2025年10月13日月曜日

ぼくの顔を食べると元気になるよ

Paolo Vallesi "La Forza Della Vita"
パオロ・ヴェレージ「ラ・フォルツァ・デッラ・ヴィータ(生命の力)」


詞 : ベッペ・ダティ
曲:パオロ・ヴァレージ
1992年サンレモ音楽祭3位


ール・ガスニエ作『衝突 La Collision』(2025年)の中で、公道曲乗りオートバイ(ロデオ・ユルバン)のウィリー走行に追突されて作者の母が50代の若さで死ぬのだが、収容された病院でもう助かる可能性がないと判断されるや、未来の遺族に臓器提供の許諾を求めてくるくだりがある。50代だからまだフル稼働の臓器がたくさんあっただろうから、それで”命”や”機能”が救われた人たちもあっただろう。私は2017年のガン再発以来、浅い時も深い時もあるが、死を考えることがままある。私の臓器はまだ使いものになるものがあるのだろうか。私の何かが、他の人の”命”や”身体機能”の助けになる可能性があるだろうか。若い時は献血も何度かしたことがある。2015年の初手術以来、大きな手術は3度しているが、その度に大量の血をいただいているので、私にはフランス人の血が多く混じっている(笑)はずだ。私が今生きているのは、この血だけでなく、10年もの間さまざまな治療で注入された薬や照射された放射線のおかげなのだけど、自分の体がどんどん変わっていって、”自力”で生きていない感覚は日々増大している。自分の体がどんなものにも頼らずに自力で生きてたこともあった。なつかしい。そんなことを言うと、いやいやあなたは自力で生きてますよ、あなたを守っているのは、あなた自身の免疫の力なのですよ、と言ってくれた人がいた(故・土屋早苗のことです)。私自身の命の力がまだあるからなのですよね。ラ・フォルツァ・デッラ・ヴィータ。

 1992年、私はまだ再婚していないひとり身で、まだ30代で、フランスの独立系レコード会社メディア・セット(在ナンテール)の社員だった。かなりヘヴィーなスモーカーだったし、アルコールはもっとひどかった。仕事場に冷蔵庫を持ち込んで私設バー("Toshi's Bar"の始まり)を開設して、周囲に何もないナンテールでも深夜までToshi's Barで同僚たちと飲んで”フランスの大衆音楽の現在と未来”を口角泡飛ばして論じていた。ほぼ毎晩泥酔状態でナンテールからブーローニュまで車で帰ったものだ。あの時クルマはFIAT Unoだった。イタリア好き。ミラノにも取引先があって、個人的に好きなカンタウトーレの新譜なんかを送ってもらっていたし、日本の取引先に依頼されてミラノに新譜買い付けに行くこともあった。だから社内的にも「イタリアにも詳しい」変なヤツと思われていた。
 パオロ・ヴァレージ、1964年フィレンツェ生れ、自作自演歌手(カンタウトーレ)、1991年サンレモ音楽祭新人セクションで優勝した「Le persone inutili (無用の人)」でブレイク。まあ、あえて言えば、リカルド・コッチャンテ/エロズ・ラマッツォッティ系の熱唱カンツォーネ・ロマンティカの人。私が当時好んでいたイタロポップロック系とは違うんだけど。1992年サンレモ音楽祭メジャーセクションで3位になり、イタリアのチャートNo.1、パオロ・ヴァレージの最大のヒット曲となったのがこの「La Forza Della Vita(生命の力)」。まあ一発屋と思っても差し支えないと思う。そのサンレモ本選ステージでの熱唱がこれ(↓)



では歌詞を紹介しましょう。

Anche quando ci buttiamo via
慰めようのない恋のために
per rabbia o per vigliaccheria
怒りややるせなさで
per un amore inconsolabile
自暴自棄になる時も
anche quando in casa il posto è più invivibile
家に住めなくなって
e piangi e non lo sai che cosa vuoi
泣いて、どうしていいのかわからなくなってしまう時も
credi c'è una forza in noi amore mio
愛する人よ、僕たちには力があるんだ
più forte dello scintillio
この狂ってしまって無用になった世界の
di questo mondo pazzo e inutile
偽りの光よりも強くて
è più forte di una morte incomprensibile
不可解な死よりも
e di questa nostalgia che non ci lascia mai.
僕たちを苛み続けるノスタルジーよりももっと強い力が


