Francis Cabrel "A l'aube revenant"
フランシス・カブレル『蘇った夜明けに』
2020年10月16日のリリース以来、これを書いている現在(11月中旬)までアルバム売上チャート1位を独走しているフランシス・カブレルの14枚めのアルバムである。この人の場合、1989年の7枚目のアルバム『サラバカーヌ(吹き矢)』以来、30年もの間(黙っていても)”出せば1位”の不動の実力と人気がある。5年前(2015年)その"最後のアルバム”と噂された13枚め『いまわの際に(In Extremis)』に関して当時の日本語新聞OVNIの連載記事で紹介した時も、私や他の人たちがどうのこうの言おうが言うまいが、これはフランス大衆が1位にしてしまうアルバムで、フランス大衆は正しい、という投げやりな(ひどい)レヴューだった。
さて、引退しかけていた人が5年後に復帰した新アルバムである。"Revenant"(ルヴナン)は字句通りには「帰ってきた人」と理解されようが、多くの場合、どこから帰ってきたのか、と言うと「あの世」なのである。つまり幽霊なのだ。この世でやり忘れたことがあって戻ってきたのであり、カブレルに即して言えば、最後のアルバムで言い忘れたことがまだあった、という感じの"続・最後のアルバム”的な延長線上の作品と言えよう。歌っているのは幽霊ではない。まだまだ元気なフランシス・カブレルである。
アスタフォール(ヌーヴェル・アキテーヌ地方、ロット・エ・ガロンヌ県)の自宅スタジオに気心の知れた常連ミュージシャンたちを集めてまったりと録音されたオーガニックな13曲。すでに先行シングルでラジオプロモされていた"Te ressembler"(「あなたに似ること」)(2曲め)は、イタリア人移民の工場労働者だった自分の父への敬意を自分が66歳になって初めて歌うという、プライベートな歌。最もショービジネスと遠いところで(コルシカで)地球人の生活をしている大物歌手/俳優、ジャック・デュトロンについて歌った"Chanson pour Jacques"(「ジャックに捧げる歌」)(10曲め)、ボブ・ディランと並んで敬愛し親交もあるジェイムス・テイラーの「スウィート・ベイビー・ジェイムス」(1970年)のカヴァー(ジェームス・テイラーをカヴァーするのは"Millworker/La Fabrique"以来2度目)である"J'écoutais Sweet Baby James"(11曲め)など、話題性のある曲もある。その他にも注目しなければならない曲もあるのだが、私の興味はとりわけオクシタニアのことを歌った曲に絞られる。前アルバム『いまわの際に(In Extremis)』のタイトル曲 "In Extremis"は南西フランス・オクシタニアの言語であるオック語に関する歌で、その人々がどこから来たのかを伝える言語をフランス語が抹殺した、そして今フランス語は数世紀前のオック語と同じ危機にある、と警告する歌だった。新アルバムではブックレット末尾にカブレルがこう記している:
2020年10月16日のリリース以来、これを書いている現在(11月中旬)までアルバム売上チャート1位を独走しているフランシス・カブレルの14枚めのアルバムである。この人の場合、1989年の7枚目のアルバム『サラバカーヌ(吹き矢)』以来、30年もの間(黙っていても)”出せば1位”の不動の実力と人気がある。5年前(2015年)その"最後のアルバム”と噂された13枚め『いまわの際に(In Extremis)』に関して当時の日本語新聞OVNIの連載記事で紹介した時も、私や他の人たちがどうのこうの言おうが言うまいが、これはフランス大衆が1位にしてしまうアルバムで、フランス大衆は正しい、という投げやりな(ひどい)レヴューだった。
さて、引退しかけていた人が5年後に復帰した新アルバムである。"Revenant"(ルヴナン)は字句通りには「帰ってきた人」と理解されようが、多くの場合、どこから帰ってきたのか、と言うと「あの世」なのである。つまり幽霊なのだ。この世でやり忘れたことがあって戻ってきたのであり、カブレルに即して言えば、最後のアルバムで言い忘れたことがまだあった、という感じの"続・最後のアルバム”的な延長線上の作品と言えよう。歌っているのは幽霊ではない。まだまだ元気なフランシス・カブレルである。
