2011年1月26日水曜日

異星に興味を持ち始める



ANTIQUARKS "COSMOGRAPHES"
アンチクウォーク『コスモグラフ』


「宇宙に夢中になってるうちに地球がチュー公に盗まれた(あ〜あ、やんなっちゃった、あ〜あ、おどろいた)」(牧伸二)

 アンチクォークはガリアの国の古都リヨンのバンドです。日本ではリヨンは永井荷風や遠藤周作の小説に描かれた古色蒼然たる(暗い)町として知られます。その古さを几帳面に保存しているところ、夏は極端に暑く冬は極端に寒いところは「京都」を想わせるものがあり、私のような余所者には居心地の悪い部分もあります。また仏最大の「金融都市」で、町を歩く人たちがみんな銀行マン/銀行ウーマンのような顔をしているのも、むむむ...と感じるものがあります。世界的に知られた「うまし国」、食道楽の町だそうで、グルメガイドを手にした日本人がよく来ますが、私は予算が乏しいせいか、リヨンでうまいものを食べた記憶がありまっせん。仏一部リーグでOL(オルではなく、オーエルと読む。Olympique Lyonnaisオランピック・リヨネの略)は、金融都市らしくフランスで最初の株式市場一部上場フットボール・チーム(現在のところ一部リーグでは唯一)。そして県番号(ローヌ県)が「69」なので、リヨンを走る車のほとんどが「69」のナンバープレートをつけてます(わざわざ書く必要あることなんだろうか、これ)。
 リヨンが生んだ音楽アーチストで最も知られているところでは、ジャン=ミッシェル・ジャール、ラフェール・ルイス・トリオ、カルト・ド・セジュールがいます。アンチクォークはこの三者と直接の縁はないと思いますが、どこかしらこの三者を総合したようなものを持っています。宇宙的・未来的で、まじめ半分冗談半分な雑種ポップテーストがあり、その上ワールドだからです。
 バンドは二人から始まりました。リシャール・モンセギュRichard Monségu(ドラムス、パーカッション、ヴォーカル)。カタリ派最後の砦モンセギュールを思わずにはいられない重い名前です。セバスチアン・トロン Sébastien Tron(電子ヴィエル・ア・ルー、キーボード、プログラミング)。本名なんですか?と疑いたくなるほど SF の代名詞みたいな名前です。二人の名前だけで既に音楽が想像できそうですね。
 2008年の「プラネット・ミュージック Planètes Musiques」フェスティヴァルが出した同名の編集盤CDに、このアンチクォークが2曲入っていましたが、それが私のアンチクウォーク初体験でした。「プラネット・ミュージック」は、MODALレーベルやFAMDT(Federation des associations de Musiques et Danses Traditionnelles トラッド音楽&ダンス団体連合会)が開く,その分野での優秀新人紹介のフェスティヴァルですが,ワールドとトラッドの新奇ものばかりがセレクトされてます。このアンチクウォークも,どこがワールドもしくはトラッドなのか,というとちょっと説明に困るようなところがありますが,トラッドとの端的な接点はヴィエル・ア・ルーという千年の歴史を持つ伝統楽器を使っているところです。
 従来の六弦ヴィエルから発して,飽くなき探求の人,ヴァランタン・クラストリエは27弦電子ヴィエル・ア・ルーを開発し,その楽器の計り知れない可能性を証明して見せました。たしかにこの楽器,千年も前から「未来の楽器」だったような顔をしています。今日の多くのヴィエル奏者たちがそうであるように,クラストリエの熱烈な信奉者であったセバスチアン・トロンは,その電子ヴィエルを使って,シルクロードのラバーブの音,モンゴルの馬頭琴の音,モロッコのグンブリの音,弦楽四重奏の音,未来的合成音のシンセの音など限りない種類の音色を出すことができる上,その共鳴胴を叩いてパーカッションとして使う時も電子合成で多種多様の打楽器音を発するエレクトロ・パーカッションとしてしまったのです。