Quando toccherai il fondo con le dita
きみの手の指が谷底に届いたとたん
a un tratto sentirai la forza della vita
きみは生命の力を感じとるんだ
che ti trascinerà con sé
そしてきみを連れ戻してくれる
amore non lo sai
愛する人よ、わからないかい?
vedrai una via d'uscita c'è.
きみには見えるよ、出口はあるんだって

Anche quando mangi per dolore
辛苦を舐めさせられ
e nel silenzio senti il cuore
静寂の中で聞こえるきみの心臓の音が
come un rumore insopportabile
辛抱できない雑音のように響く
e non vuoi più alzarti
きみはもう起き上がれない
e il mondo è irraggiungibile
世界は近づきがたいものになる
e anche quando la speranza
もはや希望でさえ
oramai non basterà.
何の役にも立たない

C'è una volontà che questa morte sfida
でもこの死に抗う意志が存在するんだ
è la nostra dignità la forza della vita
それが僕たちの尊さ、生命の力なんだ
che non si chiede mai cos'è l'eternità
それは永遠が何かなんて問わないものなんだ
anche se c'è chi la offende
ある種の人々がそれを傷つけようとしたり
o chi le vende l'aldilà.
それを売っ払おうとしたりしようとも

Quando sentirai che afferra le tue dita
きみの指が触れて感じられたら
la riconoscerai la forza della vita
きみはそれが生命の力だとわかるんだ
che ti trascinerà con se
それがきみを連れ戻してくれる
non lasciarti andare mai
きみを決して去らせたりしない
non lasciarmi senza te.
僕をきみから離さないものなんだ

Anche dentro alle prigioni
人々の偽善の
della nostra ipocrisia
監獄の中にあっても
anche in fondo agli ospedali
新しい病気に冒されて
della nuova malattia
病院の奥の奥に隔離されても
c'è una forza che ti guarda
きみを見守ってくれる力があって
e che riconoscerai
きみにはそれがわかるんだ
è la forza più testarda che c'è in noi
それは夢を見、決して降伏しない
che sogna e non si arrende mai.
私たちの内にあって最も頑強な力なんだ


(Coro:) E' la volontà
それは意志なんだ
più fragile e infinita
最も壊れやすいけれど、無限なんだ
la nostra dignità
それが僕たちの尊さ
la forza della vita.
生命の力なんだ

Amore mio è la forza della vita
愛する人よ、それが生命の力なんだ
che non si chiede mai
永遠が何かなんて
cos'è l'eternità
絶対に問わないものなんだ
ma che lotta tutti i giorni insieme a noi
でもそれはいつも僕たちのそばにいて戦っている
finché non finirà
終わりの日が来るまで

(Coro:) Quando sentirai
きみが指先を握りしめられてる
che afferra le tue dita
と感じたら
la riconoscerai
きみにはわかるはず
la forza della vita.
それが生命の力なんだって

La forza è dentro di noi
力は僕たちの内にある
amore mio prima o poi la sentirai
愛する人よ、きみも遅かれ早かれわかるはず
la forza della vita
生命の力が
che ti trascinerà con sé
それがきみを引っ張っていくんだよ
che sussurra intenerita:
そしてきみにやさしくこう囁くんだ
"guarda ancora quanta vita c'è!"
「ごらん、命はまだ確かにここにあるんだよ」


グアルダ・アンコーラ・クワンタ・ヴィータ・チェ! ー ごらん、命はまだ確かにここにあるんだよ。ー なんか、私、言われちゃってるような気がする。すなおに受け止めよう。次の点滴治療の時にイヤホンでループして聴いてみたら...。
(↓)これがオフィシャルヴィデオクリップ(1992年)



(↓)それから30年後2022年12月、「ゴーカート・ツイスト」(1962年)のジャンニ・モランディ(↓この時77歳)とのデュエット。これ、本当に生命の力の重さを感じてしまいますよ。