アスタフォール(ヌーヴェル・アキテーヌ地方、ロット・エ・ガロンヌ県)の自宅スタジオに気心の知れた常連ミュージシャンたちを集めてまったりと録音されたオーガニックな13曲。すでに先行シングルでラジオプロモされていた"Te ressembler"(「あなたに似ること」)(2曲め)は、イタリア人移民の工場労働者だった自分の父への敬意を自分が66歳になって初めて歌うという、プライベートな歌。最もショービジネスと遠いところで(コルシカで)地球人の生活をしている大物歌手/俳優、ジャック・デュトロンについて歌った"Chanson pour Jacques"(「ジャックに捧げる歌」)(10曲め)、ボブ・ディランと並んで敬愛し親交もあるジェイムス・テイラーの「スウィート・ベイビー・ジェイムス」(1970年)のカヴァー(ジェームス・テイラーをカヴァーするのは"Millworker/La Fabrique"以来2度目)である"J'écoutais Sweet Baby James"(11曲め)など、話題性のある曲もある。その他にも注目しなければならない曲もあるのだが、私の興味はとりわけオクシタニアのことを歌った曲に絞られる。前アルバム『いまわの際に(In Extremis)』のタイトル曲 "In Extremis"は南西フランス・オクシタニアの言語であるオック語に関する歌で、その人々がどこから来たのかを伝える言語をフランス語が抹殺した、そして今フランス語は数世紀前のオック語と同じ危機にある、と警告する歌だった。新アルバムではブックレット末尾にカブレルがこう記している:
このレコードの中の4曲はトルバドゥールたちの作品に直接的にインスパイアされたものである。その詩的作品は深く斬新で、オック語で書かれたものであるが、今日熱意に溢れた学者たち(僭越ながらここに名を記しておこう:ピエール・ベック、ルネ・ネリ、ポール・ファーブル、イスマエル・フェルナンデス・デ・ラ・クエスタ、他多数)によって翻訳されている。その4曲とは”Fort Alamour"(「アラムール砦」5曲め), "Rockstars du moyen age"(「中世のロックスターたち」6曲め)、"A l'aube revenant"(「蘇った夜明けに」9曲め)、"Ode à l'amour courtois"(「アムール・クルトワへのオード」13曲め)である。 カブレルがこのようにオック語文化とトルバドゥール詩に傾倒し、進んでその紹介者/擁護者になってくれたのは、私はとても嬉しい。微力ながら2000年代に日本にこの文化を数十種のCDアルバムで紹介していた私としては、である。カブレルも私も"オック語つかい"ではない。だがカブレルは表現者としてその愛を表現できる。私は非力だけれど、今度のカブレルはすごいぞ、と人に言うことはできる。「恋愛は12世紀南西フランスで生まれた」(シャルル・セイニョボス)と言われる宮廷における最初の「献身の愛 = アムール・クルトワ」へのカブレルの頌歌(オード):
トルバドゥールたちへ、私は夜明けと春を捧げなければならない。
ひとりの友のように、春は自分からやってきた
たくさんの花のように、私の詩の最初の数行をかかえてその詩で私は彼女の目、からだ、豊かな髪を称えていたそして私の書き綴るページを震わせるすべてのものを春は持ってきた
その歩みの一歩一歩で彼女は空間を香らせていく
彼女がどんなふうに移動するかを綴ったのが私の歌だ彼女の外套のドレープに私は身を横たえたい彼女の首飾りで私は首を吊ることもできるだろう朝が飛び立たせる幾千の鳥の中で
疑いと熱に浮かされながら
唇の端で
私は夢の中にしか存在しないその名前を呟こう
それでも彼女は冷たいまま、何も答えない、何も
私は終わりのない夢をでっちあげる、それは灼熱の夜でも毎朝夜明けはやってきて、私の両手は空っぽだこの果てしない空の奥にまだ天国があるならその天国はたぶん彼女の腕の中から始まるだろう
どんな悪い道が彼女に向かって近づこうとも
私は必ずやこのルフランをうまく仕上げ、彼女に呼びかけるだろう人は私の目が流れだし、私の心臓が溶けだす音を聞くだろうそして私が横たわりたいと望んでいたその外套は広げられるだろう
朝が飛び立たせる幾千の鳥の中で
疑いと熱に浮かされながら
唇の端で
私は夢の中にしか存在しないその名前を呟こう
それでも彼女は冷たいまま、何も答えない、何も
そして私は自らの場所にとどまるが、すべての人たちは知っている
私がいたずらに過ぎゆく毎日よりも彼女に会える日の方が
ずっとずっと好きだということを
ひとりの友のように、春は自分からやってきた
