2007年12月25日火曜日
バルバラ事件
どうにかこうにか、原稿を書き上げました。ヴァレリー・ルウーのバルバラ評伝『バルバラ/明暗のポートレイト』には驚かされる記述が多く、夢中で読みました。バルバラは死後10年間で聞かれ方/読まれ方がどんどん変わってきています。そのことを中心に原稿を書いたつもりなんですが、ほとんどヴァレリー・ルウーの受け売りになってしまったみたいです。ルウーは今、テレラマ誌のシャンソン評をよく書いていて、アラン・ルプレストのトリビュートアルバムを"ffff"で絶賛したのですが、その結論が
L'artiste a mal, mais n'a pas peur. Leprest sourit. « Pour moi, ça gazera mieux quand je serai devenu du gaz, quand je serai devenu du jazz, dans le sax du bon Dieu... » Il est, depuis longtemps, un gaz totalement enivrant.
(このアーチストは病んでいる、しかし恐れていない。ルプレストは微笑む「俺はガスになってしまった方がうまくスウィングするだろうさ、神様のサックスの中でジャズ気体になってしまった方がね」。彼はずっと前から全身が興奮ガスである)
と書いているんですね。爺の訳でうまく伝わるかどうかアレですが、背景を説明すると、実はルプレストは(こういうことははっきりと断言してはいけないことですが、多分)死期が近いようなんです。それをもうすぐ気体になって天国でスウィングするみたいに言うわけですね。それをルウーは、あんたはもともとガスなんだよ、と切り返すのですね。こういうこと書けるっていうのはすごいなあ、と爺はぶっ飛んでしまったのです。それ以来彼女が書くことは爺にはすごく説得力持っちゃってるわけです。ジャンピング・ジャック・フラッシュも実体はガスですけど。
で、バルバラなんですが、ルウーの筆にかかると、本当にジム・モリソンかジャニス・ジョプリンか、と思うほど、破天荒でロックンロールな生きざまがはっきりと見えてきます。めちゃくちゃによく笑う、冗談噺の名人である一方、永遠の不眠症者で死と隣り合わせに生きていたようなところも、すごいです。ルウーはやはり父親との関係がバルバラの生と歌を決定したという大きな軸論にしたがって書いています。死後1年後に刊行されたバルバラ自伝で父親との近親相姦が告白されたことが、バルバラの歌の聞かれ方を決定的に変えてしまったわけですね。「ナント」は父の死の前に会うことができなかったことを悔やむ歌ですが、その悔やみとは父と和解し父を許すということができなかったこと、とルウーは読みます。以来バルバラは父を許すということばかりを歌に盛り込んでいる、と言うのです。「黒いワシ」しかり、「リリー・パシオン」しかり。バルバラの歌を愛する人たちにはぜひ読んでいただきたい本です。
その原稿の終わりは、バルバラの代表曲のひとつである "Ma plus belle histoire d'amour c'est vous"を、大統領選挙敗北の総括本のタイトルにしたセゴレーヌ・ロワイヤルへの非難の文章で締めました。これは、本当にバルバラに対するリスペクトに欠けた愚行だと思います。カストール爺もたまには怒りの文章も書きます。
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1 件のコメント:
ラティーナ読みました。素晴らしい!と思いました。自分の掲示板にとりあえず感想を書きました。アーティストの背景を知ることが作品理解に必要なのかは大きなテーマだと思います。
ポップ・フランセーズも今月は更新できます。本年も宜しくお願い致します。
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