2018年1月5日金曜日

爺ブログのレトロスペクティヴ2017

2017年は不死身のジョニー・Hも亡くなったし...

 例になりました「レトロスペクティヴ」です。2017年は爺ブログが10周年を迎えましたし、記事数も53という近年にない多さでした。総ビュー数の統計も60万を超え、ぐ〜んと認知度が高まっているようです。背景には2016年12月に始まった病気との闘いがあり、そのために2017年前半で閉社を余儀なくされた21年間続いたYTT社の最後がありましたし、副作用の厳しいハードな治療の連続がありました。8月半ばですべての治療が中断され、その後は比較的平静な「毎日が日曜日」の年金生活者となって今日に至っています。平日午前中に映画が観れる、混まない時間にFNACで本を探せる、愛犬と遠くまで散歩に行ける、ラジオRTL "GROSSES TETES"'(16時〜18時)をほぼ毎日聞く、そういう生活になりました。そりゃあ、記事数も増えて当たり前ですね。
ル・ペンを退け、マクロンが大統領になった年です。このレトロスペクティヴは現在(2018年1月5日)の時点の統計によって、2017年に掲載した53の記事のビュー数が多い順でランクしたTOP 10です。新刊書の紹介が少なく、書きかけでやめているル・クレジオとモディアノの2017年新刊など、ちょっと残念です。掲載しなくてゴメンなさいですが、個人的に2017年のベスト新刊は、ルノードー賞を受賞したオリヴィエ・ゲーズ著『ヨーゼフ・メンゲレの死』(ナチス将校でアウシュヴィッツ収容所の人体実験の責任者の南米逃亡の記録)でした。ベスト新譜アルバムは圧倒的にオレルサン『お祭りはおしまい』でした。新作映画では文句なしに『120 BPM』(ロバン・カンピーヨ監督。2017年カンヌ映画祭審査員グランプリ)でした。

1. 『ウーエルベックから見た大統領選2017(2017年5月9日掲載)
トランプ大統領誕生、ブレグジットと続いたポピュリズムの大波はフランスの大統領選にどう響くか。予言的な小説を発表し続けてきた作家ミッシェル・ウーエルベックが、マクロンという奇妙な大統領を登場させたフランスの選択を分析する。その中で作家は、マクロンの選挙運動は「集団的セラピー」であると言っています。マリーヌ・ル・ペンが選挙戦半ばで「器の小ささ」を露呈した結果負けたのだと私は思っていますが、マクロンの「器」は今のところそれほどボロは出ていないようです。比較的平穏な治世が進んでいる印象がありますが、あの熱狂を求めた支持者たちは一体どこに行ったのでしょうか。

2. 『ヒロシマじゃけん(2017年8月20日掲載)
ジャン=ガブリエル・ペリオ監督の初長編フィクション映画。広島を舞台に、フランスのテレビ局から送られてきた在仏日本人映画人アキヒロと、被爆して死んだ若い看護婦ミチコの幽霊が、お盆の時期に出会ってしまう24時間の物語。「ヒロシマ」+「24時間」と言うとすぐにあのデュラス+レネ映画を思ってしまうかもしれないが、それとは全く違う、この救いも優しさも恩寵もある映画、本当に大好きだった。折しもお盆の時期に観たからかもしれない。出演者の方からのコメントまでいただいた稀有で貴重な記事です。


3. 『平和の番人(2017年4月26日掲載)
4月20日、パリ、シャンゼリゼ大通りでテロリストによって射殺された警官グザヴィエ・ジュジュレ(37歳)。ホモセクシュアル。4年前からパートナーとして生活を共にしていたエチエンヌ・カルディル(外務省勤務の外交官)による、追悼式典での弔辞をほぼ全訳した記事。訳しながら、泣けて泣けてしかたがなかった。「平和の番人 Gardien de la paix」という職業の誇り、エチエンヌの結びの「ジュ・テーム」という言葉、どれも胸に突き刺さる。ありがとう。





4. 『1976年のジュリー・ラヴ(2017年7月21日掲載)
沢田研二は私と同じ誕生日(6月25日)ということで、以前から何かの縁を感じているアーチストである。沢田がフランスで活躍し、フランス語で歌っていた70年代半ば。フランスもいよいよテレビ全盛時代に突入し、音楽アーチストも見てくれの良さやフリのうまさが優先するようになった頃で、美しい沢田はフランスのテレビのニーズにドンピシャだったのだろう。もっと良い曲提供者がいれば、と悔やまれるフランスでの2枚のアルバム。それでもこの夏、このLPはわがターンテーブルをずっと占領していた。


