2008年12月17日水曜日
Ma plus belle histoire d'amour...
BARBARA "UNE PASSION MAGNIFIQUE"
フランスの独立レーベルNocturne(ノクチュルヌ)から2008年10月にリリースされた大変豪華なロングボックス(CD2枚+64頁ブック)です。テレラマ誌(ヴァレリー・ルウー)がffffで絶賛しただけでなく,同誌年末恒例の「理想のギフト選」にも入ってました。シャンソン愛好者ならギフトとしてもらったら感涙ものでしょうね。
バルバラ(1930-1998)の世界的ファン組織「バルバラ・ペルランパンパン協会」の会長であるディディエ・ミヨーが監修&執筆した64頁の布張りハードカバー写真集&バイオグラフィーにまず圧倒されます。5歳のバルバラ(幼稚園の仮装会。赤ずきんちゃんのよう),20歳のベルギー(ブリュッセル)での下積み時代の写真やポスター,出演した劇や映画のポスター,外国盤のジャケット,ラジオ局の中で毛糸編みをするバルバラ,1988年の日本公演写真など,興味深い写真や図版が多数。これはフランス語がわからなくても十分堪能できるでしょう。
CDの方は2枚ありますが,2枚目はラジオインタヴューが2編(1970年と1993年)で,これはフランス語のわからない人にはきついでしょうね。かなりの早口で,フランソワーズ・サガンみたいにつっかかるので,聞き取りはかなり疲れます。というわけで,日本の人たちには1枚目のCDに興味が集中するわけですが,これは1971年1月,スイス,ローザンヌでのコンサートの未発表ライヴ録音で,20曲(+MCが3トラック)入りです。
71年と言いますと,劇「マダム」の失敗,シングル「黒いワシ」の大ヒットの直後になります。ここからバルバラのポピュラリティーは一般化していくわけですが,このスイスでのコンサートでは,フィナーレ3曲が「黒いワシ」,「ナント」,「生きる苦しみ Le mal de vivre」となっていて,「黒いワシ」がすでに多くのファンにとって「この曲を聞くまでは」の1曲になっていたのがわかります。
バッキングはオーケストラではありません。バルバラのピアノとロラン・ロマネリのアコーディオン(非電気アコと電気アコ)だけです。アコーディオンに電気増幅装置を取り付けた最初の人がフランシス・レイである,という伝説があります。「男と女」「パリのめぐりあい」「白い恋人たち」,ずいぶん後年になってあの音がアコであると聞いて驚いたものですが,原理は電子オルガンと一緒なんですから驚くには当たらないのかしらん。このライヴでもロマネリの電気アコは,電子オルガンのペダルキーみたいな低音まで出たりするから,ほとんど「ヤマハ・エレクトーン」状態です。私はつい数年前まで「エレクトーン・アレルギー」みたいなのがありまして,あの安上がり結婚式みたいな音色に虫酸が走ったものです。セヴンティーズの音ですよね。なぜこのアレルギーから脱することができたかと言うと,多分90年代の一時期アコーディオンばかり聞いていたからなんだと思います。(つじつま合ってるかな,これ?)
この時バルバラ40歳。私たちが多分一番レコードで慣れ親しんでいる声の頃だと思いますが,既に 「孤独(La Solitude)」の最も高い音は声が出ていなくて...。しかしそれにしても,死や孤独や生きる苦しみ系の歌ばかりなのに,なんという闊達無碍なパフォーマンスでしょうか。すべてではありませんが,のびのびと自作レパートリーを歌い上げている感じがすごいと思います。「いつ帰ってくるの?(Dis quand reviendras-tu?)」は,このライヴの歌が私にはベストのように思いました。逆にオーケストレーション抜きの「黒いワシ」はちょっと盛り上がらなくて...。
CD2の1993年のインタヴューで「わが麗しき恋物語 Ma plus belle histoire d'amour」は,誰かれという特定人物のことではない,とすごい勢いで語っています。私の"public"のために書いたのだ,と。いいなあ!
Je donnerais au public jusqu'à la dernière goutte de mon sang
とこのハードカバー本の表紙の裏に書いてあります。「私の血の最後の一滴まで,私は"public"に捧げるだろう」。この "public"という言葉をどう訳すか難しい場合があります。聴衆,観衆,お客さま,ファン...どれも違うような気がします。"public"は文字通り「すべての人々」(公衆,大衆)であるようなところもあります。この人はその歌を聞くすべての人たちのために,最後の血まで捧げた人なんでしょう。
<<< トラックリスト >>>
CD 1
1. Je t’aime
2. Parce que
3. Absynthe
4. Mon enfance
5. A mourir pour mourir
6. Au bois de Saint Amant
7. Une petite cantate
8. La solitude
9. (Intervention Barbara)
10. Joyeux Noel
11. Si la photo est bonne
12. Quand ceux qui vont
13. Dis, quand reviendras-tu?
14. (Intervention Barbara)
15. Drouot
16. Chaque fois
17. Le Soleil Noir
18. (Intervenstion Barbara)
19. Hop la
20. L’Aigle noir
21. Nantes
22. Le Mal de vivre
CD 2
1. 1970年8月放送の国営ラジオ「フランス・キュルチュール」での
エミール・ノエルによるインタヴュー。22分。
2. 1993年10月放送の国営ラジオ「フランス・キュルチュール」での
フランソワ・ドレトラのインタヴュー。22分。
LONGBOX 2CD (+64 pages Book) NOCTURNE ARCH576
フランスでのリリース:2008年10月20日
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3 件のコメント:
ごぶさたしております。
さて、電子アコはまんまエレクトーンですが、内部にマイクを仕込んだ電気アコもあります。90年代からはmidi出力になり、今ローランドやキャヴァが作っているのはシンセアコです。ピエルマリアに仕込まれているのもイタリアのメーカーのシンセアコ。シンセアコは音源内蔵で蛇腹にエクスプレッションのコントローラーがあります。
こんな蘊蓄はどうでもいいのですが、ビートルズのアンソロジーを聞き返していたらミスターカイトのベイシックトラックのキーボードがアコーディオンだったと気付きました。ジョンレノンがホーナーのゴラ(今は定価だと500万円くらいの楽器)を弾いている写真がアコーディオン界では有名で何の曲で使ったのだろうとずっと思ってたんですが、デモテープの様なアンプラグド・ヴァージョンだと電子加工されていないので明確にわかったのです。
あと、ジェスロタルとかで意外にアコーディオンを聞いているものなのです。
かっち。君,コメントありがとうございます。詳しい情報,たいへん参考になりました。これからもアコのことはよろしくお願いします。
コメントで触れたジョンレノンの写真は「愛こそはすべて」のテレビ放送のリハーサルだとわかりました。ミスターカイトはジョージマーティンのハーモニウムだそうです。お詫びして訂正します。
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