2011年7月16日土曜日

地中海オクシタン



Augustin Le Gall (photos) / Elisabeth Cestor (textes) "LA VIE EN OC. MUSIQUE !"
オーギュスタン・ル・ギャル(写真)/エリザベート・セストール(文)"オックの生活と音楽”

 ハードカヴァー、タテ25センチ x ヨコ26センチ、130頁、重さ950グラムのりっぱな美術書装写真集です。2010年12月に出版されていますが,地方出版物なのでパリの書店で見ることもなく,FBでマルセイユの人が紹介してくれるまで知ることができませんでした。さっそくオンラインショップで発注したものの,待つこと2週間。地方はゆっくりと時間が過ぎる(On dirait le sud)。 これはマルセイユのあるブーシュ・デュ・ローヌ県と同県が属するプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地方(通称PACA)の両評議会が予算を出して,マルセイユの出版社カルネ・メディテラネアンカルネ・メディテラネアンが制作出版したものです。
 これは出資した県と地方のせいなのだと思います。ここで紹介されているアーチストたちはブーシュ・デュ・ローヌ県以東のPACA地方に居を置く人たちに限定されているのです。都市で言えばアルル(マルセイユよりも西)からイタリア国境手前のニースまでです。すなわち,私たちがイメージしているオクシタニア・ミュージック・シーンの核と言えるオクシタニアの都トロサ(トゥールーズ)とミディ=ピレネー地方,モンペリエを中心としたラングドック地方は全く登場しないのです。(つまり,ファビュルス・トロバドール,ラ・タルヴェーロ,クロード・マルティなどは範囲外ということです)。
 表紙に写っているのはアンリ・マケという人で,1977年ベルギーのリエージュ生れ,アルルに住むマルチ・イントルメンタリスト(ヴァイオリン,フィフル,フルート,ガルーベ等)で,今年で4回めになるフェスティヴァル・ザンザン(Fesrival Zinzan)(「ロワール川以南で最もアンダーグラウンドなトラッド・フェスティヴァル」と自称)のオーガナイザー。
 マッシリア・サウンド・システム,マニュ・テロンとルー・クワール・デ・ラ・プラーノ,サム・カルピエニア,パトリック・ヴァイヤン,ルイ・パストレーリとニュックス・ヴォミカなど私たちが親しんでいるマルセイユ以東のオック・アーチストたちの他に,表紙のアンリ・マケのように影になり日向になりでオクシタニア音楽を支える人たちがたくさん登場します。
 1966年にすでにドラギニャンで「方言(パトワ)」(=オック語)で歌ったギ・ブログリア,それにショックを受けた中学教師のダニエル・ドーマスDaniel Daumàsらが,70年代のオクシタン・フォークの担い手となって,カルカッソンヌの中学教師クロード・マルティClaude Martiと共にオクシタニア復興運動の闘士として歌います。ドーマスはオック語文筆家としても多くの著作を発表していますが,15年間歌手活動を休止したのち,再び孫のガスパール(ヴァイオリン/アコーディオン)を従えて歌の世界に戻っています。
 3年前に拙ブログで紹介したフランク・トゥナイユ著『オクシタニアの音楽』Frank Tenaille "MUSIQUES & CHANTS EN OCCITANIE"でも非常に重要なフォーク・グループとして扱われていたのが,アルルのモン・ジョイアMont-Joiaでした。この古楽器を使ったフォーク・アンサンブルの1975年のアルバム "CANT ET MUSICA DE PROVENCA XIIe - XXe SIECLES"(12世紀から20世紀までのプロヴァンスの歌と音楽)が,オック界ではクロード・マルティの"UN PAIS QUE VOL VIURE"と同じほどに衝撃的で画期的な1枚だったのです。その創立メンバーのひとり,ジャン=マリ・カルロッティJan-Mari Carlotti(1948年モロッコ生れ)は,今日も勢力的に活動を続けていて,76年から10年間,地中海とオクシタンの音楽祭"RESCONTRES DE LA MAR"(海の出会い)の主催者でもあり,80年代後半にはパトリック・ヴァイヤンやリッカルド・テジとアニタ/アニタ(ANITA/ANITA)というバンドも組んでいました。2001年からモン・ジョイア(創立メンバーはカルロッティのみ)を復活させて活動していますが,CDなどが出てくれないので,その現在を知りようがないのが残念です。
 そして3年前の夏にニースで会ったルイ・パストレーリ(ニュックス・ヴォミカ)が、お土産にあげたフランク・トゥナイユの本Frank Tenaille "MUSIQUES & CHANTS EN OCCITANIE"に、彼にとってのニースの最重要アーチスト、ジャンリュック・ソーヴェゴが載っていないのに憤慨して、私にソーヴェゴの著作(小説、劇画、絵本)を数冊くれて、これを読んでソーヴェゴの偉大さを知れと言われたのだけれど、私はプロヴァンサル語が読めなくて難儀しました。ソーヴェゴは1950年生れ、小説家、画家、漫画家、劇作家、作詞作曲家/歌手ですが、1972年にその漫画(BD)の主人公グラシュス・オンタリオを架空のリードヴォーカルとするオンタリオ・ブルース・バンドというカントリー/ブルース・ロック(歌詞はプロヴァンサル語)で、ニースのオック・フォークロックのパイオニアとなったのでした。紙媒体(子供向けと大人向けのオック語漫画雑誌の発行)と地道なコンサート活動で、70-80年代のニースのジャック・メドサン市政に抵抗していたこのマルチな文化人は今日こんな顔(→)でこの本に載っています。どことなく、私の敬愛する先輩、北中正和さんに似ているように見えます。

AUGUSTIN LE GALL(PHOTOS) / ELISABETH CESTOR(TEXTES) "LA VIE EN OC. MUSIQUE!"
ISBN : 978-2-9538263-0-2
(2010年12月 CARNETS MEDITERRANNEENS刊、130頁、25ユーロ)


(↓モン・ジョイア "AI VIST LO LOP")

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