エリミネ
1.(無用・有害な要素として)削除された、排除された。(受験者・選手・チームなどが)ふるい落とされた、不合格となった、外された。
2. 《数》(未知数などが)消去された。
3. 《生理》(老廃物、毒物などが)排出(排泄)された。
日本語的な語感ですよね。「エリミネ」さんという苗字の人いますでしょうし。フランス語には結構ありますよね、どこか日本的な響きの言葉、「マカベ」とか「オノレ」とか「イヌイ」とか。
時は2016年11月20日(日曜日)、パリ圏地方は雨と曇りの典型的晩秋・初冬の空模様、わが町ブーローニュでは第20回目になる11月恒例のセミ・マラソン(21,1キロ)大会が開かれ、わが家の前のセーヌ脇道路も車両がエリミネされて、8000人ものローカル・マラソニアンたちが雨に打たれながら走っていたのでした。その日、フランス全国のトップニュースとしては、2017年フランス大統領選挙の保守・中道派からの統一候補を選ぶ保守中道有権者による予備選挙市民投票の第一回投票が行われたのでした。立候補者数は7人。保守最大政党にして第一野党であるLR(レ・レピュブリカン。日本では「共和党」と訳されている)から6人:アラン・ジュペ(1995〜97年首相、現ボルドー市長)、ニコラ・サルコジ(2007〜12年大統領)、フランソワ・フィヨン(2007〜12年首相)、ジャン=フランソワ・コペ(LRの前身UMP党党首2012〜14年)、ナタリー・コシュルコ・モリゼ(2007〜12年環境大臣)、ブルーノ・ル・メール(2009〜12年農相)。そして非LRの保守政党でPCD(キリスト教民主党)の党首であるジャン=フレデリック・ポワソンが立候補して、計7人の候補者で争われました。9月からの選挙戦は、3回のテレビ公開討論会を含む全国選挙レベルの展開でしたが、序盤中盤は圧倒的にアラン・ジュペ優勢と見られ、それをサルコジが追う形で、この選挙はジュペ/サルコジが2強と思われていました。
この予備選挙は2回の投票。まず11月20日が第一回投票で 7人の候補者から上位2人を選出し、下位5人をエリミネします。そして1週間後の11月27日が決選投票で、勝者が見事保守・中道統一の大統領候補となり、敗者ジュペはエリミネされます(と断言したら、ジュペ派から天誅を喰らうかもしれません)。
11月20日、この雨混じり曇天の日曜日、驚いたことにこの予備選挙に保守系有権者たちは大挙して投票所に向かい、予想をはるかに上回る430万人が票を投じたと言われています。その数日前からメディアは様々なアンケート調査機関の数字を上げて、ジュペ急落、フランソワ・フィヨン猛追と声高に報道していたのですが、「アンケートなんてね、けっ!」という市民感情があるじゃないですか、当地でもトランプ当選の後遺症は大きいのですよ。後遺症だけでなく、不可能が可能になるというモチヴェーションを名も無き投票者たちに与えたのかもしれません。
11月20日、フランス全土の予備選挙投票所は19時に門を閉ざし、20時半すぎには開票速報が出始めると言われていました。
その夜、 私たちはパリ18区ピガール地区にあるトリアノン劇場にいて、フランスの代表的な独立レーベル『サラヴァ』の50周年を祝うコンサートを着席して鑑賞しておりました。年齢層も高く、長年のピエール・バルーのファンたちの集まりという感じで、一階席と2階バルコニー席までほぼ埋まってました。ピエールさんの「サンバ・サラヴァ」で20時に始まったコンサートは、娘マイア・バルー、ダニエル・ミル、アルチュール・H、ジャンヌ・シェラル、アルバン・ド・ラ・シモーム、バスチアン・ラルマン、ドミニク・クラヴィック、クレール・エルジエールなども出演して、派手ではないけれど丁寧なオマージュでピエールさんをもり立てていた、暖かい50周年イヴェントでした。
ところがそういう心温まるコンサートにあっても、不逞の輩たちはいるんですね。演奏の最中にもスマホを開けて、予備選挙の開票速報を追っていた人たち、少なくなかったんじゃないかな。21時近くになって、私たちの座っていた一階席の後方から、小声で「サルコジ、エリミネ!」のささやき。それがどんどん伝わってしまう。あちこちでささやき声「サルコジ、エリミネ!」「サルコジ、エリミネ!」「サルコジ、エリミネ!」「サルコジ、エリミネ!」...。