 相方のリシャール・モンセギュは,ジャズドラマーを経て,アフリカ(ギネー)の民族バレエ団の伴奏などをつとめ,多くの外国公演を通じてアフリカのリズムにどっぷり浸かっていくのですが,それに加えてヴォーカリストとして不思議なテクニックを身につけていきます。たとえば言葉の通じない外国で,ある種の歌手たちは聴衆にその歌の世界を「言語の意味作用を介さずに」理解させてしまえるのはどうしてなのか。歌う声の響き,抑揚,強弱,メリハリ,母音子音の合成,イントネーション,拍動,休止,緩急,こういうものを自在に使って表現できる歌い手は,言葉の意味を超えてその言わんとする何かを伝えることができる。このヒントを与えてくれたのはボビー・マクファーリンらしいのです。
 ここでモンセギュは「言葉のように聞こえるのだが,何語なのかわからない」そういう歌詞を開発するのです。歌のエモーションを言語の意味作用を超えたところで「歌声の音の変化」で伝えるメタ言語のヴォカリーズによる表現です。いわばタモリのハナモゲラ語(若い人たちは知っているだろうか)に近い言葉で歌うわけですが、もちろんお笑い効果を狙ってやっているのではありません。またある種マグマの「コバイア語」のように地球ばなれした想像力から生まれた言語とも考えられるでしょうが、言語になっていないモヤモヤ&ウヤムヤな雰囲気がほとんどです。
 これを形容して,大地に深く根を張ったバオバブの大木が高く高く伸びて宇宙に届きそうなところで発せられている音楽,と言われたりしました。「惑星間ワールドミュージック」なんて呼ばれたりもします。
 アンチクウォークはギタリストとベーシストの加入を得て4人組となって、この新アルバム『コスモグラフ』を発表しました。前作『ル・ムーラッサ』(2006年)が自主制作/自主流通で、ほとんど誰も聞いていないので、これがデビューアルバムと言ってもかまわないでしょう。さきほどのバオバブの大木の例を使うと、その地球深部まで伸びた根によってアジア、アフリカ、ヨーロッパ、南北アメリカからの地下水を吸取って、宇宙まで伸びた枝の先に花を咲かせるような音楽、という壮大さが決め手です。
 「コスモグラフ Cosmographe」とはスタンダード仏和辞典では「宇宙形状誌学者」という訳語が出ています。言い換えれば「コスモグラフィー」を作る学者のことなのでしょうが、コスモグラフィーとは、
宇宙誌(うちゅうし cosmography)とは、全世界つまり、地球や宇宙や、死後の世界までもを包括して描かれた宇宙像の事である。書物あるいは図版(地図や天球図)として表現される。コスモグラフィーやコスモグラフィアとも呼ばれる。
 とウィキペディア日本語版には説明されています。そうか、この4人は宇宙図を描こうとしているわけですね。
 また彼らのオフィシャルサイトでは、その音楽をPOP INTERTERRESTRE(ポップ・アンテルテレストル)と称しています。惑星間ならぬ「地球間ポップ」と言うわけです。そのヴィジョンは色盲検査のような緑円と赤円で描かれたジャケットアートに見るような、緑の地球と赤い地球の間をつなぐポップ・ミュージックということなのかもしれません。スペース・ヒーロー的だったり、邪教的神秘思想っぽかったり、エコロジックで警鐘的だったり...の8曲です。

<<< トラックリスト >>>
1. IBN ISEFRA
2. COSMOGRAPHES
3. PERSPICILLI
4. EPAMING ASTRA
5. BAYAERTU
6. ORLANDA
7. IMMENSUM
8. PHILIA

ANTIQUARKS "COSMOGRAPHES"
CD COIN COIN PRODUCTIONS 48769792
フランスでのリリース:2011年1月31日


(↓ 2011年ツアーと新アルバムの告知ヴィデオ)

ANTIQUARKS / TEASER TOURNEE 2011 - Théâtre Les Déchargeurs
envoyé par AntiQuarks. - Regardez la dernière sélection musicale.

0 件のコメント: