ファブカロ『5友団・危機一髪』
BD作家、小説家、脚本家、作詞作曲家、ロック・ミュージシャン.... などの肩書きを持つファブリス・カロ(時に略してファブカロ)の最新刊。近年はフレンチコミックの大古典『アステリックス』の第40巻「白いアイリス L'Iris Blanc」(2023年 150万部!)と第41巻「ルシタニアのアステリックス Astérix en Lusitanie」(2025年 200万部!)のシナリオも担当していて、オールラウンドで稼ぎ回っている観あり。
このパロディー元の主人公「5人」というのは実際には5人ではなく、少年2人と少女2人と一匹の犬であり、このメンバー構成はファブカロのパロディーでも踏襲されている。ー あ、これはパロディー元原題の「ファイヴ」も「サンク」も「人間5人」と限定している訳ではなく、単に数詞の「5」なので、人間x4 + 犬x1でも「5」で合っているわけだな。日本語訳として「5人」とする方が間違いなんだな。日本語が罠にはまったんだな。ごめんなさい ー そのメンバーとは
🖤 ギャランス ー 12歳の少女、青い目とブロンド髪のやんちゃでイタズラ好き。
♠️ ナタナエル ー ギャランスの兄で13歳、スポーツならば誰にも負けない活発な少年、5人組のリーダー格。
♦︎ アポリーヌ ー ブルターニュに住むギャランスとナタネエルのいとこ、ギャランスと同い年でブロンド髪、同じようにやんちゃでイタズラ好き。
♣️ ブルーノ ー 小さい頃両親を交通事故で失い、傷つきやすく繊細で泣き虫の13歳の少年、血縁あるアポリーヌの両親に保護され、アポリーヌとは兄妹同様に育てられている。
🦮 アッティラ ー ギャランスとナタナエルの家で飼われている栗色の犬、父シャルル・バレルの車庫入れ運転ミスで両の後肢を轢かれ、両後ろ足の代わりに車輪を装着され、4人と一緒に行動することはできるが、なかなか4人のスピードに追いつけない。
バレル一家(父シャルル、母クリスティーヌ、ナタナエル+ギャランス+アッティラ)は南仏コート・ダジュールの海浜避暑地ジュアン・レ・バン(”Juan-Les-Bains” - ジュアン・レ・パンのもじり)のビーチに近い閑静な邸宅街の中の豪奢なプール付きヴィラに住んでいて、アポリーヌとブルーノは学校のヴァカンス期にブルターニュからやってきて、バレル一家と一緒に過ごす。ヴィラにはジョゼファと名乗る(国籍不明の)家政婦がいて、おやつや料理が上手で子供たちには人気があるが、その何を言っているのかよくわからない(と彼らには聞こえるだけなんだが)フランス語を父と母は笑い物にしている。これがこの短編冒険小説の通奏低音になっているレイシスト・ギャグで、何かにつけてこのブルジョワどもは外国人と外国系人と貧乏人と左派系人を揶揄して笑い物にするというパターンのギャグが何度も登場する。たとえば5ページめにイラストつきで、母クリスティーヌが子供たちに「自分たちで朝食の後片付けなんかしないでね、ここはスロヴェニアじゃないんだから」などと言うのですよ。
さて、物語の始まりは夏ヴァカンスの始まりで、ブルターニュからアポリーヌとブルーノがやってくる。同じ日、バレル家のヴィラの隣の家に、引越トラックが家具を搬入するのを目撃。税金を逃れるために家を売ってモロッコに転居した前の住人に代わる新隣人か。どんな人間だろう?見ないうちからなにやら事件の予感。再会を果たした4人と1匹はとるものもとりあえず夏ヴァカンスの始まりを100%エンジョイしようと一目散でビーチへ。アッティラは後ろ脚車輪に砂が絡んでなかなか前へ進めないが、少年少女たちは知ったこっちゃない。青い地中海へバシャバシャ入っていくのだが、アポリーヌだけは生理中なので水に入れない。この”アポリーヌは生理中”というメンションが、物語中しつこく繰り返され、3人と同一行動がとれない時の理由がすべてこれになっている。生理中なので。いいのかなぁ、こういうのギャグにして。ま、このしつこさが、後半にアポリーヌの身に起こる災難を強調する下地にはなっているんだけど。