春のようにやってきたトルバドゥールのインスピレーションによってできたピュアーな「献身の愛」へのオードである。"Petite Marie(プティット・マリー)"(1977年)や"Je l'aime à mourir(死ぬほどに愛する)"(1979年)のようにデビュー時からピュアーな献身の愛を歌ってきたカブレルは、当時はそう意識していなくても既に直系のトルバドゥールだったのではないか。そのことを2020年にマニフェスト的に「S'endavalèm de vos(オック語)/Nous descendons de vous(フランス語)」(私たちはあなたたちの子孫)と歌っているのが、6曲めの「中世のロックスターたち」である。この歌は共同作詞者としてクロード・シクル(元ファビュルス・トロバドール)の名前がクレジットされている。2000年代に私が力いっぱい応援していたオクシタン・ムーヴメントの最重要人物のひとりである。
いにしえの言語などない同じ苦悩を語り同じ愛を誓う言語はいつも同じものだ
それはあなたたちのページに書かれている私たちよりずっとうまく、私たちよりずっと前に中世のロックスターたち
S'endavalèm de vos (私たちはあなたたちの子孫)
あなたたちは羽根ペンで一気に書きゆっくりとした馬の歩みの優美さで淑女たちのために歌うこの世で最も美しいものを彼女たちの魂、その顔それらはすべてを超越している中世のロックスターたち
S'endavalèm de vos (私たちはあなたたちの子孫)
窓辺に立ち目を閉じて歌う娘はあなたたちの言葉のひとつひとつに自分を投影させようとしているそれは最も重い宝石よりもずっと価値があるもの
中世のロックスターたち
S'endavalèm de vos (私たちはあなたたちの子孫)
タンブリンの皮だけをよろいの代わりにして高い城壁の上にある灯りの消えたバルコニーそこに美女は閉じ込められている嫉妬深い愛人は不在中世のロックスターたち
S'endavalèm de vos (私たちはあなたたちの子孫)
La filha a son fetestronCanta los uèlhs barratsE dins cada cançonEspera se trobarAquò val fòrça maiQu'un polit joalhon
中世のロックスターたち
私たちはあなたたちの子孫ジョーフレ・リュデル、ギヨーム、ベルナール・ド・ヴァンタドゥールペイレ、ベルトラン・ド・ボルンその他幾百のトロバドゥールたち私たちはその遺産を守り続ける
中世のロックスターたち
S'endavalèm de vos (私たちはあなたたちの子孫)
ヴァリエテ/シャンソン・フランセーズのスーパースターであり続けながら、このように"オックの人”になってしまったカブレル、私は両腕を拡げて歓迎しますよ。2020年11月、身体の接触がほぼ禁止になっているこの期間であっても。
<<< トラックリスト >>>
1. Les beaux moments sont trop courts
2. Te ressembler (↓オフィシャルクリップ)
3. Les bougies fondues
3. Les bougies fondues
4. Jusqu'aux pôles
5. Fort Alamour
6. Rockstars du moyen age
7. Peuple des fontaines
8. Parlons-nous
9. A l'aube revenant
10. Chanson pour Jacques
11. J'écoutais Sweet Baby James
12. Difficile à croire
13. Ode à l'amour courtois
FRANCIS CABREL "A L'AUBE REVENANT"
CD/2LP/Digital Sony Music France
CD/2LP/Digital Sony Music France
フランスでのリリース : 2020年10月16日
カストール爺の採点:★★★★☆
(↓)"Te ressembler" オフィシャル・クリップ
カストール爺の採点:★★★★☆
(↓)"Te ressembler" オフィシャル・クリップ
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