2017年6月9日金曜日

スナークちゃんだったのかぁ...!

オルヴァル・カルロス・シベリウス『秩序と進歩』
Orval Carlos Sibelius "Ordre et Progrès"
 
 ラジル国旗に書いてあるポルトガル語 "Ordem E Progresso"(秩序と進歩)は、社会学の祖と言われるフランスの学者オーギュスト・コント(1798-1858)の理念です。なぜ唐突にこんな大言壮語なお題目をアルバムタイトルにしたか、ということは日本の政党モットーみたいなもんで「未来への躍動」「前進と飛躍」の類の空疎感を醸し出すためではないか、と思います。
 オルヴァル・カルロス・シベリウスの音楽はそういうハッタリの強さに溢れています。高校生の頃に初めて『原子心母』 や『クリムゾンキングの宮殿』を聞いた時の「どうしてここまで大げさなんですか?」という賞賛半分・呆れ半分の印象を思い出させます。あるいはボストンの2枚のアルバムに針を落す度に訪れる「わぁっ!光り輝いちゃってるなぁ!」のワクワク感みたいなみたいなもんです。
 「秩序」という点においては、黄金時代のポップミュージックの掟(ビーチボーイズ、トッド・ラングレン...)をしっかり踏襲した見上げたサウンド構築ですし、無駄のない構成、ケレン味たっぷりのギター/シンセ/ドラムスの早変わり展開、これはオーダー通りの品揃えと言えましょう。淀みや混沌一切なし。「進歩」という点は、それそのまんまなんですが、 プログレなんですな。60-70年代からポジティヴに考えられた技術の進歩、西洋音楽の未来みたいな展望。

 とここまで書いて、レーベル資料を読み直したら、オルヴァル・カルロス・シベリウス、「本名アクセル・モノー 」というのを見て、はて、この名前はどこかで見たな、と。遠い記憶から、1999年にアルノー・フルーラン=ディディエに紹介されたスナーク君(当時23歳)だったことを思い出した。ブリコラージュ(DIY)手作り楽器やギターやナベカマを宅録多重録音で、不思議なポストロック系の音楽をクリエートしていた子。ノイジーな抒情系みたいなスタイルが好きで、早速日本に紹介したら結構反応があって、2枚目のCDアルバム『オングストローム』(2000年)は谷理佐によるライナーノーツ付きで日本配給されるという栄誉を得ました。その中で谷理佐は「一見して子供っぽいヘナチョコのスナークが実は、ロックの次に来るものの舵の一端を握っている可能性は大きい」なんて書いてました。そのヘナチョコのアクセル君が17年後、こんな「秩序と進歩」を掲げる真正面なプログレ・サイケ・ポップを展開することになろうとは。

 どことなくスナークの雰囲気が残っている6曲めのインスト曲 "Locus Solus"は、知らなければ誰もがフランソワ・ド・ルーベの映画音楽と思うでしょう。インスト曲ばかりだった1999年から、凝りようは昔と変わらないのだけど、歴史を学ぶ前と学んだ後のような時の流れ。ポストロックやっていた子がクラシックロックに飲み込まれてしまったような。ピンクフロイドの40年の時の流れみたいなものを、一人で背負っちゃったのかな。冗談っぽい立ち振る舞い(↓のクリップ)が、実はすべて本気じゃないんだよ、と言ってるようで。ところが、この音楽は本気で楽しめますよ、特に私たちの世代は。全曲フランス語。勇気ありますよ。

 Orval = ベルギーのトラピスト修道院産ビールの商標。
   Carlos = 1947 -   。ベネズエラ出身のテロリスト、またの名をジャッカル。
   Sibelius = 1865-1957。フィンランドの大作曲家。

<<< トラックリスト >>>
1. COUPURE GENERALE
2. LES OUBLIES
3. COEUR DE VERRE 
4. MEMOIRE DE FORME
5. A MA DECHARGE
6. LOCUS SOLUS
7. DOPAMINE
8. ANTIPODES
9. DESASTRES ET COMPAGNIE
10. ENTREFER (BONUS CD)
11. MONUMENT (BONUS CD)

LP / CD BORN BAD RECORDS BB093
フランスでのリリース : 2017年4月28日 

カストール爺の採点:★★★★☆

(↓)"COUPURE GENERALE"(オフィシャル・クリップ)



 

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