3人が海から上がって、4人で浜辺でたはむれていると、アポリーヌの足元にコロコロとボールが転がってくる。ボールを追ってひとりの(日焼けでなくて肌の浅黒い)子供が4人の前に現れるが、その子はボールを指差すが一言もしゃべらない。ギャランスは”知的障害”じゃないの?と訝しがる。するともうひとり男の子と同じような人相をした大きめの(十代とおぼしき)少年が現れ、ギャランスに人差し指を立てて「そのボールは弟のものだ、いますぐ返せ!」と迫る。この敵意むき出しの態度に、4人はムッと来る。肌が浅黒く黒い髪をしたふたりの(明らかに)よそ者の子と、4人の視線がぶつかり火花が散る。絶対に怪しい。ボールを奪い取ってふたりは去って行ったが、4人はヴァカンス中にこの異人の子ふたりと一悶着あるに違いないと勘づいている。ここで、このブルジョワ子女らは子供ながらに露骨な偏見を丸出しにして、この異国人→移民/難民→犯罪者という”無邪気で幼い”連想から、このふたりを「ルーマニア人」と勝手に断定するのである。早くもファブカロ流不条理が全開。
その夕方、バレル家のヴィラに戻ると、隣に引っ越してきたソフィーとクリスティアンのデュヴァル夫妻を招いて歓迎のアペロ会をやると言う。新隣人はバレル夫婦と同じような年代のブルジョワ夫婦で、同じように陽気でよく笑い(特にソフィー夫人は大袈裟に笑い、笑うたびにドレスから片方の乳房が露出してしまう)、同じようなレイシストギャグを連発し、両夫婦は一夜にして意気投合してしまう。奇妙なことに夫のクリスティアンはアタッシュケースを携行してやってきて(一度置き忘れたことがあるので、二度とその過ちを冒さないように、どこでも持ち歩くようにしている、と言い訳を)、トイレに行く時もそれを離さない。「すみません、トイレお借りしたいのですが」ー「サロンを出て右の扉ですよ」。アタッシュケースを持って席を立ったクリスティアンは、サロンを出て右の扉に行くはずだったが、左の扉の部屋に入っていくのを目撃されている。その部屋はシャルル・バレルの書斎であり、机には仕事の重要書類が積まれている....。宵は進み、かなり重めの保守反動ギャグの連発でおおいに笑った4人の大人のアペロ会は散会し、面妖なデュヴァル夫妻は去り、少年少女たちとバレル夫婦はそれぞれの寝室へ。しかしナタナエルは昼のルーマニア小僧のことが気になったり、夜中に理解不能な母クリスティーヌの迷言が聞こえたり、眠ることができない。ここで詳説はしないが、実際その夜、さまざまな不可解で不条理なことがバレル家のヴィラで起こっていたのだ....。
事件発生。翌朝、父シャルル・バレルは、書斎デスクの引出しに入れてあったトップシークレット最重要ファイルCFRBLが無くなっていることに気づき、パニックに陥る。それは世界的大手ハードディスカウントチェーンLIDLに納められているラヴィオリ缶詰のパスタに包まれた具材の原材料明細が記載されているファイルで、これが万一悪人の手に渡り、世に公表されることにでもなれば、世界の食糧経済市場は大恐慌を起こすことになろうと言われるほどの...。シャルルは心当たりを片っ端から捜索してみるが、手がかりはない。困った困った。そこで、これまで幾多の事件を解決してきた(ということになっている)ギャランス+ナタナエル+アポリーヌ+ブルーノ(+アッティラ)の少年少女探偵団5人組の登場で、子供たちは余裕綽綽の體でこの事件に挑んでいく。なぜなら少年少女たちには既に犯人の目星がついているのだ。それは”ルーマニア人”に決まっている!
という次第で、この冒険物語は(ヴァカンスそっちのけで)5人の仲間たちによる”ルーマニア人狩り”となって展開するのである。町のルーマニア人たちが居そうなところを精力的に探し回る。スポーツならば誰にも負けないナタナエルは、はるか遠くにルーマニア小僧兄弟の姿を見てとり、自慢の瞬足であっと言う間に追いつき、おいっ!と肩を掴むのだが、(このパターン3度ほど繰り返される)、捕まえた相手は中国人だったり、ロマだったり、ドーブツだったり...。(このレイシスト偏見、ナンセンスギャグとして笑っていいものかどうか...)
