2011年10月12日水曜日

世界はエチオ



COMPILATION "ETHIOPIAN GROOVE WORLDWIDE - NOISE & CHILL OUT"
『エチオピアン・グルーヴ・ワールドワイド / ノイズ & チルアウト』


  まずはオマージュ。私たちのほとんどがこの音楽を知る源となったブダ・ミュージックのEthiopiques(エチオピック)」シリーズの監修者フランシス・ファルセトさんが、世界民族音楽界最大の年次見本市であるWOMEX(The World Music Expo)(2011年は10月26日〜30日、コペンハーゲンで開催)から、栄誉ある「プロフェッショナル・エクセレンス・アワード」賞を授けられることになりました。拍手。
  思えば「エチオピック」シリーズの第一巻が出たのは1998年のことです。それまでいわゆる西欧社会でエチオピアのポップ・ミュージックを聞くことができたのは、1986年ベルギーのクラムド・ディスクからリリースされたLP、マハムード・アハメド『エレ・メラ・メラ』と、1994年にフランシス・ファルセト自身が選曲監修してアスター・アウェケなど10組のアーチストを紹介した編集盤『エチオピアン・グルーヴ』(仏ブルー・シルヴァー/デクリック盤)だけだったのです。私たちはなぜこの音楽をその前に知ることができなかったのか、それはエチオピアという国の特殊な事情だったのです。誇り高いエチオピアは、植民地だったことがないのです。とは言ってもファシスト政権のムッソリーニのイタリアが、1936年から1941年までこの国を占領したことはありました。しかし概ねは(ハイレ・セラシエ皇帝の失脚まで)3000年の歴史を持つアビシニア王国の歴史なのです。
  ワールド・ミュージックが人々の口にのぼってきた80年代後半から90年代にかけて、その世界音楽の都は旧大英帝国の文化を吸収していたロンドンであり、旧ナポレオン・フランス帝国の文化を吸収していたパリであり、魅惑的なルンバ・コンゴレーズの旧宗主国ベルギーの首都ブリュッセルであり、カボ・ヴェルデ/アンゴラの葡語圏アフリカとブラジルの音楽文化を受容したリスボンでした。ところが旧植民地宗主国のないエチオピアは、誰にも見向きもされなかったのです。アメリカや欧州の片隅で、エチオピア移民たちが小規模で楽しむことを除いて、エチオピア音楽は誰の耳にも入ることができなかったのです。なぜなら、状況はさらに悪く、ファルセトが何度も強調するように、ハイレ・セラシエ皇帝の治世末期(60年代末期〜70年代前半)がこのエチオピアン・ポップ・ミュージックの短い最盛期だとすると、その後に軍事独裁政権がやってきて、「エチオ・ポップの春」は脆くも崩れさることになるのです。それを世界の誰も見ていなかったし、知るよしもなかったのです。
  フランシス・ファルセトの仕事は今さらながら脱帽ものです。こんな音楽を世界が知らないのはおかしい、という義憤の心の成せる業です。1998年「エチオピック」のシリーズが世に出るや、事情は一変します。多くの人が「何だこれは!」と興奮した驚きを示したのです。われわれの知らないブラス・サウンドのグルーヴ、われわれの知らないコブシ・ヴォーカルのソウル、われわれの知らない断腸のブルースである「テゼタ」、これらは世界音楽の地図で目立つことなどなかったエチオピアを一挙にキューバ並みの重要度で語らせることになるのです。
  世界中で興奮した人たちがいたのです。この音楽の虜になり、その表現を自分たちなりに取り込もうとしたバンドが世界の各所に現れたのです。ファルセトの最初の驚きは、アメリカのジャズビッグ・バンド、ジ・アイザー・オーケストラ(The Either Orchestra)の冒険でした。このビッグバンドはその音楽への心酔のあまり、エチオピアに音楽に出会う旅を挙行してしまいます。その記録は「エチオピック第20巻」としてCD化され、未体験の音楽的出会いは、多くの米・西欧・日のプレスで絶賛されました。2005年のことです。このようにアメリカ、フランス、ドイツ、オランダ、オーストラリアなどで、多くの若いバンドがエチオピア音楽にアプローチする試みが発生し、ゲタチェウ・メクリヤ、ムラトゥー・アスタツケ、マハムード・アハメド等エチオピアン・ポップの黄金時代のアーチストたちが世界中から声がかかり、共演へのラヴコールを受けるようになりました。
  恐ろしいものです。たった10年ちょっとで、世界がこんなにエチオピアの音楽に夢中になるとは、誰が予想したでしょうか。このアルバムは世界からのエチオピアン・ポップ・ミュージックへのラヴコールをまとめたようなコンピレーションです。選曲者フランシス・ファルセトはこの種のアンソロジー・アルバムは6枚は軽く作れると、そのライナーで述べていますが、それを2枚組28曲に厳選した、まさに「世界はエチオ」と言いたい世界に愛されたエチオピア音楽現象を証明する編集盤です。クロノス・カルテットから清水靖晃まで。スイスのビッグバンド、インペリアル・タイガー・オーケストラや、28歳のクラシック・クラリネット奏者グザヴィエ・シャルルなど。まさにレンジの広い選曲で、コピーではなくこの音楽を愛して自分のアートの中に取り込もうとしている人たちの様々な試みが見えてきます。いつのまにか、この音楽は奇妙ではなく、その縦横無尽に炸裂する金管楽器群の音も、私たちの音楽風景の一コマに落ち着きつつあるのでしょうね。