21時すぎに幕間休憩があり、みんなホールに出て、たくさんの人たちがスマホ開いてカチャカチャやっている。私もすぐさまスマホを開いて開票速報:フィヨン 42%、ジュペ 28%、サルコジ 20%の数字。わお、サルコジ、エリミネ確実ではないですか! ー その後のコンサート第二部はそれとなく会場全体の気分が上々になった感じ。わかりますとも。これで少なくとも2017年5月の大統領選挙・決選投票で「ニコラ・サルコジ vs マリーヌ・ル・ペン」という悪夢の二者択一の可能性は消えたわけですから。
冒頭に訳語挙げておきましたが、エリミネは強烈な言葉です。不要なもの、有毒なものを除去・排除するというだけでなく、マフィアが邪魔者や裏切り者を消すときも使いますし、スターリン時代のソ連KGBが反革命分子を粛清するときも éliminer という動詞を使っていたのです。私がこの言葉をちゃんと記憶したのは1980年代のヴィッテル(ミネラルウォーター)のテレビCM(↓)だったと思います。
スローガンは「Buvez, Eliminez」つまりヴィッテルを飲んで、エリミネしようという意味になると思いますが、この場合は体内の水分の不純な部分をヴィッテルを飲むことによって浄化して、悪いものはオシッコとしてエリミネしましょう、というメッセージです。オシッコとして流される、これもエリミネ。
私なりのコメントはほとんどありません。この予備選挙にも大きな興味を持って傍観していたわけではありません。伝統的保守政党の器はどれも似たようなものという先入観があります。ジュペ、フィヨン、サルコジを分つものは何かと探すのも徒労だと思います。似たものですし、2007年から12年までサルコジは大統領でしたし、フィヨンは首相でした。私はフランスに来てからジスカール・デスタン、ミッテラン、シラク、サルコジ、オランドという各大統領の政治を経験してきました。2007年から12年までどれほど暗く、フランスに不信を抱いていたか、私の個人的記憶ははっきりしています。12年の大統領選挙前、この選挙に敗れたら正解を引退するか、というBFMTV(ジャン=ジャック・ブールダン)という問いに、サルコジは三度「ウィ」と答えました(↓)。
2014年サルコジは復帰し、いとも簡単にUMP党党首となり、自分の思い通りに党名をLRと変え、この(初めての)「保守・中道統一候補予備選挙」を開催すると決めました。次期大統領の座を奪取・奪還するためです。2015年、2016年、その勢いは伸びず、このカムバックは極右の票を奪い返すことでしか成功しないというはっきりとした教権的・排外的政策を打ち出すところが、フィヨン、ジュペとの違いでしたでしょうか。
昨夜、開票されるまで、次週は「ジュベ vs サルコジ決戦」だと思っていたでしょうか。3位になってエリミネされたサルコジは、二度目の政界引退を余儀なくされました。11月20日、22時頃、アイム・ア・ルーザー演説(↓)
(↓)その36秒目からこんなこと言ってます。
Il est donc temps maintenant pour moi
D'aborder une vie avec plus de passions privées
moins de passions publiques
今こそ、私には
公的な情熱(政治)を減らし
より個人的な情熱に満ちた生活に向かうべき時がやってきたのです。
これは引退宣言でしょうけど、passions publiques を減らすけれども無くすとは言っていませんからね。エリミネされても、エリミネされても、数年後に帰ってきますよ。まだ62歳ですから。
1 件のコメント:
UBUPEREです。サルコがエリミネされて万々歳ですが、しぶといですねぇ、サルコは。ユーロディズニーでも買い取って遊んでいればいいのに。
VittelのCMは面白いですね。「ドンドン飲んで、ドンドン出しましょう」ということですね。以前の「水飲み健康法」ブームを思い出しました。
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