2008年2月4日月曜日

減ることを知らぬフェルセン


 トマ・フェルセン著『シュークルートに毛が一本』
 Thomas Fersen "Un poil dans la choucroute"


「新刊を読む」と言うよりは「ながめる」ですね。読むよりも図版と画像がものを言うイメージ本です。トマ・フェルセン(1963 - )の生まれてから今日までの、アートワーク的な変遷をまとめた120頁のアルバム本です。編集には07年12月29日に爺のブログで紹介した『ラ・シャンソン・フランセーズ』の著者セリーヌ・フォンタナが大きく関わっているようです。
 トマ・フェルセンのファーストアルバムのジャケ写は、アーチストの父親の友人であった大写真家ロベール・ドワノーが撮っているのですが、そのドワノーのフェルセン撮影の舞台裏がこの本では暴露されています。なにかとても歴史的な芸術創造現場を見ているような、とてもありがたい数ページがあります。
 しかしこの本は、セカンドアルバムからアートワークを担当するようになったジャン=バチスト・モンディーノが登場するようになってから、俄然面白くなります。トマ・フェルセンのとぼけたキャラクターを、シュールレアリスムの大冒険に変えてしまうモンディーノの奇天烈なアイディアには、まったくもって脱帽せざるをえません。このモンディーノ・アートワークの変遷を見るだけでも、このアルバム本を買う価値はあるでしょう。アルバム「魚の日("LE JOUR DU POISSON")」(1997年)に、ネクタイを鯖にしよう、とか、ポケットチーフを鯵の頭にしよう、とか、全部アドリブなんですって。この本の表紙の"PIECE MONTEE DES GRANDS JOURS"(2003年アルバム)のための、スパゲッティを櫛ですくう図(なぜこれが本チャンのアルバムではボツになったんでしょうね)の美しさは、マグリットを凌駕するものがあると爺は思うのですが。

 そして私が大好きだった2005年アルバム「狂人たちの館("LE PAVILLON DES FOUS")」の、まぶたの上に目をペインティングしたポートレイトも、まったくのモンディーノの即興で、フェルセンとモンディーノが大笑いしながら撮影していた光景が目に浮かぶようです。
 とぼけた美意識の持主トマ・フェルセンの手のうちがだいだいわかってくる、本当に楽しい本ですが、読むところは少ないです。手書き原稿などの図版はなくてもいいんではないでしょうか。そう思うと、ちょっとお値段が高いですね。

 Thomas Fersen "UN POIL DANS LA CHOUCROUTE"(EDITIONS TEXTUEL刊 2007年11月。120頁。29.90ユーロ)

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