2009年5月13日水曜日

騒々しいポリフォニーの進化

 今年で第4回めだという「ジャズ・ノマード」フェスティヴァルです。場所がピーター・ブルック劇団で知られるテアトル・オ・ブッフ・デュ・ノールで,とにかくこの環境で劇や音楽が鑑賞するのはいつも素晴らしい体験です。ほぼ円筒形に4階までのバルコニー席がある,天井がとても高い劇場で,PAなしでも十分に声が通る理想的なアコースティック環境です。私はここでブルック一座の「カルメン」,ベラ・ヴィラ&カリ,ジャン・コルティ,テット・レッドなどを見たことがありましたが,いずれも心に残るものばかりです。  副題を "La voix est libre"(ラ・ヴォワ・エ・リーブル)と言い,これは「声は自由」とか「言論は自由」という文字通りの意味との他に,"La voie"(ラ・ヴォワ:道,進路,方法)にかけてあって「方法手段は何でも自由」という意味でもあります。つまり,「何でもあり」なんです。  ジャズマンでない人たちが多く出演して,「声」を出すんですね。哲学者や科学者も「声」を出します。今回は遺伝学の世界的学者で,環境問題や人種差別問題にも大きくコミットしている84歳のアルベール・ジャカールが初日の第一声を上げました。すごくわかりやすく,大笑いをそそる大変な話術家で,今盛んに言われている「危機 crise」という言葉を「変異 mutation」に置き換えたらどうなるかを説明してくれました。ためになります。  そのあとモロッコのダンサー(タウフィク・イゼディウ)とマリのコラ奏者(バラケ・シッソコ),スラマー3組によるスラムがあって,第一部が終了。  第二部にブラジル/ノルデスチの歌姫レナータ・ローザと,マルセイユ/オクシタニアの男声ポリフォニー・グループ,ルー・クワール・デ・ラ・プラーノの初コラボレーションのステージです。題してルー・クワール・デ・ラ・ローザ。ノルデスチとオクシタニアの共同作業は,フェムーズ・T,ニュックス・ヴォミカ(+シルヴェリオ・ペソア),ボンブ・2・バルなどいろいろありますが,これは声と声のミクスチャー。地声ヴォーカルのテクニックの粋を徹底追及するマニュ・テロン(ルー・クワール・デ・ラ・プラーノ)と野性美あふれるハイトーン民謡ヴォーカルのレナータ・ローザの丁々発止が,ありえないポリフォニーとして調和する恩寵の瞬間が何度もありました。いやあ,すごいです。 (↓ヴィデオ撮りました。これはノルデスチ寄りのセッションです)

2 件のコメント:

Tadd さんのコメント...

ヘナータ・ホーザ(と日本ではブラジル流の発音で書く人が多いと思います)は4,5年前にWomexで観てインタヴューもしました。Womexのショウケースで演奏し、エージェントがついたおかげで、欧州ではそこそこ知名度がありますよね。ことブラジル音楽に関しては、欧州や北米を介さずに現地と直でつながっている日本では、何故か知名度が今ひとつのようです。メストレ・アンブロージオは日本盤が出て、来日もしたのに、彼らと一緒に活動していたヘナータがあまり注目されないのは残念です。

Pere Castor さんのコメント...

ようこそ、おいでくださいました。
そうですねえ、Brasilを「ブハジウ」とカタナナ表記するのもあたりまえになりそうですねえ。