2011年6月2日木曜日

グ大



Aziz Sahmaoui & University of Gnawa "Aziz Sahmaoui & University of Gnawa"
アジズ・サハマウイ『アジズ・サハマウイとグナワ大学』


 アジズ・サハマウイはモロッコ、マラケッシュ出身、1980年代からフランスをベースに活動しているグナウィです。1995年結成のオルケストル・ナシオナル・ド・バルベス(ONB)の創立メンバーのひとり。ジャズやフュージョンとの交流も盛んで、グエン・レ(g)、マイケル・ギブス(g)、ジャン=ピエール・コモのシクスンなどのステージや録音に参加していました。そして2005年にジョー・ザビヌルのダブルライヴアルバム『ヴィエンナ・ナイト』(ウィーンのバードランド・クラブでのライヴ)の録音に招かれ、それ以来ザビヌルが2007年に他界するまで、彼の楽団ジョー・ザビヌル・シンジケートの重要メンバーとなっていました。
 さて1997年から今日まで4枚のアルバムを発表してきたONBに関しては、私は熱心なシンパではなく、なんとなく違うな、と皮膚感覚的に思ってきました。それは乱暴なくくりで言いますと、マグレブ音楽を北側(位置的にはパリ・バルベス)の標準に合わせて洗練する、という作業だったように思えるのです。
 例は悪いかもしれませんが、恐れずに言うと、アルジェリアでもう5年近くも通訳の仕事で暮らしている友人(日本人)が、しみじみとクスクスはパリで食べるのが最高だと言うのです。私もそれはよくわかります。パリ標準のクスクスは多分世界で一番おいしいクスクスだと思います。それは私はロンドンや東京や香港で食べる中華料理でもそう思うのです。おそらくパリの中華料理は世界一おいしいものに思えるのです。このパリ標準というのはオーセンティックなものを凌駕して「パリ的」にしたもので、フランス人の嗜好に合わせることによってオリジナルではないガストロノミーを獲得したものなのです。 
 ONBはそういうきわめて「パリ的」なバンドだと思ってしまうのです。
 で、アジズ・サハマウイの初ソロアルバムは、その洗練さにおいてはONBに何のひけめもあるものではありまっせん。何しろ天下のマルタン・メソニエのプロデュースですから。しかし、そのベクトルとしては、ONBのようにマグレブ音楽を北側に押し上げるということ全く逆に、それを南側に下げてアフリカ化する、という意図が明白に見られるのです。
 それは端的には、ギタリスト(エルヴェ・サンブ)、ベーシスト(アリウン・ワデ)、キーボディスト兼コラ奏者(シェイク・ディアロ)がセネガル人ということに起因するわけですが、地中海をまたぐことなく、マグレブの音が南下することでよりアフリカの熱とビートを深めていく、という初めての成功例に私には聞こえたのです。
 比喩的な意味ではなく、グナワは癒しの音楽です。実際に病気治療として、グナウィがつくる音楽的トランス状態が病める人々を癒し、解放するのです。アジズはそういうことをルーツ回帰的にもう一度学ぼうと思い立ったのかもしれません。冗談のように見えるこの「グナワ大学」というバンド名ですが、本人たちはいたってまじめにグナワを学び直しているのでしょう。いわゆる家元制度的な「流派」ではなく、「大学」として多くの人に門戸を開いた状態で。
 アルバムはその勢いでの突っ走り状態を狙って、スタジオライヴ状態で録音されています。(コーラスと手拍子などがアフレコのようです)。砂漠のトランスという緊張感と隣接してメソニエ効果による隠し味的な挿入音が憎たらしいほどに決まっています。
 その辺のことを、明後日(6月3日)アジズに会ってインタヴューで聞くつもりでいます。詳細は向風三郎のラティーナ連載(2011年7月号)で。

<<< トラックリスト >>>
1. Salabati (trad)
2. Maktoube - short version (Aziz Sahmaoui)
3. Ana Hayou (trad)
4. Khina (Aziz Sahmaoui)
5. Foufou Danba (trad)
6. Alf Hilat (Aziz Sahmaoui)
7. Black Market (Joe Zawinul)
8. Miskina (Aziz Sahmaoui)
9. Sawayé (trad)
10. Rofrane (Aziz Sahmaoui)
11. Mimouna (trad)
12. Tamtamaki (Aziz Sahmaoui)
13. Maktoube - long version (Aziz Sahmaoui)

Aziz Sahmaoui & University of Gnawa "Aziz Sahmaoui & University of Gnawa"
CD GENERAL PATTERN GP005
フランスでのリリース: 2011年4月29日


(↓)2011年5月24日、パリ、ニュー・モーニングでのライヴ映像 "Zawiya"

Aziz Sahmaoui & University of Gnawa - Zawiya, live at the New Morning from General Pattern on Vimeo.

4 件のコメント:

さなえもん さんのコメント...

インタヴュー楽しみにしています。
このアルバム、一昨日から3回くらい
聞いています。

マルタン・メソニエ氏ってそんなに
名プロデューサーだったの!?
気軽にFacebookでやり取りしちゃってた・・・。

Pere Castor さんのコメント...

英語だけど参照してね。
メソニエさん
プロデュースした作品のリスト見て驚いてね。
日本語で「マルタン・メソニエ」とググってもいろいろ出て来る。

さなえもん さんのコメント...

・・・なんか言葉が出ないくらい巨匠なんですけど。
ネナじゃなくってドンのチェリーとか
フェラ・クティ、シェブ・ハレド、パパ・ウェンバ
そしてロバート・プラント&ジミー・ペイジ!
まさにワールド・ミュージック(この言葉はちょっとあいまいに思うけど)
の火付け役だったのですね。

Pere Castor さんのコメント...

この人知らないっていうのはモグリですね。おおいに恥じ入りましょう。
日本語グーグルでは、「北島三郎をメソニエのプロデュースで世界デビューという企画があった」という記述がよく見受けられるけど、ちょっとなぁ...。
メソニエさんは日本にはしょっちゅう行ってる。日本に行くといつも雨降りと言ってた。雨オトコか。