2011年3月2日水曜日

ニコル・ルーヴィエ再び

NICOLE LOUVIER "Chante..." 
ニコル・ルーヴィエ 
『ニコル・ルーヴィエは歌う』  2008年にILDから音源復刻されたニコル・ルーヴィエの『Nicole Louvier et ses chansons 1953-1957』と彼女の来歴については,拙ブログ2008年12月25日に詳しく書いておりますのでそちらをご参照ください。  その続編にあたるこのCDは,1959年から65年までの録音が収められています。この間の大きな事件のひとつとして1958年の日本公演があります。その年の10月から12月まで,ニコル・ルーヴィエは東京,大阪,京都,奈良から九州まで巡演しています。読売新聞社,新芸術家協会,労音などが主催者になっているこの日本ツアーは,当時日本でそれほど知られているわけではないルーヴィエにとっては,自分のレパートリーだけでショーを組むことはまず不可能でした。そこでいわゆるシャンソンの「スタンダード」(「枯葉」「ミラボー橋」「河は呼んでいる」...),ルーヴィエはその他人作のシャンソン名曲集を録音します。そのうちの8曲がこのCDに収められています。  ジョルジュ・ブラッサンス作の「エレーヌの木靴(Le sabot d'Hélène)」(7曲め),「俗人たち(Philistins)」(詩ジャン・リシュパン,曲ブラッサンス)(13曲め),シャルル・トレネ作の「くるみの実(Une noix)」(9曲め),レオ・フェレ作「限りなき愛 (Notre amour)」(14曲め),19世紀詩人ギャロップ・ドンケール作のシャンソン「鳥を怖がらすのは (Ca fait peur aux oiseaux)」(12曲め)。  そして映画音楽の2曲,ジャン・ルノワール監督の『恋多き女(Elena et les hommes)』(1956年。イングリッド・バーグマン,ジャン・マレー主演)の主題歌としてジュリエット・グレコが歌った「ミアルカ」(8曲め),マルセル・カルネ監督の『悪魔が夜来る(Les visiteurs du soir)』(1942年。アルレッティー,マリー・デア,アラン・キュニー主演)の挿入歌でその脚本を書いたジャック・プレヴェールの作詞による「悪魔と奇蹟」(Demons et Merveilles)」(10曲め)。  また『北ホテル』(マルセル・カルネ)、『巴里祭』(ルネ・クレール)などの映画音楽の作曲家として知られるモーリス・ジョベール(1900-1940)が、ジャン・ジロドゥーの劇作品『テッサ』(1934年)のために作った声楽曲「テッサの歌」(11曲め)は、50年代にミッシェル・アルノーやジャック・ドゥエ等に歌われ、シャンソンとしてスタンダード化しましたが、この悲しい歌は2003年にヴァレリー・ラグランジュとバンジャマン・ビオレーのデュエットによってもカヴァーされています。  これらの録音に関しては,自作自演とは違った,歌唱家としてのニコル・ルーヴィエという面が問われるわけですが,後年のフランソワーズ・アルディのように,誰の作品を歌ってもメランコリックでアンニュイなアルディ節になってしまう,という事情とニコル・ルーヴィエは違うと思います。というのはいわゆる「シャンソン」が大衆アートの高尚な部分を担っていた(例えばプレヴェール,ヴィアン,コクトー,サルトル等がシャンソン詩を書いていた時代ですから)頃のシャンソンが持っていた折目正しさと,そのシャンソンが抱えたパワーやヴァリューをルーヴィエはその声を通して伝えるという大変な役目を負ったからなんですね。ルーヴィエ独特の女性トルバドゥール的な持ち味が,これらの歌でやや隠れはするものの...。  その他に日本のファンへのサービスで「ミアルカ」と「河は呼んでいる(L'eau vive)」(同名映画音楽,ギ・ベアール作)が58年来日時に日本語で録音され,来日記念盤になりましたが,そのうちの「ミアルカ」だけがこのCDに収録されています(17曲め)。この「ミアルカ」も全編が日本語というわけではなく,歌詞一番のみで,あとはフランス語です。そして「河は呼んでいる」(日本語)がこのCDに入らなかったのは,作者ギ・ベアールの許諾が得られなかったため,とILDのイーヴ=アンリ・ファジェが私に説明しました。とても残念です。  2008年のCDに収められていた2曲が1959年の再録音ヴァージョンで収録されていて,ニコルの15歳の時の作品とされる「知らせの途絶えた私のいい人(Mon p'tit copain perdu)」(5曲め)と,「ムッシュー・ヴィクトール・ユゴー」(6曲め)で,共にジャック・ルーシェ(かつてジャズピアノトリオでバッハを演奏する "Play Bach"シリーズで人気のあったピアニスト)の楽団によるバッキング。    私はどちらかと言うと他人の曲や再録音よりも,自作曲のオリジナル録音に興味があるのですが,その意味ではこのCDで初めて聞くオリジナル曲は(1)(2)(3)(4)(15)(16)(18)(19)(20)(21)の10曲のみになります。
