2008年10月3日金曜日

今朝のフランス語「ラ・レッセシオン」



 (←)ジャガイモしか食卓に出ないという図。これがフランスにおける「不景気」「困窮」のイメージなのでしょうか。ジャガイモっておいしいし、今ではそんなに安くもない。つい数週間前のオヴニー(パリの日本語新聞=フリー・ペーパーで、友人の佐藤真さんが編集長をしている)でもジャガイモ特集があって、世界各国風のジャガイモの食べ方をしたらものすごい数のヴァラエティーがあるように書いてました。フライド・ポテトやチップスにしてもずいぶん種類ありますよね。
 今から40数年前、青森という土地で私はまじめな小学校児童でした。算数の授業の時に先生(女性)が、この問題はものすご〜く難しいから、きみたちに解けるわけがない、という挑戦じみた問題を出しました。もしもこの問題が解けたら、できた子に先生は何万円もあげてもいい、とまで言われました。私は奮起して、この問題を解きました。黒板の前に行き、自信なさげではありましたが、計算を黒板にチョークで書き...これで正解ですか?と先生に問いました。先生はこの子たちには絶対できるわけがない、という自信ががくがくと崩れ、まさか、おまえにこれが解けるとは...という顔をして青ざめました。うううう...、それで正解だよ、と敗北を認める先生の小さな声に、教室はどおおっと沸き立ち、歓声が起こりました。私はその時クラスのヒーローでした。おおお、先生を負けさせることができる子だ、とみんな私を尊敬して見ました。そして約束の何万円ももらえるのだ、と。先生は負けを認め、明日約束のものは必ず渡すから...と。
 翌朝、先生はみんなの前で、私を呼びつけ、約束のものだから、と私に紙袋をひとつ。その紙袋には土のついたジャガイモがひとつ入っていました。「先生、これは一体何ですか?」と私は聞きました。先生は突然に津軽イントネーションになって、こう言いました。「生イモ」。先生はきのうきみに「ナンマインモ」あげると言ったでしょう。だから約束通り、ナンマインモ持ってきたのよ、と。
 この話は、私は子供心にとってもショックだったのです。何万円ももらえると思った私に、生のジャガイモが一個。思い返せば、私はこの時からまじめな小学生をやめたのです。

 この時からたしかに私の頭の中でもジャガイモというのは、ディズニーのシンデレラの動画みたいに、金銀財宝が真夜中12時に魔法が溶けて、何の価値もないものに戻ってしまうもの、というイメージになってしまいました。貧乏のイメージではなく、価値のないもの、という感じでした。生イモですから。

 フランス政府は今朝、この言葉は絶対に言わないでおこうね、という類いの避けたい言葉を言わなければならない状況になってしまいました。"La Récession"(ラ・レッセシオン)。これは国民を大パニックに陥られる可能性のある言葉だからです。重大で衝撃的な言葉です。ラジオでは"gros mot"(グロ・モ。本来は卑語や隠語の意味ですが、この場合は口にしたら公序良俗が紊乱される言葉、というニュアンスでしょうか)と評しているところもありました。

 récession (女性名詞)[経]景気後退
 (スタンダード仏和辞典)


 フランスは今朝から国が認めた「景気後退」状態になったわけです。それまではこういうダイレクトな単語は使わずに、やんわりソフトに「成長鈍化」とか「景気の足踏み状態」とか、悪くても「ゼロ成長」ぐらいの表現に留まっていたのに、今朝からフランスははっきりと「後退」つまり「低下」「不況」「マイナス」を認めるようになったのです。
 たぶんこの冬、一般市民はヴァカンスに出ないでしょう。食卓にはジャガイモしか出てこないでしょう。何万円稼いでも、この程度しか食べられないでしょう。
 この状態が続くと、何が起こるのでしょう? 革命です。冗談じゃなくてイモしか食べられない人たちが本当に多いのです、この国は。経済成長と購買力増大を約束して当選した大統領は、ジャガイモの値段を知っているでしょうか。何万円もする料理しか食べていない人たちには、「景気後退」という意味すらわからないことかもしれません。もういい。いいもう。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

爺、「生いも」すごい話ですね。
出来すぎている。本当なの?
フランスも不景気なんですね。
日本は10月からまた色んなものが値上げ。
フランスが遠く感じられます。
そろそろ爺に会いたいなぁ。
風邪ひかないようにね。

Pere Castor さんのコメント...

さなえもん,おひさしぶりぶりっ!
多少の脚色はありますが,大筋は実話です。
ユーロが安くなったから(今日1ユーロ=139円というのまで見えた),日本からの旅行は安くなったんじゃないの? 爺は日本でもらっている原稿料がぐっと上がったような得した気分だけど,日本に行く時は泣くでしょうね。
別エントリーで載せたアニタ・パレンバーグとゼルマティの写真見たかね?

それからFacebookに写真なしであなたの本名と同じ名前の人がいるのだけれど,あれ,ひょっとしてあなたかい?