<<< トラックリスト >>>
CD 1 NOISE
1. DUB COLOSSUS (UK-ETHIOPIA) "GURAGIGNA
2. ETENESH WASSIE & MATHIEU SOURISSEAU (ETHIOPIA-FRANCE) "GONDER C'EST BON"
3. RATTLEMOUTH (USA) "CHIK CHIKKA"
4. UKANDANZ (FRANCE-ETHIOPIA) "SEMA"
5. ALEXO (FRANCE-ETHIOPIA) "TECHAWETU!"
6. TEZETA BAND (USA) "AYNOTCHE TERABU"
7. DEREB THE AMBASSADOR (AUSTRALIA-ETHIOPIA) "ETU GELA"
8. MAN BITES DOG & DE AMSTERDAM KLEZMER BAND (HOLLAND-FRANCE-ETHIPIA)"BALAGUE"
9. IMPERIAL TIGER ORCHESTRA (SWITZERLAND) "EMNETE"
10. NUBIAN ARK (ETHIOPIA)"DIMINISHED HEAVEN"
11. DEBO BAND (USA-ETHIOPIA)"ADERETCH ARADA"
12. LE TIGRE DES PLANATES(FRANCE) "YEZEMED YEBAED"
13. ARAT KILO(FRANCE) "ADDIS POLIS"
14. JAZZMARIS (ETHIOPIA-GERMANY) "LANTCHI BIYE"
15. GETACHEW MEKURYA & THE EX (ETHIOPIA-HOLLAND) "ETHIOPIA AGERE"

CD2 CHILL OUT
1. XAVIER CHARLES (FRANCE) "MUZIQUWI SILT"
2. ETH (FRANCE-ETHIOPIA) "HEYWET ENDIET NEW"
3. TSEDENIA GEBREMARKOS (ETHIOPIA) "HEMEMEN BEEQEFU"
4. KRONOS QUARTET (USA) "AHA GEDAWO"
5. EITHER/ORCHESTRA & BAHTA GEBRE-HEIWET (USA-ETHIOPIA) "ANTCHIM ENDELELA"
6. DANIEL TECHANE (ETHIOPIA-AUSTRALIA) "GELLETE"
7. SNOW FLAKE (CANADA) "LES CATACOMBES + INTRO : SUMMER DRINKING"
8. CHARLES SUTTON & JEFF FULLER (USA) "OO-OOTA SYASKEFFAM"
9. ZERITU (ETHIOPIA) "ATHIDEBEGN"
10. SAMUEL YIRGA (ETHIOPIA) "FIRMA ENNA WEREKET"
11. YASUAKI SHIMIZU & SAXOPHONETTES (JAPAN) "TEW SEMAGN HAGERE"
12. ABEGAZ & JORG (ETHIOPIA-GERMANY) "AHUNEM"
13. AKALE WUBE (FRANCE) "METCHE NEW"

COMPILATION "ETHIOPIAN GROOVE WORLDWIDE - NOISE & CHILL OUT"
2CD BUDA MUSIQUE 860215
フランスでのリリース:2011年11月


(↓)USAのテゼタ・バンド、Tezeta Band "Aynoteche Terabu"(CD1 - 6曲め)

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