2020年12月8日火曜日

スターになれりゃいいね あれはいいね

Star Feminine Band
スター・フェミニン・バンド

ジャン=バチスト・ギヨー主宰のレーベル、ボーン・バッド・レコーズからの新譜。西アフリカのベナンの北西部の町ナティティングーで結成された(現在)10歳から17歳の7人の少女からなるロックバンド、その名もスター・フェミニン・バンドのデビューアルバムである。メンバーを紹介します:アンヌ (ギター)、ジュリエンヌ (ベース)、グレイス (ヴォーカル/キーボード)、ユリス (パーカッション/ドラムス/ヴォーカル)、アンジェリック(ドラムス/ヴォーカル)、サンドリーヌ(キーボード)、マルグリット(ドラムス)。打楽器が強調されたラインナップであることが了解されよう。このバンドが今日のテクとパワーと表現力をものにするまで2年の歳月を要している。
 さて早くも核心めいたことを書いてしまうと、このバンドは少女たちがつくったものではなく、大人がつくったものである。フランスのメディア評で大半は好意的に評価しているものの、一部がこれをそんなにナイーヴなものではない、と眉をひそめているのはここなのだ。ベナンという西アフリカでも目立たない小国の、しかもコトヌーやポルトノヴォのような大都市ではない奥まった北部の小さな町から、突然に"目覚めた”少女たちがフェミニスティックな歌詞でゴキゲンにダンサブルなビート音楽を奏で、急激に人気を集めている。美しすぎる話ではないか。これを現地で人道活動をしているヨーロッパ人NPOが欧州メディアに伝え、欧州から撮影と録音のスタッフが飛び、レコードレーベル(ボーン・バッド・レコーズ)が契約し、欧州でのツアーが組まれる...。これは大人たちが少女たちを使ったビジネスではないか。少女たちが作詞作曲したわけではない「 アフリカ女たちよ、自立せよ、学校へ行き、国の中心になろう」みたいな超ポジティヴな歌詞の歌は、少女たち自身のメッセージではなく、お題目を歌わされているだけではないか。ビジネスとして成功するための用意周到なプロジェクトではないか... などなど。ではまず2分間のドキュメンタリー・クリップ(↓)を見ていただきましょう。

冒頭にバンドの少女が「音楽のおかげで、将来私はビッグスターになり、世界中からリスペクトされることができるだろう。私が行くいたるところで人々は私のことを覚えてくれるだろう」と言っている。これってこの子たちが自分たちの自己を実現していくこと、自分の運命を自分の手で築き上げていくことの可能性を音楽が与えてくれたということでしょう。
 アルバムに添付された解説を執筆したのはフロラン・マッゾレニ(Florent Mazzoleni)というジャーナリスト(兼フォトグラファー)はレ・ザンロキュプティーブル誌やラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)、フランス・キュルチュール、FIPなどと仕事してきた人で、アフリカ音楽、レゲエ、アメリカ黒人音楽(ソウル/ファンク)などに関する著作も多く発表している信頼のおけるベテラン。その豊富な現地体験から言わせているのだろう、このアフリカの女性たち(少女たち)、とりわけ大都市から遠く離れた地域で彼女たちの未来というのは閉ざされているという現実が強調される。陰核切除、強制結婚、一夫多妻制、若年妊娠....。この子たちの将来は、赤子を背負って街道に渋滞する車に袋入りのピーナツを売り歩く、という何十年経っても変わらぬクリッシェの姿である。このルーチンを打ち破るためには、学校に行くこと、知識や技術を身につけること、人権と女性の権利に自覚的であること、世界と交信して情報を得ることである。このアルバムの中でフランス語で歌われている「アフリカ女(Femme Africaine)」はこんな歌詞である:
おお 女、アフリカ女
おお 女、ベナンの女
黒人女よ、立ち上がれ、眠っていてはいけない
おお 黒人女、立ち上がれ、眠ってはいけない
おまえは共和国大統領になれるんだ
おまえは一国の首相にもなれるんだ
立ち上がれ、何か行動を起こさなければ
アフリカ女よ、自立せよ
国は私たちを必要としている、学校に行こう
アフリカはおまえを必要としている、勉強しなさい
世界は私たちを必要としている、立ち上がって身を守ろう
アフリカ女よ、自立せよ

