジャマン・ビオレー誘拐犯からの声明が。(ビオレー曲)"La Superbe”楽曲使用の許可とひきかえにバンジャマン・ビオレーを解放する、と」
気が立ってしまったビオレーと3人は乱闘のさわぎに。マズュエにつかみかかったビオレーの顔面にガエル・ファイユの鉄拳が。KO。鼻から血を出して気絶したビオレー。まだ息はある。さあ、どうする? グラン・コール・マラードが「俺にアイディアがある」と。車のトランクにビオレーを押し込み、3人は逃走する。
翌朝ラジオのニュース「バンジャマン・ビオレー誘拐犯からの声明が。(ビオレー曲)"La Superbe”楽曲使用の許可とひきかえにバンジャマン・ビオレーを解放する、と」
(5)La Cause (大義名分)
(ビオレー曲 "La Superbe"のイントロのサンプルに乗って...)
(グラン・コール・マラード)
みんな言ってる、おまえはなぜそのことを話さないのか、なぜおまえはそれにコミットしないのか、おまえはそれが緊急課題であることを知っているのに、なぜ議論に加わろうとしないのか
それがアーチストなのかい?みんな気取って、問題だなとうなずきあったりはするが、
いざ自分の立場を表明する段になると、誰もいなくなってしまう
さまざまな署名運動に俺の名前を出してくれと呼ばれる
競い合うようにさまざまな社会行動に駆り出される
おまえはどうして選挙の時に支援する候補者を選ばなかったんだ?
おまえの息子がどんな世界で成長するのかを知ったからって泣きついてくるんじゃない
俺たちに意見を言うおまえは一体何様なんだ?
うるせえんだよ、自分の人生を語るのやめろよ
おまえのレコードは売れてるし、おまえはそれでいい気になって鼻高々なんだ
それでおまえはサヨクおぼっちゃんアーチストのゴタクを開陳するんだ
そうだろう、さあ時事問題を解説してみろよ、月刊誌の社説みたいに人があまり賛成していない事柄についておまえの科学的分析を披露しろよものごとを知っている人たちにしゃべらせろよ、おまえの有用性などつくりものだろう
俺はこの正当性の問題を考えるとわけがわからなくなる
(ベン・マズュエ)
俺は恋については少し知ってるしそれについて話すこともできる、俺は何度か経験してるし
俺は子供のことも少し知ってる
俺は死のことも少し知ってるしそれについて語ることができる
俺は少し経験してるんだ
俺は10年間、自分の家よりも病院で寝ることが多かったんだ
自分の歌については俺はそれが何を語っているのか、当然知ってるさそれは俺が知ってるすべてだから
俺が言いたいことのすべてだから
俺が認識してるすべてだから俺がしてることで俺が認識してるすべてだから
俺は問題をよく吟味しようと努力してるんだ
俺が最低に気に食わないのは自分が上辺だけ見たことについて
知ったように喋る輩
スキャンダルと論難し糾弾する輩
悪者はあっちにいると言う輩
善人はこいつらのことをちゃんと知ってる
(ガエル・ファイユ)
いかなる歌も世界を改変することはできない
俺はアーチストだが、ただの飾りじゃない爆弾が降り注ぐ場所で生きていなくても俺はそれを糾弾することができるし、心底憤激することもできる氷山に吹きつける寒風と臆病の温もりの間にあってしょっちゅう俺はためらい、考えを変え
言葉がなかなか出すことができないし
俺の愚かさが露呈するのを恐れる
語ること、それは自分の立場を表明すること
沈黙すること、それも自分の立場を表明すること俺は夢は信じるが、革命は信じていない俺は答えが欲しいから、問いを作り出す混乱を巻き起こすのに何をためらっているのだ?
俺は歌いたい、ラップしたい、警告したい、証言したい
俺は嵐を口から吐き出したい、熾火を燃え上がらせたい(3人)
Je pense donc je suis 吾思う、ゆえに吾あり
Je danse donc je crie 吾踊る、ゆえに吾叫ぶ
Je chante donc je fuis 吾歌う、ゆえに吾逃げる
J'invente donc j'appuie 吾創る、ゆえに吾強める
おわかりかな? 3人はバンジャマン・ビオレーをサカナに2トラック作ってしまったのですよ。"La Cause"のグラン・コール・マラードのライムなど、(成り上がり)インテリ左派アーチストとしてメディアに(ぶっきらぼうな)毒舌を吐くことで知られるバンジャマン・ビオレーへの強烈なあてこすりなのだけど。まあこれも(ダチ関係で通じ合える)ユーモアとして解されるものだろう。その証拠にビオレー自身「声の出演」をしているし、自曲"La Superbe"のサンプルを許してるし、ブックレットの謝辞欄にはちゃんとバンジャマン・ビオレー("pour son clin d'oeil amical" = 友情ある目配せに感謝)が記されているし。
<<< トラックリスト >>>
1. On a pris le temps
2. Tailler la route
3. Sous mes paupières
4. Qui a kidnappé Benjamin Biolay ?
4. Qui a kidnappé Benjamin Biolay ?
5. La Cause
6. Besoin de rien
6. Besoin de rien
7. Ephémère
Gaël Faye + Grand Corps Malade + Ben Mazué "Ephémère"
CD Book Anouche Records/Sony Music
フランスでのリリース:2022年9月16日
カストール爺の採点:★★★☆☆
(↓)"On a pris le temps" オフィシャルクリップ
Gaël Faye + Grand Corps Malade + Ben Mazué "Ephémère"
CD Book Anouche Records/Sony Music
フランスでのリリース:2022年9月16日
カストール爺の採点:★★★☆☆
(↓)"On a pris le temps" オフィシャルクリップ
(↓)"Tailler la route" オフィシャルクリップ
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