少年少女たちの犯人捜索は難航する。敵もさる者で、真犯人から5人組に「ご苦労さま、私だったら、ジョゼファがクサいと思うんだが」とメモ書きが届き、おっとそれは気がつかなかった、と簡単に捜査方針を撹乱され、ジョゼファの動向を追跡してしまう...。だんだん訳がわからなくなって、捜査にも疲れてきた頃に、みんな、忘れちゃいけないよ、僕たちはヴァカンスなんだから、ヴァカンスも目一杯楽しまなきゃ、と、この提案に満場一致で、事件のことは一旦忘れてビーチへ海水浴に。夏の太陽の下、大はしゃぎの少年少女たちだったが、一人だけアポリーヌは生理中なので...。ひとりビーチタオルに寝転がって海にいる3人を遠くから見ていたが、これじゃツマラナイィィィっと辛抱できなくなって、3人に違う方角にバシャバシャ海に入っていく。生理中の少女が海に入ると何が起こるか?恐れていたことが現実になり、アポリーヌは潮にさらわれ沖へ沖へと...。助けてぇぇっ!と叫ぶ声、しかしその声を聞いた3人の友はそこから遠すぎる。そこへバシャバシャバシャっと力強いクロール泳法で助けに向かう少年あり。なんとそれはルーマニア小僧兄ではないか! アポリーヌは無事救出され、浜まで連れ戻され、3人の仲間たちに迎えられる。5人組のリーダーのナタナエルは感動し、ついさっきまで極悪人として追跡していたルーマニア小僧兄が大事な仲間のひとりの命を救ってくれたことに、これまでの誤解をすべて解いて、この新しい友人に心から感謝したい、きみに何かあったら今度は僕らがきみを助けるよ、永遠の友の契りをしよう、などと思ったりもしたのだが....。二人はお互いの住所連絡先を交換し、近いうちに再会してこの熱い友情の始まりを祝おう、と。
その夕刻、バレル家のヴィラに戻ると、今夜はこの前のアペロ会のお返しでデュヴァル家宅でアペロ会がある、と。デュヴァル家宅に行くと、ものすごく美味しそうな香りが。わ、これは素晴らしいご馳走が期待できますね、とシャルルが言うと、ソフィー・デュヴァルは「とんでもない、これはあなたたちが帰った後の、私たちの夕食の料理ですよ、あなたたちにはTUCクラッカーを用意してありますよ」と。こういうファブカロのギャグ回し、たまらんですね。ちなみにこのベルギー産の超安価クラッカー、私も大好きで、(ポテチやえびせんに対抗できる)やめられないわが家の常備スナックとなっているのだが、少年少女5人組のひとり(気弱で泣き虫の)ブルーノが、なんと”TUCアレルギー症”だったのだ。しかし気弱で人にそれを気づかれまいとしてブルーノは何気ない顔でTUCをバクバク食べて、アペロ会の雰囲気を壊すまいと健気な努力を。だがある程度時間が経過するとトイレに急行せざるを得ない。たまらずデュヴァル家宅のトイレに向かい、症状の落ち着きを待って、再びサロンに戻ってくる途中、開いていた部屋の中に見えたものは!なんと! ー ブルーノは少年探偵の端くれであるから、ここは落ち着いて、こっそりとギャランス、ナタナエル、アポリーヌに合図を送り、大人たちの人目を避けて、一緒にこの部屋にあったブツを確かめに....。それは紛れもなくシャルル・バレルが失ったトップシークレット最重要ファイルCFRBLであったのだ。なんということか。少年少女探偵団5人組は勝ち誇ったようにブツを手にして、サロンに戻り、大人たちの前で、どうだ!これで事件解決だ、と見栄を切る。
するとデュヴァル家当主クリスティアン・デュヴァルは、少しも慌てず、自分の首に両手を当てて、シリコン仮面を脱ぎ外し始め.... ふっふっふ... 実は私の正体は... と暴露しようとしたが、少年少女探偵団リーダーのナタナエルはそれを制して、「僕たちは真犯人を知っている!」と宣告。大人たちは仰天し、一体それは誰なんだ?とナタナエルが開陳する名推理に恐れ入って傾聴する。「それはルーマニア小僧兄弟さ!」ー あの目つきの悪い肌の浅黒い兄弟が、どのようにして5人組に接近してきて、情報をすべて傍受し、バレル家とデュヴァル家の住宅構造を知り尽くし、どこにあのファイルがあり、どこに盗み出したファイルを保管するのが安全かを研究した結果、デュヴァル家の書斎に何気なく置き、今晩寝静まった時間に取りに来ることになっていた、と。さすが、5人組少年少女探偵団、お見事。
シャルル・バレルは早速警察に通報し、ナタナエルが持っていた小僧兄弟の住む難民キャンプに一斉捜査の手が入り、難民たちはルーマニア人ではなくシリア人であったがそんなことは知ったこっちゃない、すぐに国外退去・強制送還の処分が下る。めでたしめでたし。少年少女たちのヴァカンスはまたこの夏も素晴らしいものになった。完。
おいおい....。ファブカロの手癖足癖だけでちょいちょいとお手軽に作ってしまった(ほぼ)駄作。不条理ギャグの連発の出来不出来よりも、そのいくつかのレイシスト加減はかなり胸につかえる。コート・ダジュール、ブルジョワのヴィラ、白人子女... これだけでレイシスト環境は揃っているのだが、1年後2027年に極右の大統領が誕生してしまうであろうこの国の空気というか、マジョリティー(極右でもかまわないよぉ〜と悠長に構える人々が多数派)のうすら笑いというのが、私には勘弁してほしいと思うところである。
こういうおちゃらけたパロディー作品でも、発売時(2026年4月)には書店ベストセラーのランキングされていて、もはや「ファブカロ」「ファブリス・カロ」印がついていれば自動的に売れてしまう勢いがあるのだろう。ちょっと情けない。”純文学小説”で還ってきてくれ。
Fabcaro "Les cinq ami·e·s l’échappent belle in extremis”
6Pieds Sous Terre刊 2026年4月17日 100ページ 14ユーロ
カストール爺の採点:★★☆☆☆
(↓)この作品を作った動機について弁解するファブカロ。