上にも書いたが、これは少女たちがつくった歌ではない。だがこの少女たちはこの歌に自覚的だと思う。彼女たちはその目を開くための”コーチ”に出会ったのだ。その男の名はアンドレ・バラグモン。ベナンの中央部、ダッサ(日本のタレント、ゾマホン・ルフィンの出身地だそう)から出たミュージシャン(トランペット/ギター)で、1990年代からプロとして活動していたが、首都コトヌーを離れ近年は北西部ナティティングーに定住している。2016年7月、ナティティングー町の援助のもとに、バラグモンは地元FMの電波を通じて、(少女だけの)音楽バンドを結成するためのメンバー候補者を募集する。数日後数十人の少女たちが町の青少年センターに集まってきた。「少女たちは音楽のことなど全く知らなかった。選ばれた7人はワーナ族とナボ族出身で周辺の村からやってきた少女たちで、この種の楽器を一度も見たことがなかった者もいた」(ライナーノーツ)。ここから少女たちの特訓が始まり、ギター、キーボード、ベース、ヴォーカルハーモニー、そして3人が奏者となるトリプルドラムスはバンドの要となった。少女/女性のパワーと将来性に賭けたアンドレ・バラグモンがその手本/目標/リファレンスとして挙げたのは、ベナンが世界に誇る女性歌手アンジェリック・キジョー(←日本語版ウィキに "米ガーディアン紙「世界で最も影響力ある女性100人」のひとり”とあるが、ガーディアンは英国紙)、そしてアンジェリック・キジョーが手本/目標としたミリアム・マケバも。”コーチ”バラグモンは音楽だけでなく、偉大なアフリカ女性アーチストたちのアンガージュマン思想までも少女たちに伝授していく。バラグモンはナティティングー地方博物館の別館をバンドの練習場としてあてがってもらい、少女たちは学校に行きながら、週に3度午後4時から7時まで(学校が休みの時期は月から金まで毎日午前9時から午後5時まで)この練習スタジオでコーチの指導を受ける。そしてコーチは少女たちの親や家族にこのプロジェクトの重要さを説得し、学校に行きながら音楽的に成長することが同じジェネレーションへの女性自立のモデルとなり、強制結婚でない未来を自ら拓けることの希望になりうるのだ、と。やがてレパートリーは増えていき、バンドは町や近隣の地方でコンサートを開けるようになり、どのコンサート会場も満員の盛況となっていく。地方全体が少女たちの魅力に魅せられ、支援している。
 2018年末、若きフランス人エンジニア、ジェレミー・ヴェルディエが人道NPO活動の一環でこの地方を訪れ、このバンドを"発見"してしまう。2019年2月、ヴェルディエは友人である二人のスペイン人録音エンジニアに録音機材を運んできてもらい、博物館別館の練習場でバンドの演奏を初めて録音する。その録音テープが回り回ってボーン・バッド・レコーズのジャン=バチスト・ギヨーの耳に届く。一発でこの少女たちのサウンドの虜になったギヨーは、2019年1年かけてこのバンドをフランスとヨーロッパに紹介する計画を立て、ナティティングーに乗り込み、ドキュメンタリーフイルムを撮り、アルバム制作に着手する....。

 2020年、長期に及び終わることを知らない新型コロナウィルス禍はすべてを狂わせた。デビューアルバムの発売は遅れ、プロモーションでのフランス上陸もレンヌのトランスミュージカルフェス出演も中止になった。しかしアルバムはようやく11月13日にフランス発売となり、今私の手元にあり、フランス国営ラジオFIPとフランス・アンテールもプレイリストに載せてよくオンエアしている。

 このバンドの音楽は地方のトラディショナル・ダンス(waama)にインスパイアされたガレージ・ロックであり、オリジナル曲はベナン北部の地方語であるwaama語とditamari語、bariba語、ベナン全国で使われる言語であるfon語、そしてフランス語で歌われ、できるだけ多くの人たちにメッセージが伝わるよう配慮されている。
アルバム最初の曲「ペバ(Peba)」は waama語で「少女たちが学校に行くのは自分自身になるため」と歌われている(↓)

続く2曲め「レウ・ベ・メ (Rew Be Me)」はpeule語で歌われる女性讃歌で、女性の職業的成功と女性としての成功を応援する内容である(↓)。


 この辺で曲紹介はおしまいにするが、このような演奏が8曲つまったトータルランタイム31分のアルバムである。ベストな環境での録音ではないし、加工もほとんどされていない原石のままのような音であるが、この少女たちのノセノセには抗しがたいものがある。2020年(コ禍で)ほぼ1年閉じ込められて、椅子からなかなか立ち上がれなくなった年寄り(の私)を立たしめるフレッシュさに溢れている。
 さて、冒頭の問題にもどろう。これは少女たちが自ら始めたものではない、大人がつくったものである。そのことはこの少女たちの躍動する「女性力」「女性性」の表現をなんら矮小化するものではない。上のティーザーヴィデオ(ドキュメンタリー)の冒頭で少女が言うように、音楽のおかげでスターになって世界中から認められる自分になること、それは正しいことである。これまで世界で起こっていたことと違うことが自分にできる可能性である。がんばってちょうだい。世界中を旅して、世界中の女性たちを目覚めさせ、踊らせてやったらいいんです。私は味方です。

<<< トラックリスト >>>
1. PEBA
2. REW BE ME
3. FEMME AFRICAINE
4, MONTEALLA
5. LA MUSIQUE
6. IDESOUSE
7. ISEO
8. TIM TITU

STAR FEMININE BAND "STAR FEMININE BAND"
LP/CD Born Bad Records BB128
フランスでのリリース:2020年11月13日

カストール爺の採点:★★★★☆

フランスのニュースTV、英語版FRANCE 24で
の紹介)

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