2011年3月29日火曜日

埴生の宿も わが宿



DICTAFONE "HOME"
ディクタフォン『ホーム』


 ダンカン・ロバーツはいつも突然やってくるのです。住んでいるところが私の事務所の近くなので,前もって電話するでもなく,気が向いた時にふらっとやってくるのです。もう7-8年のつきあいでしょうか。ダンカンはスタジオ・エンジニアの仕事をしながら,自分のレーベルSPOZZLE RECORDSを運営して,これまで4つのバンドをプロデュースしていて,そのバンドのひとつがダンカン自身がリーダーであるディクタフォンなのです。
 今自分のブログを検索したら,以前にもダンカンについて2008年2月26日に紹介してました。そこで映画『007 慰めの報酬』(2008年)のボンドガール,オルガ・キュリレンコのアルバムをプロデュースして,ダンカンは大きく業界にクローズアップされることになるはず,という話を書いてましたが,そんなものどこに消えたやら...。
 2006年のディクタフォンのアルバム『チョコレート・キング』は,今でも時々聞く私の数少ない「英語」愛聴盤のひとつです。このアルバムは英国カドバリー・チョコレートで働いていたというダンカンの親父さんに捧げられたものですが,チョコレートの王になるために試食で歯をダメにして総入れ歯になった男のストーリーです。その頃ティム・バートン映画『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)も話題でした。実は私は2004年に上歯も下歯も入歯人間になったのですが,ダンカンはそれも知っていて,若くして入歯になった私にもこのアルバムを捧げてくれたのでした。(アルバムの裏ジャケのウィスキーグラスに入った入歯は私からインスピレーションを受けたそうです)。
 そういうアルバムなので,なんとかしてちゃんとした形で日本に紹介できないものか,といろいろ手を尽くしたのですが,果たせませんでした。

 ダンカンがディクタフォンの新しいアルバム『ホーム』のデモ盤を持ってきてくれたのは2009年の春だったと思います。もうCDで出す金銭的余裕なんかないから,ダウンロード配信だけで,と言っていたのですが,2年間よく辛抱してちゃんとCDアルバムとして製品化しました。
 これらの曲を作っていた頃のダンカンは,オーストラリア人の奥さんとの間に男児をもうけたという事件があり,アルバムタイトル通り「ホーム」ができていった時期でした。"A LITTLE LESS ALONE THAN BEFORE"(1曲め)(以前よりもちょっとだけ孤独じゃなくなった)というのも,そういう文脈で読めます。
 デビューアルバムから一貫してXTC,クラウディッド・ハウス,ディヴァイン・コメディー系のソングライティングを得意としてきたダンカンが,パパになってどう変わったか,というのがこのアルバムの聞きどころですが,熟したという感じが私の第一印象です。その代わりモーツァルト的に次から次に憎いメロディーが連鎖する,という前作までのダンカンの得意技が影をひそめてますが。アルバムはパリで録音され,ミックスはロサンゼルスでケン・スコットによってなされています。このケン・スコットの輝かしい経歴はリンクしたウィキペディアで見ていただきたいですが,ビートルズ『ホワイトアルバム』のサウンドエンジニア,ボウィー『ジギー・スターダスト』のコ・プロデューサーだった人です。道理で熟しちゃったわけですね。
 ダンカンのひとりバンドっぽかったディクタフォンが,今回はちゃんと4人バンドの音がしていて,これも「ホーム」効果かな,と思わせます。最後にこれまでのディクタフォンにはなかった,もろスティーリー・ダン寄りの「ナイトバス」(11曲め)がゆるめレイドバックな6分47秒で,そろそろ脱ディヴァイン・コメディーの時期かな,などと次作を期待させるエンディングです。
 (内容に関しては後日もう少し書き足します。)

<<< トラックリスト >>>
1. A LITTLE LESS ALONE THAN BEFORE
2. IAM 5AM
3. HOME
4. SPACE
5. I'M HAPPY YOU'RE HAPPY
6. CHINESE BLUE
7. I FANCY YOU LIKE ME
8. THE SCIENTIST
9. LAUGHING JACK
10. CARDBOARD DOG
11. NIGHTBUS

DICTAFONE "HOME"
SPOZZLE CD SP10
フランスでのリリース : 2011年5月9日


試聴はMYSPACE/DICTAFONEで。
 

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