2016年12月21日水曜日

音楽にセーズを持ち込む

ダミアン・セーズ『ル・マニフェスト - 自由の鳥』
Damien Saez "LE MANIFESTE - L'Oiseau Liberté"

 1977年8月1日生まれで、今39歳。その39歳の1年間、2016年7月31日から2017年7月31日、この1年間をひとつの作品にしてしまおうとダミアン・セーズは考えた。そのプロジェクトの名は『ル・マニフェスト』。3年の沈黙を破ってセーズは音楽活動(芸術創作活動)に還ってきたのだが、2016年6月16日(数字的に16-06-16がどんな意味があるのか。意図的に選ばれた日らしい)にセーズはこの帰還を宣言し、来る7月31日から次の年の7月31日までを『ル・マニフェスト』の1年と定めた。何をするのか。テクスト、映像、ツイート、音楽ストリーミング、コンサート...。
 12月9日に(フィジカルに)アルバムが発表された。私はそこでアウトラインが掴めたのだが、セーズは2016年1月のシャルリー・エブド襲撃事件、同年11月のバタクラン・テロ事件のことばかり歌っているのだ。「もうこの言葉しか出てこないんだ」と言わんばかりに、同じ フレーズを複数の曲に何度も繰り返しながら、ひとつのテーマ(シャルリー/バタクラン)の変奏曲のような、祖国、自由、戦争、子供たちのことを歌っていく。ふるえる声で。ピアノ、あるいはアコースティック・ギターの伴奏で。こうしか歌えないんだ、というやり方で。そう、こういう剥き出しで無防備なやり方で。

 テレラマ誌2016年12月21日号に、ヴァレリー・ルウーが『抵抗の伝令使(Héraut de la résistance)』という一文を、この帰還したプロテスト・シンガーに捧げている。

やってくる気配はなかった。しかしそれを感づかないわけにはいかなかった。セーズ、この全く手を抜くことを知らない永遠の熱狂者は1枚のレコードを出した。全曲が去年のテロ事件とそれが巻き起こした衝撃について歌われている。これは1枚のレコードと言うよりもひとつのマニフェストである。「自由の鳥」あるいは恐怖と抵抗、それが10曲の歌に隔てられているのだが、それは大きな1曲を形成している。彼はそこでその苦悩を告白しはするが、何よりもそれは恐怖に慄いている国の大木を揺すってみせる。彼の目には、その恐怖が文化を衰退させることに見えるのだ。彼はそこで過去の偉人たちを呼び出してくる。知と独立と言葉の賛美者たちを。ヴォルテールからユゴーまで。ブレルからバルバラまで。蒙昧なごまかし主義に反対して知的友愛を説く。名前を明かすことのない石油利権戦争を告発する。消費至上主義への無自覚を叱責し、脳みそを非活性化するフェースブックやツイッターを非難する。
今日誰もならなくなった政治参加歌手の化身として、セーズは頑固者であり、同じ言葉や同じフレーズを繰り返すことを恐れない。歌詞から歌詞へ、それがよりよくメッセージとして届くように。「あんたたち俺の声が聞こえるかい?本を開けよ、体を動かせよ、愛せよ、抵抗せよ!」このアルバムの最初から終わりまで彼はそう叫んでいるように思える。もちろんテロ事件後の恐怖とそれを跳ね返す勇気について歌ったのはセーズが最初ではない。ルノー、ジョニー、ルイーズ・アタック、そしてルアンヌですらもそれを歌った。とりわけジャンヌ・シェラル。感きわまることを隠すこともせず、(テロに対しては)「永遠に中指を立てるのよ」と敢えて歌った。ブラヴォー。レオ・フェレとフランソワ・ベランジェの伝統ある国で、こういう歌手たちは少なくなかった。しかし正直に言えば、それはもっと多くても良かったのではないか、と思っていた。その欠如感をこのセーズがたった一人で埋めてくれるまでは。セーズはいつも通り誰よりも大きな声でそれをやってくれた。彼のもろに左岸派風な歌い方や、戯画化されやすい恨み節は茶化されてもいいだろう。だが彼の行為は強烈であり、熱情はそこにある。計算や見栄など一切ない。今週、彼はその反抗をステージで歌う。どこで? バタクランで。
 (Valérie Lehoux / p.19 in Télérama no 3493-3494 21/12/2016)