何ごとも偶然によるものはない  出会いも出発も  たとえ何が起こってもあなたが舵取りだってことを忘れないで  何ごとも偶然によるものはない    春はいつも決まった時に来るけれど  窓を開くのはあなた  あなたが春に扉を開いてあげて  あなた自身が与えられた幸運をつかむのよ              (Rien n'arrive par hasard)(2曲め)
CD18曲めから21曲めまでの4曲が,1965年発表の4曲入りEPで,シャンソン歌手マルセル・ムールージ(1922-1994)が設立した独立レコード会社ディスク・ムールージへの録音で,オフィシャルにはこれがニコル・ルーヴィエ最後のレコードになります。この4曲はジャック・ブレルの編曲者として知られるフランソワ・ローベ(1933-2003)の楽団の伴奏です。この4曲に関しては,もうちょっと聞き込んで,日本配給の際のライナーに詳しく書いてみようと思っています。  というわけで,最後の録音まで入ってしまったので,もうこの先ニコル・ルーヴィエのCD復刻はないのか,と思われましょうが,このCDには1960年から64年の録音が抜けているのです。その頃の録音は1964年に30センチLPアルバム"CHANSONS CLES"(Decca)という編集盤にまとめて14曲入っています。その中に伝説の「奈良に吹く風 (le vent de Nara)」も入っていて,次のCD復刻はこの14曲が中心となってまとめられるであろうと確信しています。(パブリックドメインに落ちるまであと4年待つ必要がありますが)。  なお,このCDにはボーナスが4トラック入っていて,当時の「女歌」の大御所リュシエンヌ・ドリールによるルーヴィエ曲2曲のカヴァー,ルーヴィエを一躍有名にした1953年のドーヴィルのシャンソン・コンクールの優勝曲「誰が私を解き放ってくれるの? Qui me délivrera ?」を同コンクールで歌ったノエル・ノルマンのヴァージョン,そしてギュス・ヴィズール,ジョー・プリヴァと並んでスウィング・アコーディオン界の名手中の名手,トニー・ミュレナのヴァージョン。こうやって聞くとメロディーの美しさが際立ちます。 <<< トラックリスト >>> 1. Hélène (1959) 2. Rien n'arrive par hasard (1959) 3. L'Important (1960) 4. Quelque part ailleurs (1960) 5. Mon p'tit copain perdu (1959) 6. Monsieur Victor Hugo (1959) 7. Les Sabots d'Hélène (1959) 8. Miarka (1959) 9. Une Noix (1959) 10. Démons et merveilles (1959) 11. La chanson de Tessa (1959) 12. Ca fait peur aux oiseaux (1959) 13. Philistins (1959) 14. Notre amour (1959) 15. Sur la route immense (1959) 16. Elle est la... (1959) 17. Miarka (日本語)(1958?) 18. Bonjour mes trente ans (1965) 19. Le village que tu sais (1965) 20. Enfants des temps futurs (1965) 21. Il parait qu'hier (1965) (Bonus tracks) 22. Qui me délivrera ? (par LUCIENNE DELYLE) (1954) 23. Mon p'tit copain perdu (par LUCIENNE DELYLE) (1954) 24. Qui me délivrera ? (par Noëlle Norman) (1953) 25. Qui me délivrera ? (par Tony Murena et son ensemble) (1953) NICOLE LOUVIER "CHANTE ..." CD ILD 642310 フランスでのリリース:2011年3月14日 (↓ニコル・ルーヴィエ作詞作曲の新年を迎える歌 "ELLE EST LA...")  

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