5. 『ニースよ永遠に(2017年7月15日掲載)
2016年7月14日革命記念日、ニースのビーチ沿いの遊歩道にジハーディストの暴走トラックが突っ込み86人の死者を出したテロ事件の1年後の追悼式典で、ニースにゆかりのある8人のアーチストによって朗読された、ニース出身のノーベル賞作家ル・クレジオのテクスト全文の日本語訳。結語部で「日本人が言うように、魂が海と空の間に浮かんでいる」と表現しているが、年に一度お盆の時期に冥界から降りてくる死者の魂というイメージ、美しいニースの「天使の湾 baie des anges」と相まって、悲しみを新たにする。

6. 『I wanna Djam it with you(2017年8月13日掲載)
トニー・ガトリフの最新映画『ジャム』は、ギリシャのレスボス島からトルコ沿岸の町へ向かう野生的な娘ジャムの往復の旅。ギリシャとトルコにまたがる越境と亡命の音楽レベティコを歌い、踊るジャムの美しさだけで値千金の映画。加えてギリシャの財政破綻、地中海を渡ってくる難民、ジハード戦士に合流しかけて戻ってくる不安定なフランス娘など、この地域で起こっている時事的な事柄もたくさん混入されているロード・ムーヴィー。ジャムを演じたダフネ・パタキアという新人女優、今後がおおいに期待できます。


7. 『お先マクロン?(2017年4月22日掲載)
 2017年大統領選挙の第一次投票と第二次決選投票の間に書いた記事です。エマニュエル・マクロン vs マリーヌ・ル・ペンという組み合わせが決まった時点で、フランスはアメリカともイギリスとも違うポピュリズムが台頭していると感じました。マクロンは勝ってもリベラル経済政策を、日和見オランド以上に推進するのは目に見えている。われわれを長年苦しめているのは「リベラル」であるということを問題にしない選挙になってしまったのです。

8. 『ガバリと寒い海がある(2017年10月3日掲載)
イニアテュス・ジェローム・ルッソーは地味ながらコツコツと曲者アルバムを発表してきたけど、自主制作&自主流通で出たこの最新アルバム(6枚目)が、テレラマ誌で「ffff」評価で、私も慌てて入手した。電子系が縦横無尽に導入されても、優しく情緒あふれる前衛で、副業(?)で発表している俳句の数々(すごい量)も、レ・ゾブジェ(1991-1994)の頃から変わらない含蓄と諧謔の世界。変わらないっていうことはいいことだと思う。いつかイニアテュスの句集を日本語で出してみたいというアイディアもある。


9. 『Run away turn away run away turn away (2017年9月3日掲載)
2017年、最も強烈だった映画『120 BPM』に関しては、雑誌ラティーナ(2017年10月号)に長い紹介記事を書いた。だから爺ブログには映画紹介の記事がない。で、爺ブログにはテーマ音楽的に使われてとても印象的だったブロンスキー・ビートの「スモール・タウン・ボーイ」(1984年版と、映画で使われた2017年アルノー・ルボティニ・リミックス版)について書いている。以来、ジミー・ソマーヴィルの声、聴くたびに泣きそうになる。私自身闘病中に観た映画だったからかもしれない。2018年3月24日から日本公開です。絶対に観てください。



10.『黙っとらんベルトラン(2017年10月13日掲載)
ベルトラン・カンタ(元ノワール・デジール)の初ソロ名義アルバムが出るというので、レ・ザンロキュプティーブル誌が表紙にしてロングインタヴューを掲載したら、フェミニスト団体や同業メディアから大非難。今日の日本語では「炎上」と言うのだろうか。折しもハーヴェイ・ワインスタイン事件と重なり、女性への暴力やセクハラがかつてない勢いで糾弾され始めた時期。フランスを代表する女性誌「エル」の対抗論説も追加で全文訳して載せた。12月にリリースされたベルトラン・カンタのソロアルバム "AMOR FATI"は買って愛聴している。これも強烈な作品。だが、爺ブログには紹介記事を載せるべきではないと自粛した。

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