(P117) ヘロイン、それは真綿みたいなもんだ。柔らかで安全で恐怖が取り去られた状態。あらゆる傷口が塞がって、無傷にもどり、すべての過去が消えてしまう。それは綱渡りだけれど、下に安全のための網が張ってある。私に対して遠慮などしないスタン・ゲッツが、ある日単刀直入にこう言ったんだ "When you are clean, you're one of the best pianists I know. But when you're stone, you sound like a fucking amateur" (このクラスのアメリカ人のプロにとって "amateur"は、最悪の罵倒表現である)
AGNES DESARTHE "LE ROI RENE - René Urtreger par Agnès Desarthe" Odile Jacob刊 2016年4月 270ページ 21,90ユーロ カストール爺の採点:★★★★☆
(※:René Urtregerの日本でのカタカナ表記は「ユルトルジェ」が一般的なようです。私は本人には確認できませんが、こちらのテレビやラジオでの紹介、私の知るフランスのジャズ関係者たちの呼び方では、「ユルトルゲ」と「ユルトルガー」中間のように聞こえます。というわけで、異論あるかもしれませんが、本稿は「ユルトルゲ」と表記しました。
↓の動画のLa Grand Librairieの司会者フランソワ・ビュネルの発音聞いてみてください。)
カロジェロ「新しい世界」 Calogéro "Le monde moderne" From album "LES FEUX D'ARTIFICE"(2014)
2016年4月25日にVEVOに新しいヴィデオクリップが発表になりました。同日にそのクリップを「独占公開」した日刊紙パリジアンのWEBページによると、2年前に発売されたこの"LES FEUX D'ARTIFICE"というアルバムは、2年間で70万枚を売っている大変なヒット作品です。ヒットもさることながら、確かに良い曲の多いアルバムで、拙ブログでちゃんと紹介しなかったことを後悔しています。
で、アルバム3曲めに収められたこの「新しい世界 Le monde moderne」という歌、私は2年前には全然引っかからなかったのですよ。ふし穴の耳。詞は作詞家でカロジェロの伴侶でもあるマリー・バスティードが書いています。彼女はこのアルバムの12曲のうち4曲の詞を提供していて、そのうちの1曲がこのアルバム最大のヒット曲であり、2015年ヴィクトワール賞のオリジナル楽曲賞に輝いた "Un jour au mauvais endroit"(ある日悪い場所で)(2012年グルノーブル郊外で起った2人の若者の惨殺事件をテーマにした歌です。↓ヴィデオはその現地で撮影されていて出演は現地の人たちです)でした。
<<< トラックリスト >>> 1. J'AI EMBRASSE UN FLIC 2. LES MOTS 3. TOUJOURS DEBOUT 4. HELOISE 5. LA NUIT EN TAULE 6. PETIT BONHOMME 7. HYPER CACHER 8. MULHOLLAND DRIVE 9. LA VIE EST MOCHE TE C'EST TROP COURT 10. MON ANNIV' 11. DYLAN 12. PETITE FILLE SLAVE 13. TA BATTERIE 14 (ghost track) POUR KARIM POUR FABIEN RENAUD "RENAUD" PARLOPHONE CD 9029599093 フランスでのリリース : 2016年4月8日
フランス民衆の誰もが心のどこかに持っていて離れないふたつのものがあります。アコーディオンと自転車です。前者は時代遅れの音だ、若者の音楽とシンクロしないなど、いろいろ言われてきましたが、ジャズにもロックにもエレクトロ・ポップにもしっかり溶け込んで生き延びてきましたし、7月14日の革命記念日の各町の消防署ダンスパーティーには絶対に欠かせないものです。まさにフランスの音です。
後者は世界一の自転車ロードレース「トゥール・ド・フランス」は言うに及ばず、ジャック・タチの映画(「祭りの日」邦題「のんき大将脱線の巻」)や、ロベール・ドワノーの写真などでフランスの心の風景になくてはならない乗物です。そして自転車にまつわるたくさんのシャンソンが生まれました。この自転車シャンソンのことを「シャンソン・ア・ペダレ Chanson à pédaler(ペダル漕ぎのシャンソン)」と言ったりしますが、多くが自転車のペダルを漕ぐリズムで作られています。フランスで最も良く知られているシャンソン・ア・ペダレは、イヴ・モンタン歌の「ア・ビシクレット A Bicyclette」(詞ピエール・バルー/曲フランシス・レイ)です。これは1968年の5月革命の時期に発表されたという背景があり、5月革命ゼネストでガソリンスタンドにガソリンがなくなり、しかたないからみんな自転車を漕ぎ出したという状況BGMでもありました。
私がフランスに住み始めた1970年代末は、自動車が世の中で一番デカイ顔をしていたような頃で、自転車や歩行者は最優先権を自動車に譲らなければならず、道を歩くのも恐怖の連続でした。こんなところで自転車など絶対乗れるわけがない、と新座の外国人の私は思ったものですが、大道を我が物顔で縦横無尽に走る自動車の群れを縫って、曲芸師のような自転車乗りのおじさんおばさん(おにいさんおねえさん)がいました。すごいなあ、パリ的だなあ、と感心したものです。あの当時はパリの舗装道路は多くが石畳だったのです。これも私に自転車に乗ることを恐怖させる原因のひとつで、ガタガタという振動がサドルから腰に伝わり、ちょっと走っただけで、あとで腰痛が襲ってくるような次第で...。その上石畳は雨で濡れたりしてたら,つるつるに滑るのです。パリで自転車は難しい、とつくづく思ったものでした。
しかし時は移り、エネルギー危機や公害問題などで、自動車が都市部でデカい顔ができなくなり、自転車が見直され、遊歩道と自転車道が整備され、2007年から開始された市営貸し自転車ヴェリブの驚異的な普及なども手伝って、パリの車道は今や自転車が我が物顔で走るようになりました。郵便配達さんも、原付バイクやスクーターが減って、自転車が復活しているし、パリ市警も多くの自転車パトロール隊を配備するようになりました。
まあ自動車が減ったパリの道で増えたのは自転車だけでなく、ローラースケート、キックスクーター、スケートボードなどもですけど、自転車はそのチャンピオン格でしょう。
これはフランスに暮らすほとんどすべての人が経験することですが、自転車は盗まれるものなのです。高級自転車でなくても、オンボロ自転車でも盗まれるのです。ある日、あなたの自転車は消えています。私は家族の分も入れれば3度そういう目にあっていますが、これはそういうものだと思わなければなりません。翼が生えたんだ、と。
さて、クリオのデビューアルバム『クリオ』の中で、最も美しいメロディーを持った歌です。シャンソン・ア・ペダレです。「エキリブリスト Des Equilibristes」は軽業師、曲芸師といった意味です。子供たちの世界。自転車さえあれば、天才的なパイロットにも、熟練のメカ整備士にもなれる、世界は自分たちのもの、そういう夢のような子供時代の瞬間を想い出してみましょう。還ってくるものではありませんが。甘いメランコリーに包まれてみましょう。
<<< トラックリスト >>> 1. HAUSSMANN A L'ENVERS 2. ERIC ROHMER EST MORT 3. CHAMALLOW'S SONG 4. DES EQUILIBRISTES 5. SIMON 6. LE BOUT DU MONDE 7. PRINTEMPS 8. TU PEUX TOUJOURS COURIR 9. PLEIN LES DOIGTS 10. LE COIFFEUR 11. ERIC ROHMER EST MORT (duet with FABRICE LUCHINI)
CLIO "CLIO" CD UGO&PLAY AD3637C フランスでのリリース:2016年4月1日