2013年8月21日水曜日

Have you heard the word ?

The Legend of Steve Kipner & Steve Grooves 1969 / 1973
スティーヴ・キプナー&スティーヴ・グルーヴスの伝説

 マルシアル・マルチネーのMAGIC RECORDSから、数年前に復刻されていたスティーヴ・キプナーとスティーヴ・グルーヴスのデュオ、スティーヴ&スティーヴィー名義のアルバム"STEVE & STEVIE"(1968年)と、ティンティン名義のアルバム"TIN TIN"(1970年)と "ASTRAL TAXI"(1973年)の3枚のアルバムを2CDにまとめて新装再発したものです。
 まあ、それなりにソフト・ロック界では隠れた名盤として評価は高かったようですが、キプナーは日本ではもっぱら1979年のアルバム"Knock The Walls Down"(ジェイ・グレイドンのプロデュースで日本ではAOR傑作となっているようです)によって知られているでしょうし、作曲者としてはオリヴィア・ニュートン=ジョンの「フィジカル」(1981年)を、また松田聖子に「マラケシュ」(1988年。ちょっとひどい歌だな)を提供していて、後年は巨万セールスソングライターとして幸せな人生を送りましたとさ。
 キプナーは1950年オハイオ州 シンシナティ生れ、1歳の時に家族と共に豪州ブリスベンに移住し、教育も文化もすべて豪州仕込みで育ちます。15歳でバンドを組み、父親ナット・キプナーの曲でレコーディングして早くも全豪1位のヒットになっています。最初のバンド、スティーヴ&ザ・ボード(Steve & The Board)解散して、68年にオーストラリア人スティーヴ・グルーヴスと組んで、スティーヴ&スティーヴィー(Steve & Stevie)を結成、イギリスでレコード契約を結んで世界デビュー(ま、豪州外デビューですけど)を果たします。この時に力になってくれたのが、同じ豪州組であったザ・ビージーズ(英国バンドですけど、1958年から66年まで豪州で下積みをしていたんです)のギブ三兄弟だったのです。とりわけモーリス・ギブとは親交があり、スティーヴ&スティーヴィーをロバート・スティグウッド(当時の超大物ジャーマネ&プロデューサー。クリーム、ビージーズ、ヘアー、サタディ・ナイト・フィーバー...。この人も豪州人)に引き合わせたり、スティーヴィー&スティーヴィーの録音に参加したりプロデュースしたり...。
 1968年のスティーヴ&スティーヴィー(↓)"Merry Go Round"

 まんまビージーズみたいなところがありますが。
 1969年、スティッグウッドの工作で、大レコード会社ポリドール・アトコからレコードが出せるようになったスティーヴ二人組は、モーリス・ギブのプロデュースで新たにレコーディングを始めますが、この時ティン・ティン(Tin Tin)とバンド名を改称します。この名前はベルギーが誇る世界的ヒットのカートゥーン『タンタンの冒険』(エルジェ作)からインスパイアされたそうです。1970年、最初のシングルはスカだったんですが、セカンドシングル "Toast and Marmalade for Tea"が全米TOP20のヒットになってしまいます。(↓)これです。

 このふらつく(エフェクトの)ピアノの音がヒットの隠し味でしょうが、これはスティーヴ・グルーヴスの曲で、モーリス・ギブもベースで参加してます。モーリス・ギブはその当時、英国のトップ女性シンガー、ルルと結婚したばかりで、ルルの弟でミュージシャンのビリー・ローリーも、義理の兄と共にこのスティーヴ&スティーヴィー〜ティン・ティンの録音セッションに大きく関係しています。こうして二人のスティーヴはそこそこのヒットも出たし、ファーストアルバムも好調だし、二人組からミュージシャンを追加してちゃんとしたバンド Tin Tin としてコンサートもしようか、なんて欲も出てきます。そんな感じでティン・ティンはある種余裕ある態度で、セカンドアルバム用のセッションをしておりました。
 そんな1969年のある日(正確には8月6日)、スティーヴ・キプナー、スティーヴ・グルーヴス、モーリス・ギブ、ビリー・ローリーにとんでもない茶目っ気が生じて、"Have You Heard The Word"という曲を録音してしまいます。 その日、モーリス・ギブは階段からすべり落ちて腕を折ってしまい、痛み止めをたくさん打ってのスタジオ登場、それでも痛むからスタジオのバーでしょっちゅうアルコールを補給。セッションはひどいもので、モーリス・ギブのヴォーカルも本人のものとは思えず(奇しくも誰かに極端に似てしまう)、ベースもギターもピアノもめちゃくちゃ。
 この録音がどういうわけか、1970年3月7日に Beacon Recordsからシングル盤で発売されます。レコード上のバンドの名前は The Fut (ザ・フット)、曲作者のクレジットはThe Fut。その他すべて不明の状態でシングル盤 "Have you heard the word ?"は発売されたのでした。それがこれ(↓)です。

 これはすぐさま、「ビートルズのブートレグ録音である」と大変な噂になったのでした。この声がジョン・レノンでないわけがない。小野洋子までがそう信じて、この曲の著作権を取得しようとしたのでした。
 この真実をその当初は誰も明かそうとせずに、この謎の「ビートルズ海賊録音」の噂は雪だるま式に大きくなっていったのでした。

 このCD2枚組はスティーヴ&スティーヴィー、ティン・ティンの2枚のアルバムの他にボーナスとしてこの The Fut "Have you heard the word"も収録されています。私たちの興味はこの1曲に集中してしまいますが、どう聞いてもこれはジョン・レノンですよ、という人たちが世の中にはまだまだいらっしゃるそうです。

<<< トラックリスト >>>
CD 1
Steve & Stevie
1. Merry Go Round
2. Remains to be seen
3. Sunshine on snow
4. Liza
5. As I see my life
6. Shine
7. To whom it may concern
8. Melissa Green
9. SHe's getting married
10. The Birds
11. Fairy tale princess
12. I can see it in the moon
Tin Tin
13. She said ride
14. Swans on the canal
15. Flag
16. Put your money on my dog
17. Nobody moves me like you
18. Tuesday's Dreamer
19. Only ladies play croquet
20. Family tree
21. Spanish Shepherd
22. He wants to be a star

CD 2
Tin Tin
1. Toast and marmalade for tea
2. Come on over again
3. Manhattan Woman
4. Lady in blue
5. Love her that way (bonus)
6. Back to Winona (bonus)
The Fut
7. Have you heard the word (bonus)
Tin Tin "Astral Taxi"
8. Astral Taxi
9. Ships on the starboard
10. Our destiny
11. Tomorrow today
12. Jenny B.
13. I took a holiday
14. Tag around
15. Set sail for England
16. The Cavalry's coming
17. Benny and the Wonder Dog
18. Is that the way
19. Talking Turkey (bonus)
20. Strange one (bonus)
21. I'm afraid (bonus)

THE LEGEND OF STEVE KIPNER & STEVE GROOVES 1968 / 1973
2CD MAGIC RECORDS 3930975
フランスでのリリース:2013年8月12日

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