 気がついたら全文訳していた。ダミアン・セーズは今、これを書いている12月21日そして明日・明後日とバタクランの舞台に立って、その思いの丈を歌うだろう(ソールドアウト)。
 アルバムの中で、最も直截的なバタクラン犠牲者鎮魂歌が、「天国の子供たち(Les Enfants Paradis」という歌。長い歌詞だが、全文訳した。

彼らは微笑みだった、彼らはすすり泣きだった
彼らは鳥たちの歌のような笑い声だった
海辺に行くと彼らは朝日だった
彼らは悲しみの心、彼らは光り輝く心
彼らは詩、彼らは鳥
彼らは小川のほとりでささやく「ジュテーム」だった

彼らはカフェだった、彼らはビストロだった
彼らは異邦人で、彼らは何の旗印もなかった
彼らはパリ出身で、彼らは地方出身だった
彼らは僕の心を軋ませる雨の芯だった
彼らは人生の真っただ中で春のまなざしをしていた
空が泣き出しそうになると彼らの心は笑った
彼らは約束ごとであり、彼らは変転だった
彼らは出発を余儀なくされるにはあまりにも若すぎた
彼らはオリエントの子供、彼らはオクシデントの子供
天国の子供たち、バタクランの子供たち

彼らはフランス人の心、あるいは国際人の心
彼らはショールの下で涙のように流れる露だった
彼らは約束された子供たち、まだツボミで
悲しみをこみ上げさせる歌だった
彼らは家族同士、友だち同士だった
彼らは夜空の中で輝くものだった
彼らは暴政に逆らって身を潜める恋人たちだった
彼らはきみにも僕にも似ていた
彼らは戦士ではなかったのに、戦いで死んだ
彼らは愛し合う心、たとえ十字架の下に置かれても
打ち続ける心臓だった
僕の知らなかったこういう友だち、それが彼らだった
彼らは僕の国であり、きみの国でもあると信じる
彼らはパリであり続ける
パリはこれらの友だちを永久に記憶し続け
光は輝く

彼らの名はジュテーム、彼らの名は青春
彼らの名は詩、彼らの名は優しさ
彼らの名は姉妹、彼らの名は兄弟
彼らの名は少女、彼らの名は少年
彼らの名は歓喜、そして非暴力
彼らの名はフランスの子供たち、
あらゆる地平の子供たち、あらゆる名前の子供たち
彼らの名前は愛、彼らの名前は地平線

彼らの名前はジャック・ブレル、そしてバルバラ
彼らの名前は空、彼らの名前はなぜ
ここではいつも深い森に恐怖が潜んでいて
永遠に辿り着くのは罪なき者なのか
彼らは振り上げたコブシだった、彼らは僕らのコンサートだった
彼らは刑執行人を目の前にした、締め付けられた心臓
彼らは銃口を目の前にした、カーネーションの花の芯だった

悲しみに満ちた心で、僕らは友たちのために泣く
銃弾に倒れ、殺された無実の人々のために
機関銃の残虐さに倒れた無名の兵士たちのために
ヴェルダンの野に響く
悲しみの聖歌がただの役立たずの文言なら
この黒い金曜日に倒れた僕の国の兄弟たちが
絶望しか僕たちに残さないのなら
僕の国よ、おまえの文化は殺されて死んだことになろう
だが、知ってるだろ、僕らの文化は決して死ぬことなどない
モリエール、おまえが僕の国、ダ・ヴィンチ、おまえが僕の国
ヴォルテール、おまえが僕の国、ヴァルミー、おまえが僕の国
地球、おまえが僕の国、パリ、おまえが僕の国
地べたから立ち上がれ僕の国
僕の国それは光、僕の国それは命
僕の国は文学で、僕の国は悲しい命だ
僕の国よ、兄弟たちよ、おまえ、僕の国の兄弟よ
自分の母を愛するように、自分の祖国を愛するのだ
(Les Enfants Paradis / 詞曲ダミアン・セーズ)



<<< トラックリスト >>>
CD 1 LE MANIFESTE - L'OISEAU LIBERTE
1. MON PAYS JE T'ECRIS
2. L'HUMANISTE
3. L'OISEAU LIBERTE
4. LES ENFANTS LUNE
5. TOUS LES GAMINS DU MONDE
6. LES ENFANTS PARADIS
7. LE DERNIER DISQUE
CD 2 LE MANIFESTE - PRELUDE ACTE II
1. C'EST LA GUERRE
2. MON TERRORISTE
3. JE SUIS

DAMIEN SAEZ "LE MANIFESTE - L'OISEAU LIBERTE
2CD 16ART 342202
フランスでのリリース:2016年12月9日

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